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シモキタカレッジのひみつ

HLAB Incは、「学寮(カレッジ)生活を中心としたリベラル・アーツ教育」というコンセプトのもと、東京、長野県小布施町、徳島県、宮城県女川町で、1週間、国内外の大学生と高校生が寝食をともにしながら学ぶサマースクールを10年にわたり開催してきました。そして、2020年12月に開校したのが、レジデンシャル・カレッジ(居住型教育施設) であるSHIMOKITA COLLEGE。社会人、大学生、高校生が「共に暮らしながら学ぶ」という、全く新しい日本教育のかたちを提言する今回のプログラムについて、HLABの人たちの頭の中は、どんなアイデアでいっぱいなんだろう?HLAB代表理事の小林 亮介さんと、理事・COOの高田修太さんに話を聞きました。

Q. SHIMOKITA COLLEGE の構想を実現するべく長年に渡って奮闘してきたお2人ですが、それぞれ異なる共同生活を経験してきたと思います。SHIMOKITA COLLEGEがどのような場所になることをイメージしていましたか?

小林 僕自身は、ハーバード大学の寮生活が原体験になってます。英語が喋れなくて辛かったから、人と交流しなきゃと思う一方で、億劫になるわけですよ。そういう人たちにとって、寮がやってくれることって、人との接点が生まれる時のコストを極限まで下げてくれることでした。
人が行動に移す時って、とてもベネフィットが高いので能動的に行動するか、とてもコストが低いから受動的に行動するかのどっちかだと思います。「そこにたまたまいる」っていうのは、その人に会いにいくのに極限までコストが低い状態。なんなら、その人に会うためにアディショナルで何もコストを払ってない状態。だから、敷居の低さっていうのを作っていくっていうのを非常に大切にしてました。

高田 僕も、いろいろな共同生活の経験があります。Wikipediaに載っているくらい有名な、60歳超えてるプロレスラーと一緒に住んでた時期もあったし、大学4年生の時には、アメリカの大学に交換留学で寮に入って、ルームメイトは大学1年生2人だった。自分が経験していた共同生活では、世代が超えた交流がいつもあったんだよね。だから、社会人、大学生、高校生に入居してもらうことにこだわりたかった。そういう交わるはずのなかった人たちが、アジェンダもなく、偶然一緒にいるという空間を再現したいなっていうのが、シモキタカレッジでやりたかったことです。あとは、「毎日が修学旅行」っていうのを、キーワードとしてよく言ってたよね。

Q. 実際にSHIMOKITA COLLEGEに住んでいる人たちからも、「アジェンダがない会話」こそがここの魅力だと聞きます。「アジェンダがない会話」には、どのような価値があると考えていますか?

高田 アジェンダがない会話って、その人の感性とか、最近のインプットが反映されるなって思います。最近みた映画についての感想について話すかもしれないし、時事問題への意見を共有するかもしれない。そうやってランダムに話を初めてみたら、もしかすると相手が専門家だったってこともありうる。話さなければいけないことがないからこそ、その人のいろんな面が見られることに価値があると思う。もっというと、一緒に住んでいるなら、別にそれが「会話」である必要もないって昨日気づきました。誰かが勉強してて、読んでる本とか見えるわけじゃん。例え話さなくても、「あの子が読んでるってことは面白いんだろな、読んでみようかな」って思うかもしれない。

小林 本当にその通りで、HLABは「知らない世界を知る」っていう要素を大切にしています。例えば、ある分野の授業を履修しようと思うためには、そもそもその分野との接点が必要ですよね。必ず、ファーストハンドの情報って、パッシブに入ってきてる。テレビかもしれないし、親とか友達かもしれないし、たまたま周りにいる友達だったかもしれない。我々がレジデンシャルカレッジを通じてやろうとしてるのは、「パッシブに入ってくる情報をどれだけデザインできるか」ということなんです。

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Q. そうした場所をデザインする上で、やはりそこに住んでいる人がどれだけ情報を持っているかが鍵になると感じます。SHIMOKITA COLLEGEに、どのような入居者がきてほしいと思っていますか?

高田 何か1つ探究してるものがある人。なんでもいいんだよね。今入居している人だと、大学で研究に専念している人とか、自分のビジネスをやっている人もいるけど、今いったようなわかりやすいキャッチーなものである必要もない。「実はギターの弾き語りをYouTubeで配信してて、けっこう再生されているんですよね」とかでもいい。
あとは、多様性に対しての許容力も大切にしています。人間だから好き嫌いはあるんだけど、すごいところは認められる、そういう人にきてほしいかな。

小林 設計する上、「何かを突き詰めたいことがあって、それに向けて前向きにやっている人」っていうのはあるんだけど、お互いの存在により、期待値設定が行われることの方が重要だと僕は思っています。例えば、本当は自分の部屋でYouTubeばかり見ている人だったとしても、1時間外に出て本を読んでるのを他の人が見たら、「何かを突き詰めたいことがあって、それに向けて前向きにやっている人」に見えるんだよね。少し焦って、自分もそうしようと思うかもしれない。それによってお互いの学びが豊かになるような設計にすればいいと思っているから、極論誰がきても面白いと思っています。

