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第5話

潮見スキッパーズにて


「それはそうと、3人はどんな関係なの?」


少し身を乗り出し気味で質問してくる店長
どうやらこの手の話を聞くのが好きらしく、3人が入店したときから興味があり聞いてみたかったようで、ようやく聞けたことによりソワソワしながら気が逸ってる様子だ。


「幼馴染ですね。」
「小一からずっと一緒にいて、中学では少しバラけたんですけど、高校でまた一緒になったのですがまさかの全員同じクラスという…」
「今まで誰とも同じクラスにすらならなかったのに…」
「克己はいいけど、優希也はご遠慮願いたかったなぁ〜」
「おい!お前、そりゃ酷すぎだろ!!」


優希也は少し頬を紅らめて訴えかけるように語気を強めたが、2人の変わらぬ雰囲気にやれやれといった仕草と表情で背もたれに寄りかかる。
そんな3人の独特の空気感が伝わってくる。
一方で思ってた関係性と違った店長は少し残念そうな表情を浮かべていたが、ここは気にしないでおこうと誰もが思った。


「学校はじまったら何やるか決めてるの?」


他愛もない会話が続くなか、唐突に店長が聞いてきた。


「なーんも決めてないッスねー!」


優希也は即答した。
それは偽らざる本心だ。
だからこその即答だったのだが、あまりにも早いかつ歯切れの良い言葉だったので店長は呆気に取られる。
鳩に豆鉄砲とはまさにこのことと言わんばかりの表情で…


「…な、な、なるほどね!そういうこともあるよね!!」


予想外の回答に驚いたのはいいが、驚きすぎた自分にビックリしすぎてしまい、咄嗟に必死に平静を装おうとするが、それがかえって仇となってしまう店長…


「店長ー!ピークタイムはじまるよー!!」


席を案内してくれた女性店員が呼びかける。
とてもタイミングが良い
店長はそそくさと『またね』と言い残してカウンターに戻っていった。


「いろいろ面白い人だなっ!」
「キャラ濃いし、リアクションも濃い!」
「でもとても良い人だよね。」
「「「わかる!!」」」


声を揃える3人
周りからしたら他愛もない会話でも、この空気感は居心地が良い。
また店内から見える潮鶴川の景観が居心地の良さに拍車をかける…が、ここはピークタイムの飲食店
店長がカウンターに戻ってから30分と経たないうちに席が満席になった。
時間を忘れて話し込みたい気持ちを抑えて渋々席を立つ3人
次回来る時は忙しくない時間帯に来たいね、と話しながら会計を済ます。


『ありがとうございましたー!またお待ちしてます!!』


其々のタイミングで会釈をしてから
店員さんたちの元気な声を背にして店を出る。


「ふぁ〜、帰ったら昼寝でもしようかなぁ〜」
「いいね。」
「アンタ、ゲームか寝るか、しかしてなくない?」
「そんなことあるわけ………あれ?」
「ほらー!やっぱりーーー!!」
「いやいやいや、みんなそんなモンだって!二人は部活やってるからちょっと違うかもだけど、だいたいはそんなモンだって!!」
「ははは。」
「だったら何かやってみたら良いんじゃない??」
「何かって、なんだよ?」
「部活とかどうなの?探せば1つくらい面白そうなとこ、見つかるかもよ?」
「優希也が部活…」


言葉にはしないが、続かないだろうなぁという表情のまま首を傾げる


「克己、やっぱお前わかってんなー!」


克己の仕草が自身の心情を表してることを察する優希也
これはお茶を濁すチャンスと克己に便乗する


「もう!克己はいつもそうやって優希也に甘いんだから!優希也だって自覚してるでしょ!!」


溜まったモノを吐き出すように里奈は口調を強める
少し感情的になっているが、優希也に対して言ってはいけない……とまではいかないが "ある言葉" を言われることを何よりも嫌う言葉がある。
それは優希也が小学生の頃からずっと言われてきた言葉
聞かされ飽きた言葉
親しき仲にも礼儀ありとはよく言ったもので、3人は互いに理解しているからこそ居心地が良いのだ。

しかし…

帰宅した優希也はベッドの上に身を投げ、天井をボーっと見つめる。
『協調性』という文字を思い浮かべて…

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