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作りたい、食べたい、あなたと

ゆざきさかおみ さんの書いた漫画、「作りたい女と食べたい女」を読みました。

こちらは、食事を「作りたい女」である野本さんと「食べたい女」である春日さんが、色々な美味しいものを作ったり食べたりする中で、交流を深めていく物語です。

作中に出てくるお料理が、とにかく美味しそうなんです。野本さんの盛り付けや春日さんの食べっぷりが相まって、食後に読んでもお腹が空いてきます。

しかしながら、「食事を作る」、そして「お腹いっぱい食べる」。一口に言えば只の日常の動作の一つなのですが、「女性が食事を作る」、「女性がたくさん食べる」となると、そこには不躾な社会の視線や台詞がついて回ります。

例えば、1巻の作中で、契約社員として働く野本さんは(昼食代の節約もかねて)自作のお弁当を会社に持って行っています。
自分で鮭を焼いて身をほぐして入れたおにぎり(美味しそう!)を自席で食べていると、男性社員が野暮用で声をかけてきます。するとその人は突然、野本さんの手作りのお弁当に「あっ野本さん、自分でお弁当持って来てるんだ」と興味を示します。
しかし、その直後、「すごいな~、俺、ぜったい無理」と、自分は作る人間ではない、ということを聞いてもいないのに言ってくるのです。

野本さんもこれには少し困惑しながら、一応、「簡単なものばっかりだし」「作るの好きなので…」などと当たり障りのない会話をします。

すると男性社員はいきなり、彼女の隣の席に座りながら、「仕事も家事もできるって感じ」、「いいお母さんになる」、「俺も彼女には弁当作ってもらいたいな」などとべらべらと野本さんに向かって喋り出すのです。

彼が離れて行ったあと、野本さんは自分の席で思います。

「自分のために好きでやってるもんを、『全部男のため』に回収されるの、つれ~~な~~~…」

どうして女性が料理好きなのは「男のため」「男性相手の趣味」となるのでしょうか。

女性が誰かに料理を作るのは、その「誰か」が男性だからなのではなく、「喜んでほしい相手」だからだと、私は思います。

勿論、男性が誰かに料理を作ることもあります。しかしそれに対して、「女性のため」「女性相手の趣味」と決めつけられることは少ないのではないでしょうか。

この後、野本さんはストレス発散もかねてスーパーで大量に食材を買い込み、一人では到底、食べきれない量の料理を作ってしまいます。そしてその時、彼女が思い出したのは、同じアパートの「隣の隣の部屋の人」である春日さんだったのです。

それは以前、春日さんとたまたま一緒にエレベーターに乗ったとき、春日さんがファストフード(フライドチキン)の入った箱やバケツを幾つも持っていて、しかもそれを一人で食べる、と言っていたことが気になっていたからでした。

野本さんが惚れ惚れとするくらいの食べっぷりの春日さんと、大皿料理も含めて色々な料理をたくさん作りたい野本さんは、「料理を作り、食べること」を通じて段々とお互いのことを知っていきます。

しかもこの春日さんも、女性ゆえに、「食べる」ことに関して過去に思うところがあったようで……。気になる方は漫画本の2巻を読んでみてください。

2巻の帯には「好きなひとと、好きなごはんを」というキャッチフレーズが書いてありますが、この言葉に尽きると思います。この言葉の後には「作りたい」「食べたい」、色々な言葉が続くと思いますが、私は「一緒に楽しみたい」と続けたくなります。

勿論、作るのが好き、食べるのが好き、というのは彼女達の個性の一つです。
しかしそれらが出会った時、一緒に楽しむ相手が出来た時、「作る」「食べる」以外の時間も一緒に過ごしたいと思った時、それは彼女達一人ずつでは完結できなくなり、お互いに影響し合う、切っても切れない関係になっていくのだと思います。

KADOKAWA社から出ているこちらの「作りたい女と食べたい女」(ゆざきさかおみ著)、現在2巻まで出ています。「料理を作ることが好き」「料理を食べることが好き」な方、そして「料理についてどこかモヤモヤを感じる」方はぜひ、読んでみてください。

こちらで最初の数話分、無料で試し読みができます。ご興味があれば、ぜひ。
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FS00202041010000_68/

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