Q. 12月にオープンしてから、2ヶ月くらい経っていますが、実際の様子を見ていてどう感じていますか?まず、実際にSHIMOKITA COLLEGEに入居している小林さんはどうでしょうか?

小林 お互いの気づきになる瞬間がたくさんある場所になってほしいと思っていた一方で、何のテーマもない日常生活で、そういう瞬間が生まれるのって難しいのかな、ということについては懸念してました。でも、住んでいるからこそみれたのは、意外と午前1時とかにそういう会話が生まれていること。
2点目は、今0期生として入居してくれているみんなが文化を作っていく中で、「0期生だからやらされる」という感じになっちゃうのかなっていう危機意識を持ってたんだよね。だけど、カレッジ内でのイベントとか、こういう雑誌制作とか、楽しみながら動いてくれる人が多かった。そういう空気ができたのは素晴らしいなって思う。

高田 僕は入居はしてないけど、夜遅くまでカレッジにいるようにしている中で気づいたことが、割と大事なことは夜に起きてるってこと。「大事」って何が大事かっていうのはうまく言語化できないんだけど。昼はある意味オンの時間で、各自学校とか、仕事とか、やらなきゃいけないことがある。でも夜は、自由にリラックスして過ごしてる時間だから、構えてないからこそ、本音も出るんだと思います。歯を磨きにいって、たまたま誰かに会って話し始めるとか、そういう瞬間を大切にしたいね。

Q. こうした新しい取り組みに、地元の方も興味を持ってくださっているようです。下北沢の開発という文脈のなかで、カレッジはどういう位置付けでありたいと考えていますか?

小林 HLABのサマースクールも、「どうやったら多様な人がお互いに出会えるのかを意識してるまち」をパートナーとしてきました。下北沢は、その延長線上に乗っていてフィットするなと感じています。下北沢においても、「こういうユニークな人たちが住んでます」って可視化された形で住むっていうのは今までなかったと思うし、まちの多様性に1つ加えられるのかなと思っています。
逆に、まちの多様な顔、っていうのがなんらかの形で、カレッジに入ってくるような運営ができると、理想的だなって思うよね。自然とその人たちが足を向けてくれるっていう状態に価値があると思う。アドオンで多様性を加えていくっていう観点と、溶け込んでいくっていう観点、両者があるといいなと思っています。

高田 12年前、東大の駒場生だったころ、たまたま友達がシモキタのバーでバイトをしてたのでよく来てたんですけど。意外と、そこで会って話す人は、シモキタに住んでる人じゃなくて、シモキタに何かやりにきてる人が多かったんだよね。だから今も、カレッジみたいな、シモキタに学生層がバルクで住んでるっていうのはないから、それ自体が、すごくまちにとって面白い取り組みなのかなと思います。僕たちはよそ者なわけですよね。だけど、それによってもたらせる新しい視点とか、新しく始められることって絶対あると思うんだよね。シモキタらしさをリスペクトしているからこそ、さらにポジティブな部分を若手が提供しながら、馴染んでいきたいっていうのを思っているかな。

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Q. 最後に、シモキタの開発のテーマであるBe Youにまつわる質問で締め括りたいと思います。高田さん、小林さんは、Be Youをどのように体現していきたいと思っていますか?

高田 SHIMOKITA COLLEGEには30名の居住者がいるけど、これから100名にまで増えていく予定です。そういう中で、ホームとしての家、になっていったらいいなって思ってる。自分の部屋だけじゃなくて、1階2階も。まさに自分らしく、Be Youであるような生活を送ってほしい。例えば、ギターが4階にあるけど、自分の家で恥ずかしいからギター弾かないとかないじゃん。家なんだから弾きたい時に弾けばいい。各々が自分らしくいられる場を提供したいですね。

小林 自分も含めてですけど、自分のことを負い目に感じないこと。「こういうことが期待されている」という考えにとらわれてしまうと、そういう風になれないいう自分に負い目を感じてしまうと思うんだよね。でも実際は、それぞれが自然にいる方が、他人にずっと大きく貢献できるはず。SHIMOKITA COLLEGEに住んでいる人それぞれが、自由にやりながら、お互いに良い影響を与え合う、そういう仲間になれればいいなと思っています。


「自分がここにいていいのか?」「みんなみたいにかっこいいことをしなきゃ!」そんな心配から、自由になれる場所がSHIMOKITA COLLEGEなのだと感じました。自分が自分らしくいることで、友達が自分らしくいることで、ただシモキタにいて生活しているだけで、確かに何かが生まれる偶然に、居住者の1人としてわくわくします。小林さん、高田さん、ありがとうございました!

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