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サッカーのワンプレーを見て「こんな時になんて声をかけるか」(あるいは声をかけないか)をイメトレしてコーチング力を鍛える

はじめに

私はサッカー(フットボール)を観るのが好きなのですが、常々サッカーはビジネスにも通じるものがあるよなぁ、と感じていました。いまビジネスにおいてIT・ソフトウェア関連のコーチングを学んでいるのですが、そこにも通じる考え方があると思っています。

最近では、仲山進也さんの書籍『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方 ~カオスな環境に強い「頭の良さ」とは』に大変感銘を受けました。

そんな中で、先日見に行った国立競技場でのFC町田ゼルビアvs浦和レッズの試合で少し考えてみたいプレーがありました。

シチュエーション

シチュエーションは以下の通りです。

  • 後半アディショナルタイム、得点は1-2で浦和レッズがリード

  • 同点に追いつこうと町田が前がかりになったところで浦和が速攻を仕掛ける

  • 浦和の松尾佑介選手がボールを持ち、二田理央(にったりお)選手と並走、松尾選手は相手DFとGKをかわしてゴール!

  • ところが二田選手が別の相手DFのユニフォームを引っ張って倒したとしてファールとなり得点取り消し

  • その後、試合終了直前に町田のゴールが決まり試合は2-2で引き分けに終わる

声をかけるか、かけないか

そんな中で私は、「もし自分が浦和レッズのコーチ(あるいは監督)の立場だとしたら、二田選手にどう声をかけるだろうか、あるいは声をかけない方がいいんだろうか」ということを考えていました。

もちろん私は浦和レッズのただのサポーターでありコーチになるようなことはありえないのですが、ビジネスにおいてこういったシチュエーションはよくあるのではと思い、あくまで思考実験のひとつとして考えてみました。

事実確認

まずは事実確認が大事です。

  • 試合前、浦和レッズは2024年シーズン頭から率いてきたマティアス・ヘグモ氏の監督解任を発表、後任として2023年シーズンを率いたマチェイ・スコルジャ氏の監督復帰を発表していた。町田戦は池田伸康暫定監督が指揮を執った。

  • 浦和レッズはここ数試合勝てておらず、相次ぐ主力選手の移籍もあった。

  • そんな中で二田選手も7月に海外クラブからの移籍で浦和レッズに加入した状態だった。

このようにかなり複雑な状況でした。

一方の二田選手は7月に以下のようなコメントをしています。

海外に行って自分と向き合う時間がすごく増えて、食事も意識したり、自分に足りないところを自分で考えるということで、自分の体に敏感になれました。(略)自分で全てやるのは大変なところもありましたが、すごくいい経験になりました。

上記の事実を理解した上で、次に客観的にはどう見えるかを考えてみます。

客観的な理解

まずこのプレーに関しては、上記DAZNのハイライトを見ても分かるのですが、解説の福田正博(念のため言っておくと、福田は浦和レッズOBのレジェンド)は「まったく必要のないプレー」と言っています。

リプレイを見ると、松尾選手は一人でボールを運んでおり、おそらく二田選手がファールをしなくてもゴールを決められた可能性は高いと思われます。

さらに、現代はゴールに絡むプレーはVARなどで検証されますから、むしろ仮にゴールが決まってもファールとなる可能性があり、非常にリスクが高いプレーだったと思われます。リスクを冒すだけのメリットがあれば別ですが、このシチュエーションでは得られるメリットはほとんどなかったと考えられます。

主観的な解釈

一方で、客観的な理解だけではなく、「(コーチである)自分自身がどう思うか」というところも大切だと思っています。
声をかけるのもかけないのも、自分が判断するのであって、その時に自分の感情からは逃げられないと思うからです。

私はこの試合を現地で見ていたのですが、現地ではリプレイが流れることもなく、なぜこのゴールが取り消しになるのかよく分かりませんでした。周りのサポーターも「え?何が起きたの??」という感じでした。
不可解な判定にも思えたので、審判に対するブーイングも起きてました。
現にあの時点では、疑問を持っていた監督・コーチも多かったのではないかと思います。

帰宅してからリプレイを見て、そういうことだったのか、と理解すると同時に、正直なところを言えば、このような軽率なプレーをしたことに対して頭を抱えてしまいました。「なぜこのようなシチュエーションでこのようなプレーをしたのか」と。
つまり、解説の福田氏とほぼ同様の感情を抱きました。

一方で、先述のような二田選手の心意気も知っていましたし、若いながらも海外でプレーしており責任感も強いと感じていました。
また別の見方として、チームとしてかなり複雑な状況もあったので、自分が「やってやろう」と意気込んでいたとも想定されます。

