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人はどうやってある音をメロディと認識するのか

なぜ人は何種類もの音が鳴っている楽曲でも、ただ1つの旋律をメロディだと理解できるのだろうか。

ボーカルが歌っているのがメロディなのでは?と思う人もいるかもしれないが、ボーカルがない間奏部分、そもそもボーカルがいない楽曲でも、我々は主旋律を認識し、他の楽器との調和を楽しむことができる。このような旋律がメロディだ、と教えられたわけでもないのにだ。改めて考えると少し不思議に思える。

あらゆる音は高さと長さがあればメロディになる。そのため、ドラムやパーカッションのような音程のない楽器を除けば、鳴っている全ての楽器・声はメロディになりうる。それでもある音楽を聞いた人は、常にどれか一つの旋律のみをメロディとして捉えることができるのだ。

「メロディ感」とそれを生む要因

ここで一つ仮説を立てよう。「メロディっぽく感じられる旋律には何か共通の特徴があり、この特徴が最も強く現れている音が主旋律として認識される」という説だ。この「メロディっぽさ」のことをメロディ感と呼ぶことにする。

シングルCDなどに入っているInstrumental版(ボーカルを抜いたカラオケ版)を初めて聞いたとき、ボーカルがいる状態では聞こえなかった音が聞こえてきた、という経験をした人もいるだろう。これは最もメロディ感が強いボーカルが消えたことで、二番目にメロディ感が強い楽器の音が主旋律として認識されたからだと考えられる。

では次に、メロディ感の強さを決定づける要因とは一体何なのだろうか。これは大きく分けて5つあると考えられる。「音の大きさ」「音域」「聞こえてくる方向」「変化の大きさ」「音程差」だ。

要因1:音の大きさ

人間は最もはっきり聞こえる音を一番重要だと認識するので、音量が大きい音ほどメロディー感も強くなる。実際、MIX(録音した楽器の音や声を調整し、楽曲としてまとめる作業)をする際も、ボーカルの音は最も大きく設定される。

要因2:音域

人間の耳はすべての波長域を同じように聞けるわけではなく、聞こえやすい音域と聞こえにくい音域が存在する。一般に周波数が3000~4000Hz付近の音(女性や子供の金切り声よりも高い)が最も敏感で、音が低くなるにつれて感度は下がっていく。

よって旋律として実用的な音域では、音が高いほどメロディ感が強くなると言える。ピアノを演奏するとき、基本的には左手の低音部分が伴奏、右手の高音部分がメロディを担当するが、これにもこの法則が関係している。

要因3:聞こえてくる方向

ヘッドホンやイヤホンをつけて音楽を流し、次に片耳だけを外して聞いてみる。するとほとんどの場合、左右で違う音が鳴っていると気づくだろう。全ての音を左右同じ音量で、つまり真正面から流すと、互いに混ざりあってごちゃごちゃしてしまう。そのため、鳴る方向を変えて棲み分けをしているのである。

そして当然ながら、脳は真正面から来る音が最も重要だと認識する。実際ボーカルやギターソロといった主旋律を担当するパートは、基本的に正面から鳴るようになっている。

要因4:変化の大きさ

楽曲は繰り返しと変化によって構成されている。同じようなリズム・フレーズが繰り返されることで統一感が産まれ、そこに順次変化を加えることでリスナーに飽きさせない作りになっているのだ。

繰り返しがまったくなく、常に変化を続けるメロディはなかなか覚えられないが、同じ繰り返しが長時間続くと人は飽き、新しいメロディを求めたくなる。繰り返しと変化のバランスがちょうどいい旋律でメロディ感が強まると言えるだろう。

要因5:音程差

再び同じサイトからの引用だが、メロディの移動は隣の音に移動する順次進行と、離れた音に移動する跳躍進行の2つに分けられる。「ド→レ」のような移動が順次進行で、「ド→ソ」のような移動が跳躍進行だ。

そしてこのうち跳躍進行が過度に多くなると、人はそれをメロディとは認識しにくくなる。音程差を覚えづらくなるからだ。

ギターやピアノの伴奏でアルペジオという、和音を分散させて弾く奏法があるが、アルペジオによってできるメロディは跳躍進行が大半を占める。そのためメロディ感が弱まり、ボーカルと一緒に鳴らしても干渉しにくいのである。

※ボーカルとギターのアルペジオが同時に鳴らされている例。ボーカルが歌うメロディのほうが明らかに覚えやすく、主張も強い。

まとめ

1~5までの要因のうち、音の大きさ・音域・聞こえてくる方向は「音としての主張の強さ」に、変化の大きさと音程差は「旋律としての覚えやすさ」にまとめることができるだろう。これらの要因から、我々は無意識上で主旋律がどれかを認識していたのである。

逆に言うと、主旋律ではない音でも意識して聞けばメロディとして捉えることは可能だ。ボーカルの後ろで鳴っているギターのフレーズがはちゃめちゃにかっこいいことだってある。これから音楽を聞くときはぜひさまざまな音に耳をすませ、隠れたメロディを探し出してみてほしい。

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