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2023.8.5 花火大会

花火、去年はこれに成りたいと思った。
中心から放射線状に放たれる火花。

消えそうな線、煌めく熱。
一瞬だけの為に長い期間をかけて作り込まれる。
こんなに脆くて儚い「花火」に成りたいと思った。

一瞬で生まれ、形を変え、そして散る。
最期に大きな力強い音を奏でる。
なんて綺麗で美しいんだろうと、


人生みたいだ。


今年は動画や写真を撮って、
なにかの素材にする為に花火大会へ一人で出向いた。

スマホを手に持つ気になれなかった。
隣には星が光っている。



自転車で向かった。もう既に街には人集りが。
花火大会の会場に近づくにつれ、
交通量が多くなっていく。

家を出た頃はまだ空が明るくて、
これで30分で日が沈んで
花火が放たれるのかと違和感さえあった。

自転車を走らせるにつれ、
気付けば濃縹に染まっていく。
空だけでこんなにも心打たれているのに、
これ以上美しいものがあるかと思いながら向かう。


道中1000m走を終えたかのような吐き気を覚えた。
病み上がりのロードバイクだからだろうか、体力が無い。
コーラを流し込んで身体を落ち着かせ、
また自転車を漕いだ。


暑い。
汗が止まらない。
暫く外に出ていなかったので、
外の暑さを知らなかった。
日が暮れてもこんなに暑いのか。


あと少しで目指している穴場に着くというところで
20時になってしまった。
花火が上がった。

それと同時にGoogleマップを開いたスマホを
落としてしまった。
これでフィルムが割れたのは何回目だろうか。

何度も発作が起きる度にスマホを落として割っていた。
今回はただ落としただけ、
なんとも言えなくなった。

穴場近くを走っている時に見えた花火。
海月だった。空に海月が咲いていた。
どれほど美しいものか。
言葉を失った。
白昼夢を見ているかの様な気分だった。


吐き気を落ち着かせながらも
5分も経たないうちにその穴場に着いた。
今年は思ったよりこの穴場は人で埋まっていた。

でも会場の、音にまみれた空間よりかはマシだ。
波の音が聞こえる。風が心地良い。
見上げれば星も負けじと光っていた。
海の向こうには船が何隻も浮かんでいる。
いつもと変わらず漁をしている。


下の方で上がっている花火は、
人が思ったより居たせいであまり見えなかった。

誤算だ、
でも雰囲気と花火を感じたかっただけだから
別に気にはしていない。少し勿体無いとだけ思った。


打ち上がり、
まるで元あった目印を辿る様に灯りが登る。
急に消え、一点を中心に放物線状に放たれる。
弾けた何かが空を伝って流れ落ちるように
火花が零れていく。

色が変わるものもあった。形が変わるものもあった。
終わった、と思えば沢山増えてまた光るものもあった。
消えた花火が、残像だけ残していく。
言葉が溢れて仕方がない。


気付けば打ち上げ時間は残り10分になっていた。
記録や素材を残そうと思ったのに、
まだ何も撮っていない。

慌ててクライマックスに向けてスマホを漸く開いた。
この穴場は海辺の公園で、
街灯が多くて上手く撮れそうになかったので、
拡大倍率を低くして胸元に固定した。


最後の花火の打ち上げが始まった。
高めのブロックのような場所に座って見ていた。

周りにそこそこ人が居る中、
思わずそのブロックの上に立ち上がって見入った。
たかが火花に見蕩れていた。

シャッターを切るのを忘れていた。
何も考えずに急いで連打した。
写真なんてもうどうでもよかった。
今年も目に焼き付けたかった。
あの火花に成りたい、儚く綺麗に散りたいと思った。

きっと、この花火を見ている人の中で
こんなにも花火に魅了されている人なんて
居ないだろうとさえ思った。


綺麗に暗く染まった空に、花火が散る。
単純な事だ。なのに何も言えなくなるんだ。

終わった後もこうしてこの海で余韻に浸る。
noteに綴りながら時折水平線を眺めている。
波の音だけが聞こえる。
星が綺麗だ。


いつも空と海を眺める時に思う。

なんでこんなにも日常は綺麗で、
自分は「それ」に成れないんだろう。

壊れる筈が無いのに、
この見ている景色が、世界が、

いつか壊れてしまいそうで。




記憶が、剥がれないように。

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