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不老ということ

オレはもう、八百年ほど生きている。

そう聞かされて、にわかに信じる人はあまりいないだろう。
いま、目の前で話している友人が突然、話を切り出した。
新宿にある、ショットバーである。

「はいはい。酔ってるだろ」
「いや、それほどでも。思い出したんだよね、ここに前に来たこともあるけど、、、」

分かりにくい話だったが、彼はこのバーに10年前に来ていて、そしていまここにいて、更に20年後にもここにいたのだ、と言う。

「それは将来の自分の行動の予言か。ならば、20年後に来れば当たりだね。けど、その時までこのバーがあるとは限らないだろ」
「いや、あるんだよ。オレは来ていたんだから」
「20年後に来ていたって、日本語がおかしくないか。来る予定にしている、なら分かるけど」
「もう少し細かく言うと」
友人はグイっと水割りを飲み干した。
「今から100年ほど先の世界から、300年ほど昔に戻っているのさ。今は2周目だ。だからオレは元禄の頃の生まれさ」
元禄は1688年から1703年までの16年間ほど続いた時代のようだ。
「今は300歳と言いたいところだが100年先の未来から、300年前の時代に戻っている。なので厳密には700歳だろうけど、100年先の記憶があるから、800年生きているってことになる」
「その割には見た目あまり俺と変わらないじゃないか」
「ああ、理由がある。旅芸人をしていた頃、巡業先で変な干物を食った。それ以降、一座のものは死んでいくのにオレはとりあえず元気でいる」
干物はなんだかわからなかったらしいが、それ以来、加齢を感じることがないと言う。

(2020年、下書き)

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