見出し画像

その頃、女は・・・(小説・第5回)

こんにちは、Shimizu_Tです。

今日は、超短編小説の第5回目です。
これまでと同じように、小説なのでフィクションです。実在するSさんとは全く関係ありません。(今回の文字数は、約1,400文字です。)


(第1回から第4回までは、男の目線から書いていますが、今回(第5回)は、女の目線で書いています。)

女は、同居していた男がC地方から1年の予定で韓国へ転勤したものの、一緒に韓国へ行かずに、C地方で一人暮しをしていた。
その後、男が予定より早く帰国して静岡勤務となっても、女はC地方での一人暮しを続けていた。

女は、「引越し」が嫌いだった。

せっかく慣れた環境を変えると、しばらくは落ち着かいない日々となるのが好きでなかった。

C地方で男と一緒に暮らし始めて3年ほど経っていて、そこから韓国への引越しと聞いて、国内でさえ乗り気になれないのに、ましてや海外なんて・・・というのが女の考えであった。

その後、男が帰国して今度は静岡に住むと聞いた時、静岡が嫌というわけではなかったが、C地方から動きたくないという気持ちのほうが強かった。
さらに、一緒に住んでいたときに感じ始めていた男の性格(思い込み癖、妄想癖)に嫌気が差してきたこともあり、結局、女はC地方に1人で住み続けることとした。

一人暮しが長くなってくると、男のために家事をあれこれとしなくても済むので、どうしても生活が不規則になり、それに伴って、部屋の中が雑然としてくる。

女が住んでいる部屋は、ゴミ屋敷とまではいかなくても、とても友人などを招き入れられるような状況ではなかった。

たまには片付けて、近いうちに友人でも呼ぼうかと思い立ち、週末の金曜日に掃除に取り掛かった。

可燃ごみ用の大きなゴミ袋を拡げ、とりあえずテーブルや床に散らばっているゴミを片付け、ペットボトルや缶などは、また別の袋に分けて入れ、カーペットにできたシミを何か所か拭き取ったあと、掃除機を掛けて作業を終えた。

その時、女のスマホが鳴り、男からのメッセージが届いた。

「仕事で必要なものを取りに行くので、今夜、家に行く。」

男が家に来るのは、韓国へ転勤になって以来、初めてであった。

韓国から帰国した時も、C地方の家には戻らず、そのまま静岡へ行ったので、男が家に戻るのは約1年ぶりとなる。

「仕事で必要なものって、何だろう?」

女には、想像もつかなかった。

韓国へ転勤になった時、少しだけ荷物を置いていったが、その中に、静岡で必要なものが入っているのだろうか?

ただ、それより女が思ったのは、「掃除しといて、良かった」ということである。

なんというタイミングだろう。

もし、男からの連絡があってから片付けるとなると、おそらく気が重くなっていただろうが、なぜか珍しく女が自ら片付けをしようと思ってしたことなので、女は何か運の良さのようなものを感じていた。

その日の夜、男は帰ってきた。

1年ぶりに会ったにもかかわらず、女は特に気持ちが高ぶることもなく、男を家に迎え入れた。

男にも、女に会いたがって帰ってきたという素振りは見られなかった。

「久しぶりだね。」
「そうね。」

二人はそんな会話をしただけで、特に話が弾むこともなかった。

男が「意外と、部屋が片付いているんだね。」と言ったことが、女にとっては可笑しかった。

(別に、あなたが帰ってくるから片付けたわけじゃないけど・・・)


ここ迄お読み頂き、ありがとうございます。
いつものように、締めくくりはこの言葉で。

 「毎日が、心穏やかに過ぎますように」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?