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【これは現代の新たな民話か】映画『LAMB ラム』感想

アイスランドの田舎町で羊飼いを営む夫婦。ある日飼育している羊が「羊ではない何か」を生む。夫婦は「その羊ではない何か」を自分の子供として育て始めるが…

映画『LAMB ラム』は2021年に製作されたアイスランド・スウェーデン・ポーランド合作の映画だ。監督はアイスランド出身のバルディミール・ヨハンソン。これまでに『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』などで特殊効果を担当しており、長編作品は今作が初となる。

主人公のマリアをつとめるのは『プロメテウス』、『ミレニアム』シリーズのノオミ・ラパス。夫のイングヴァルを演じるのはヒナミル・スナイル・グブズナソン。

この映画、製作総指揮にタル・ベーラ監督の名前がクレジットされているが、ヨハンソン監督はタル・ベーラ監督が設立したサラエボの映画学校の生徒ということで映画の資金集めの際に名前を貸して貰ったらしい。

作品からはタル・ベーラの影響はそこまで感じなかったな。

本作は、第74回カンヌ国際映画祭のある視点部門を受賞し、アカデミー賞国際長編部門アイスランド代表作品に選出されるという快挙を遂げている。

A24が配給に携わったということもあり、日本でも注目度は高く、公開3日間で興収3000万円を突破するというヒットを飛ばしている。

筆者は10月1日にミッドランドシネマ名古屋空港の8:30からの回で鑑賞。お客さんは15人程度で客層もさまざまだった(なおパンフレットは売り切れでした)。

親子連れや夫婦や1人客など本当さまざま。

本作の印象を一文で表すと、アイスランドに伝わる民話か伝承を映像化したような作品だと感じた。予告編から感じるほどサスペンスやスリラー色は強くないため、そこを期待して観ると肩透かしくらうかもしれない。

後、劇中に登場するアダちゃんが可愛い(公式が宣伝に使用しているのでネタバレじゃないよね)。

観ながら脚本について思うこともあったので、そこら辺も含めて下記の感想にまとめてます。ただし、感想は鑑賞済み前提で語っているため、ネタバレについては自己責任でお願いします。

以下、具体的なネタバレについて触れているため、未鑑賞の方は自己責任でお願いします。


2021年製作/106分/R15+/アイスランド・スウェーデン・ポーランド合作

【感想】

人間のエゴを描いた作品なのかな。これアダを人間に置き換えると何ともえげつない話になる。マリアは母羊から子供を奪い殺すという罪を犯した。だから最愛の夫を殺されアダも奪われてしまう。人間のエゴに対する自然の戒めみたいな話だと捉えた。

観た人の感想を読むとけっこう賛否両論だ。否定的感想の中に「何が言いたいのか良く分からない」という感想をいくつか見かけたがそれも分かる気がする。観てて時折「何を見せられてるんだろう」と感じる場面があった。

一番分からなかったのは、イングヴァルの弟ペートルが登場する意味。彼の登場によって映画内に不穏な空気が立ち込めるが、特に何もすることなく退場していく。特にペートルは「マリアが母羊を殺し埋めている」という重要な場面を見ているのに、その伏線も大した意味をなしていない。

「マリア」という名前や、アダが生まれたのがクリスマスということから、本作の脚本は聖書をモチーフにしてるんだろうけど、ペートルの登場にも宗教的な比喩とか暗喩の意味があるのだろうか。個人的には映画に緊迫感を与える以上の意味を見いだせなかった。

他にも、物語が進むうちに夫婦が「アダ」と呼ばれる子供を亡くしていたことが分かるが、これも夫婦の迅速な行動を考えるとそこまで驚きは感じない(自分は夫婦が子供に恵まれていないから、受け入れたのかと推測していた)。

正直、演出や展開に特筆すべき魅力は感じなかった。「奇抜な設定のわりに物語の展開が平坦」ということも賛否両論の理由の一つとして考えられるのかもしれない。

否定的なことばかりを書いたが、映画自体は決してつまらない訳ではない。むしろ筆者は好きなタイプの作品だ。

その理由はアダちゃんの可愛さ。アダちゃんが想像以上に可愛いのだ。正直、鑑賞前はアダちゃんに興味がなく、宣伝会社のプロモーションも真顔で観てた(アダちゃんが都内をあれこれ回るという企画)が、鑑賞後はアダちゃんの魅力にすっかりやられてしまった。

アダは人形・子役・羊という3段階を経て撮影したということでこだわりが感じられる。

ヨハンソン監督のインタビューを読むと、そもそもアダちゃんのイメージを思いついたことが製作のキッカケだったということで、ここまで魅力的なのも納得。

監督はヴィジュアル先行で本作を製作したとも語っているが、確かに人里離れた小屋という舞台は、それ自体が閉じられた空間だしアイスランドの広大な自然は何が起こっても不思議ではない。確かに脚本より映像がこの映画を物語っている。

また、本作はアダちゃん以外にも犬や猫などの動物が登場する。本作のことを「ネイチャースリラー」と称している記事があったけど、「ネイチャー&アニマルスリラー」と呼ぶ方が相応しいのかもしれない。

登場の意味が良く分からないと述べたペートルだが、どんな人もアダちゃんの可愛さにほだされていくという意味があったのかもしれない。

『LAMB ラム』のグッズのオンラインストアのHP。現時点では売り切れ品が多いけど再入荷もある…

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