設計者の責任について考える

朝からネットニュースを見ているととある記事が目に止まった。

「クニマス未来館」訴訟が和解、設計者が市に300万円支払い

事の顛末はこうだ。

設計事務所が施設の工事費を算出して提出したがミスが見つかり、当初より予算を2000万円増額になった。その分の工事費を設計事務所が負担せよという裁判の判決が出た。地裁では設計者の全額負担。高裁では和解を勧められ、300万円で和解したという。

正直ビックリした。

そこまで設計者の責任を求められる世の中になっているとは…

公共工事の場合、工事発注前に設計者が設計した施設がどの材料をどれくらい使うのかなどの数量算出した積算作業も行う場合が多い。

工事業者の入札時にその数量を基に各業者は見積もりをし、工事費を入札する。

その工事業者の入札前に予定落札金額を算出するために設計者もそれぞれのメーカー等から設計見積もりというものをお願いし、ある程度根拠のある予定工事費を算出する。

今回はその予定工事費の算出にミスがあったというわけだ。

設計者の出した予定工事費は予算を取得するためだけの目安を示す書類である。

予定工事費算出の基になる設計見積もりは各種メーカーからお願いしてとるが、工事費算出に組み込むときは1割から2割くらい値引く。

これは定価と卸値の違いを想定しているためだか、その値引率には何にも根拠はない。

一応ヒアリングという形はとるが、8割と聞いていたものが実は4割で卸していたりする。

それが工事業者の利益になるのだから当然だ。

その設計見積もりと実際の見積もりが乖離しているものが何十、何百という項目が積み上がさり、予定工事費になるのだからとんでもない差が生まれる。

ここで問題になるのは設計者が予算取得のために算出した工事費がミスという形があったにせよ裁判までに発展しているという事だ。

ある一定の金額を超える公共施設を建てるには地方議会の承認を取らなければならないのが一般的だ。

おそらく今回の場合、議会で予算承認を得た後に増額承認を得なければならないということになり、議会が紛糾したのだろう。

設計者のミスなのだから設計者に負担させれば良い。声の大きい議員が言ったのだろう。

結果、そういう理由にしなければ工事着工ができないと役場の担当者に泣きつかれやむを得ず覚書を交わしたのだろう。工事着手して後で調整しようと…しかし、竣工後、書類があるのだから払えと

普通は納得するはずもない。結果裁判…しかも一審は設計事務所の敗訴。

予算を確保するためだけの根拠の曖昧なものが世の中では責任の担保になり、設計者の責になっているのだから驚きだ。

設計者が誰かを損させた訳でもないのに…

確かに設計者としてはどうやったらどれくらいかかる、その予算ではこれくらいのスペックの施設が建てられる、こういうことをやりたければこれくらいお金が必要というコスト感覚は1つの資質だとは思う。

だか、その感覚は確実なものではなく工事業者の領分なので、その確実性を求めるのは過剰な要求だと思う。

設計者は自分の頭の中で考えたものが形を残しが長いこと使われる素晴らしい職業だと思う。

近年、かの有名な姉歯事件から設計者の責任は大きく、求められる要求は増え続けている。

このまま、設計者の求められるものが過剰に増え続けていくのであれば、その内誰もなりたくない職業になってしまうのではないだろうか…

やりがいの搾取とならないで欲しいものだ。

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