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【エスパルス】2023年J2第8節 vs東京Ⅴ(H)【Review】

今季リーグ8戦目にして、ようやく初勝利。そして、リーグ戦におけるホームでの勝ち点3も、昨年8月以来、実に8カ月ぶりとあって、現地で噛みしめる勝利の味は格別でした。

この勝利を呼び込んだのは、シーズン序盤での激動の監督交代から2戦目、リーグ戦では初めて指揮を執った秋葉新監督。
気持ちや一体感を強調する熱い言動が注目され、スタジアム観戦時もアグレッシブに前へ向かう選手の勢いが印象に残りましたが、よく見直してみると、戦術面でも随所に前監督との変化が見て取れました。

対戦相手の予備知識はなかったので、自分に見えた「エスパルスの変化」に絞って、今回も簡潔に振り返ります。

1.スタメン

2.スタッツ

3.エスパルスの変化

(1)ボール保持時

東京Ⅴの戦い方を踏まえてなのか、秋葉監督のゲームモデルなのかは不明ですが、ボール保持時には以下のような特徴が見られました。

・敵陣”ライン間”にできる「縦のスペース」の活用

SHが大外のレーンに張り、相手の最終ラインを「横に」広げることが多かった前体制とは異なり、SHの主戦場は1つ内側のレーン。
このSHに加えて、トップ下(乾)が左右に動いて、ライン間(相手の最終ラインと中盤の間)で顔を出し、ここを目がけて後方から積極的に縦パスを差し込んでいきます
また、ボールを持つ後方の選手がパスを出そうと顔を上げた瞬間に、最前線のFWは背後に走って相手の最終ラインを押し下げます。これにより、ライン間のスペースを「縦に」広げ、縦パスが収まりやすくなるようサポートします。

縦パスの受け手(トップ下・SH)は、ターンして前を向けるときはドリブルで前進。また、ゴールに背を向けて(相手を背負って)いるときは、CHの選手が落としのパス(レイオフ)を受けて展開。
さらに、縦パスをスイッチに周囲の選手が受け手を追い越すように走り出し、続々と前線になだれ込みます(下図)。

上図のように、CHは3人目の選手としてボールに関与する必要があるため、最終ラインに下りてボールを動かす場面は減少。
最終ラインに下りるときは、もう1人のCHが中央でサポートするとともに、逆サイドのSHも中央に絞ってライン間の密度を高め、3-1-5-1のような形でボールを前進させていきます(下図)。

・相手最終ラインのCB-SB間を狙う攻撃

ゲームが進むにつれて、トップ下の乾が1列下りるなどしてゲームメイクを担う傾向が強くなり、スピードや推進力に優れるSH(中山・カルリーニョス)は、ゴールに向かうプレーでその強みを発揮。

狙いどころは、相手最終ラインのCB-SB間(下図、赤い部分)
そのスペースを目がけて直接パスを入れることもあれば、SHの動きを利用して大外を駆け上がるSBを使うこともあり、中と外を使い分ける攻撃で、相手の守備陣を迷わせます。

上記2つの狙いを象徴する、前半の場面
後半の場面。パスは長くなったが、上記の狙いが再現性を伴っていることがわかる

1得点目は、カルリーニョスからライン間の乾への縦パスを起点に、中央を縦に抜ける中山を狙った鋭いパスと、大外から追い越す北爪のダイナミックな動きが結実(以下)。
このパターンには再現性があり、監督が意図した形と見て良さそうです。

・パスを出したら動き直す

縦パスを差し込む意識に加えて、変化が見られたのが「パスを出したら、その場に留まることなく(前に)動く」というシンプルな原則。

試合後の乾のコメントにも「監督は(選手の)距離感を強調していた」「みんなが良い距離感の中で、その上で個人を出していく」とあるように、1人1人がボールに関わり続けることが重要視されているように感じます。
試合前の練習の風景にも、それが現れていました。

縦パスが受けられる場所へ顔を出し、ボールに関わり続け、敵陣深くに侵入する中山の動き

「ボールに関わり続ける」という意味では、途中出場した宮本が繰り返し良いプレーを見せていました(以下)。最終的にはその動きが2点目にもつながっており、このサッカーへの高い適性を示していたように思います。

