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ボウリング

「先輩、多分一本も取れないですよ」

そのゲームはボーリングと同じく並んだピンを倒すものなのだが、仕掛けを利用しなければならない。
元はレーシングゲームだったのだろう。ドライバーズシートのような椅子と、シフトレバーが床から伸びている。その先に、フリップが付いた箱がある。そのフリップに、重さがかかるとフリップが外れ、オモリが箱の中に流れ込む。その先はよく見えないが、パチンコ台のように乱雑な釘とデジタル表紙がある。そして、最終的に大当たりになると、玉が発射されピンを倒す仕組みになっているようだ。

フリップまで1メートルほどの距離がある。乗せるべきオモリが見当たらない。しょうがないので、携帯電話を代用することにした。

携帯電話を放り投げると、外れる。何度かリトライできるらしい。落ちた携帯電話を拾い、また戻って投げる。3回目にフリップに乗った。けど、重さが足りないのか、フリップは軽く沈んでまた戻った。

「投げられるのは携帯電話本体のみ」

係りの人間が大声で威嚇してくる。

「ケータイならいいんだわな」

そういうと、オレはポケットとカバンから3台のケータイを取り出した。

「それ」

次々とケータイを放り投げると、全てフリップに乗っかった。
フリップは完全に沈み込んだ。
そして、細かなギミックを経て玉が発射された。
三角形に並べられた10本のピンは、全て倒れた。

「え、、、先輩、倒しちゃいましたね。スゲー」

周りの客からも、称賛の声を浴びた、


「この患者さん、やっと落ち着きましたね」
「そうだな。ケータイ依存症とカキコミシンドロームの治療はやっと終わった」
「先生が作った夢の中のゲームが効いたんですね」
「いや、これがね」
先生がつぶやくように言った。
「クリアするのが難しいように作ったのだけど、前のバージョンではクリアできない設定になっていたから、各所から非難轟轟だったのだ。クリア一号目がこの患者だが、どこまで効いたか。しばらく観察だな」

目が覚めたらケータイ電話がなくなっていた。
目覚めの直後、一切、カキコミを見なくても気にならない。その代わり、全ての連絡先を失った。けど、それもいい。もう誰の評価も気にせず、生きていけるのだから。何にも束縛されず生きていけるのだから。

(1999年、下書き)

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