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【地獄へ追いやるのは悪魔か?家族か?】映画『ウィッチ』紹介

2017年に公開された映画『ウィッチ』。村を追放され荒れ地へ越してきた家族を襲う悲劇を描いたA24製作のホラー作品で、サンダンス映画祭監督賞をはじめ、世界中の様々な映画祭で高い評価を得た作品だ。主演は『スプリット』(2017年)、Netflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』で大活躍中のアニャ・テイラー・ジョイ。監督のロバート・エガースは今作が初監督作品となる。同監督の『ライトハウス』が7月9日に公開されるということで、予習も兼ねて鑑賞してみたが、もっと早く観ておけば良かったと後悔したくらい素晴らしい作品だった。今回の記事では、本作を未見で気になってる人へ、本作の魅力や面白いと感じた点を紹介していきたい。特にアリ・アスター監督作品が好きな人には、強くお薦めしたいので、興味を持った人は読んでいって欲しい。

まず、本作は雰囲気が抜群に良い。本作は1630年代のニューイングランドが舞台となっているが、一家が住むことになる荒れ地の寒々しさや、どんよりとした曇り空など、全編通じて陰鬱な雰囲気が凄い。ロケーションだけでなく、登場人物達の硬い表情や、一家の貧しい生活ぶりなども、観てて重苦しい気持ちにさせられる。
ロバート・エガース監督は当時の時代を再現することに徹底的に拘っており、当時の資料などを徹底的にリサーチしたとのこと。例えば原題の『The Witch』の『W』という文字がポスターだと『VV』になっているのは、1630年代頃は実際にWをV2つで代用している書物が多かったから。

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劇中の登場人物達の台詞にも監督はこだわっている。監督は本作を製作するうえで『セイラム魔女裁判』にまつわる資料を参考にしており、本作の登場人物達の台詞の大部分は、それらの資料から引用したそう。
この徹底したこだわりが、本作をよりリアルで不気味な作品へと仕上げている。

【アリ・アスター監督作品との類似性】

次に物語だが、本作では『キリスト教信仰』がテーマの一つとなっている本作には、キリスト教絡みのモチーフが多く登場する。黒山羊、ウサギ、リンゴ…物語は謎を多く残して終わるため、観終わった後に考察記事をググりたくなることだろう。
日本では2017年公開の作品ということで、既にネット上には多くの考察記事が挙げられている。筆者もいくつかの考察記事を読んだが、共通しているのは、解釈は違えどキリスト教がベースとなっているということ。それぞれの考察記事でも解釈が異なるが、作品のまた別の面が見えるのが楽しい。

(ちなみに下記の記事は考察記事の中で、特に参考になったと感じた記事。海外のサイトを参考にしており、映画の舞台背景から書かれていて読み応えあり)

そして『家族不信』と『女性の抑圧』という社会的テーマが描かれていることも注目すべき点だろう。立て続けに悲劇が起こったことで、魔女だと疑われるトマシン、父のウィリアムも我が子を信じることができなくなっていき、家族は次第に疑心暗鬼になっていく。

本作を観て思い出したのがアリ・アスター監督の『ヘレディタリー 継承』(2018年)だ。あの作品も悪魔によって崩壊していく家族を描いた作品だったが、どちらも身内の不幸によって、家族が互いを信じきれなくなるという点で共通している。本作では「信仰>家族」であったがゆえに、こうした悲劇が生まれた訳だが、どちらの作品も家族を「救い」でなく「恐怖」として描いているところが面白い。(奇しくもどちらもA24製作作品という点も面白い)

下の画像は両作品の食事シーン。どちらも家族が食卓を囲む場面がキツイという点も共通している。『ウィッチ』は蝋燭の灯りだけで撮影しており、当時の雰囲気を再現してることが伺える。

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もう一つが『女性の抑圧』という現代的テーマ。初潮を迎えたトマシンは、女性であるがゆえに奉公へ出されそうになるし、家庭内での立場も弱い。頼るにはあまりにも心もとない父ウィリアムの行動にも、家父長制であるがゆえに黙って従わざるを得ない。印象的なのが、街に行こうとしたウィリアムに母キャサリンが「あなたがいなくなったらジョナ(双子の男の子)のいう事を聞けっていうの?」と問う場面。この台詞からも、当時の男性>女性という図式が伺える。

本作は正統派なホラー映画であるが、その中にこうした現代を象徴するメッセージが含まれているところも本作の魅力の一つといえる。

家族からの疑いの眼差しに性差別、様々な重圧がトマシンを追い詰められ、あのラストになる訳だが、ラストのトマシンの表情からは、『ヘレディタリー』と同じくアリ・アスター監督の『ミッドサマー』(2020年)を思い出した。両作品を観て貰えれば分かるが、どちらも外部からの抑圧から解放されたかのような表情が共通している。
こうした共通点から、アリ・アスター監督作品を好きな人は、きっと『ウィッチ』も気に入るんじゃないかと思う。

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徹底した雰囲気作りによく練られた脚本。これだけでも本作は素晴らしいが、本作の魅力をより引き立てているのが、アニャ・テイラー・ジョイの素晴らしさ。全体的に灰色がかった映像のなかで、アニャの色気と美しさが、より際立っている。ケイレブが情欲を抱くのも、母に嫉妬もされるのも納得できる。少し目の離れた特徴的な顔立ちは、(本人はコンプレックスだったらしい)、ホラー作品との相性は抜群だと感じた。

ウィッチ② (1)

アニャは本作で、第70回英国アカデミー賞の新人賞にあたるライジングスター賞にノミネートされ、この後にM・ナイト・シャマラン監督の『スプリット』(2017年)でヒロインに抜擢されることになる。


今現在のアニャはまさに大ブレイク中で、『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)『ベイビー・ドライバー』(2017年)のエドガー・ライト監督の新作ホラー映画や、『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』(2015年)に登場したフュリオサの若き頃を描いたスピンオフ作品に出演することが決定している。また、本作のロバート・エガース監督の新作『The Northman』への出演も決定しているなど、まさに大忙しの状況だ。
アニャだけに言及したが、トマシンの家族、特に弟のケイレブを演じた子役(ハーベイ・スクリムショウという名前らしい)の熱演も素晴らしかったことも記しておきたい。

ウィッチ① (1)

ということで、いかかだっただろうか?もし今回の記事で興味を持った方がいたら、是非この機会に観て欲しい。また、ロバート・エガース監督の新作『ライトハウス』も面白そうなので、こちらも興味を持った人はチェックしてみてはどうだろう。

(Amazon Primeほか、Netflix等配信、TSUTAYAレンタルなど鑑賞可能)








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