(85:22~)
サイドチェンジの間に走ってボールホルダーをサポート→落としのパスを受けて縦パス→サイドの選手からもらい直してサイドチェンジ
(87:57~)
セカンドボールを回収してサイドに展開→右サイド奥へ走って相手を引きつけ、西澤がクロスを上げるスペースを創出→こぼれ球を回収→2得点目につながるCK獲得のきっかけに

(2)ボール非保持時

・整理されたプレッシング

相手のパスコースを切りながら(いわゆる「カバーシャドウ」)プレスをかけるのが得意な乾が前線にいた効果もあるはずですが、高い位置からプレッシングを敢行する際の相手の掴まえ方が整理されていました(下図)。

(プレッシングの仕組み)
①サンタナがファーストディフェンダーとなり、片方のCBに対面からプレスをかけ、相手の横パスを誘発
②乾は相手CBが横パスを出すまでCHをマーク。パスを出したタイミングで、CHへのパスコースを切りながらプレス
③上記②を合図に、中盤の選手は近くにいる相手の中盤を掴まえる(ボールサイドとは逆のSHも、SBを捨てて中央に絞る)
④背後に長いボールを出された場合は、SBが走って対応

東京Vのビルドアップのやり方では、トランジション時にアンカー役の周辺にスペースができるため、上記③のフェーズでSHが中央に絞ることで、セカンドボールを拾いやすくする効果もあったように思います(下図)。

また、エスパルスは走力のある両SBの存在を担保に、最終ラインをハーフウェーライン近辺に高く保ち、相手の縦パスに対して、後方の選手が思い切って前に出て潰せる状態を確保(下図)。
恐らくデータ上でも、チーム全体のプレス開始位置は高くなり、陣形もコンパクトになっていたはずで、これは選手の「気持ち」「勢い」の問題ではなく、れっきとした「戦術」だと言えます。

4.所感

モチベーターとしての言動に注目が集まる秋葉新監督ですが、戦い方が思った以上に整理されていたように見えて、少し驚きました。
そして、戦い方が整理されたからこそ、選手たちが思い切って前に出ることができたのだと思います。

全体の立ち位置やボールの動かし方は、ヨンソンさんの時代を彷彿とさせますが、SBを含めてかなり前線にリソースを振り向けている印象です。
臆することなく縦にボールを入れ、周囲がガンガン追い越していく手法にはリスクもありますが、その不確実性は選手全員のハードワークや個の「奪い切る力」で埋め合わせるのでしょう。
基本的に自陣のゴールから離れた場所を主戦場とすることで、セットして守る際の脆さを隠したい、つまりは「攻撃は最大の防御なり」という考え方。
これは相対的に選手の力で上回るJ2において、短期的に勝ち点を獲得する手段としては、理にかなった戦い方とも言えるのではないでしょうか。

これが対戦相手の特性を考慮したうえでの戦い方だったのか、自分たちのやり方を貫いた結果なのか、そのあたりをしばらく観察しようと思います。
東京Ⅴのように、積極的に前に出てくる相手との相性は良さそうですが…

不安なのは、後半になってやや縦へのダイナミズムが減少したように、前線で精力的に動いてボールを呼び込んだりゲームを作ったりすることができる選手(要は乾の代わり)がいなそうな点。
戦い方が個人のスキルに依存するうえ、1戦ごとの選手の消耗も大きそうなので、控え組がどれだけ存在感を見せられるかが今後の鍵を握りそうです。
過去の発言からは、選手の序列を明確に作るようなタイプではなく、適切な競争環境を構築して調子のよい選手を引き上げてくれそうな言動が伺えるので、ここまで出場機会が少なかった選手は特に奮起してほしいと思います。

とにもかくにも、練習を通じてプレー原則や対戦相手に応じた対策をチームに落とし込み、地力を高められる監督であることを切に願います。

(監督交代やチームづくりを巡るクラブの姿勢に言いたいことは多々ありますが、それはまた別のエントリにて)

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