さて、その上で仮にコーチだったらどのような選択肢を取るのか、考えてみました。

選択肢①:きちんと叱る

まずは上記の事実確認をしたうえで客観的・主観的な感情をもってしてきちんと叱る、ということです。
「怒る」と「叱る」は別で、「叱る」というのはあくまでも相手の為を思ってするもので教育的な目標があります。

この時、ただ頭ごなしに感情をぶつけてしまっては「怒る」になってしまいます。感情的になることも時には必要かもしれませんが、このシチュエーションでは必要ないと思われます。

声をかけるとしたら、「自分としてはあのシチュエーションであのプレーは必要なかったと感じている」ということを伝えたうえで、「どのようなことを考えてあのプレーをしたのか」と聞くかなと感じました。

本人はどう思っているか

さて、気になるのは当の本人がどう思っているかです。場合によってはこのようなコメント次第でコーチがどのように声をかけるかかけないかが決まってきそうです。

この面とを見る限りは、松尾選手は気にせずに前を向くしかないと思っているし、二田選手は深く反省しているようです。

選択肢②:何も言わない

上記の本人の気持ちを考えると、コーチとしては敢えて何も言わない、という選択肢もあるのかなと思いました。
なぜなら、本人がきちんと自覚をしており、次に対する対策を考えようとしているのであれば、そうすればよいだけですし、コーチとしては特に言うことはないと思ったからです。
逆に、変に声をかけるとその考え方が自分の考え方との相違を生み、別のフォースが働くこともありうると感じました。

第三者のコメント

さて、もうひとつコメントを紹介したいと思います。同じく浦和レッズの選手の一人である、渡辺凌磨選手のコメントです。

ああいうところの理央のプレーだったりっていうのも、これからちゃんと経験していってほしいし、仕方ないという言葉では片付けたくないんで、あそこはちゃんと浦和の選手で試合に出てる以上、学んでほしいなと思います

「甘やかす必要はない」「仕方ないで片付けたくない」をきちんと思いを述べています。
これはこれで素晴らしいコメントだと思いますし、このぐらい厳しくいってもらった方が二田選手自身も逆に救われるかもしれません。

選択肢③:チーム全体にメッセージを放つ

また、少し別の観点の選択肢として、チーム全体にメッセージを放つという選択肢もあるのかなと思いました。
松尾選手に、二田選手に、個人的に何かを伝えるのではなく、浦和レッズというチーム全体や選手たちに対してメッセージを放つ、という方法です。

1-2でリードしていながら、幻とはなったが3点目も取ることが出来た。
残り時間はあと数分。そのような状況でありながらそのまま試合を終わらせ勝ち切ることが出来なかった。
これは事実ですから、その事実を踏まえた上で、「残り数分の試合の終わらせ方」を改めてチームで考え方を統一しよう、その練習をしてみよう、と提案するのも手かもしれません。

正解はない、ただ目指すものはある

コーチという立場では、どのような選択肢を選ぶことができます。そして、どのような選択肢を選ぼうとも、絶対的な正解はないと思います。
渡辺選手のように厳しく言うももちろん「あり」でしょう。

ただ、どのような方法であれ、目指すものは勝利であることは変わりないと思います。意見の相違がある場合も、コーチとしてはその方向に進めるように最大限考えて手助けをしていくことが大事なのではないかと思います。

この思考の流れはビジネスでも効くのではないか

さて、今回のシチュエーションにおける思考実験はここまでなのですが、私は「この思考の流れはビジネスにおいても効くのではないか」と思っています。

  • 事実を確認する

  • 客観的な理解を確認する

  • 主観的な解釈を整理する

  • 選択肢を挙げて選ぶ

こういったことが時間をかけてじっくりできる場合もあれば、その場その場でクイックに判断をしていく方が良い場合もあるでしょう。

冒頭にあげたITやソフトウェアの業界でも、実は似たようなことが起きます。
例えばソフトウェアに混入されたバグ。バグひとつでシステムがうまく動作しなくなることはよくあるし、それによってプロジェクトに大きな損失があることもあるのです。
ただ、バグを作り出した本人もやりたくてやっているわけではない。何か背景があることも多い(事業部の再編とか、費用の削減とか)。そのため、まずは話を聞いて状況を理解し、事実確認をするということがマネージャーとしても大事なのです。

このような思考実験を通して、ひとつずつの選択の幅を広げるとともに、選択の精度もあげていく、つまり「コーチング力」を鍛えていきたい。
そのためにも、これからもサッカーを観ながら「こんな時に自分ならどうするか」を考えていきたいと思っています。

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