苦悩と虚無の主催者

月に一度、「ナイトオブコメディー」という主催ライヴをしている。何組かの芸人が出演して、それぞれ漫才なりコントなりをしつつ、途中に阿呆な企画を2つする。もう三年近く同じ面子でやっている。

主催ライヴを毎月するのは何かと大変で、まず企画を考えなくてはならない。こないだは、「五感を奪って演芸ショー」という企画をした。人間の五感、つまり視覚聴覚嗅覚味覚触覚、それらが奪われた状態でネタをするというもの。視覚を奪われた芸人や味覚を奪われた芸人が舞台上で阿鼻叫喚していて面白かった。そうした企画を毎月2つ考えなくてはならない。自分は、漫才のネタにしても企画にしても、考えること自体は嫌いではないが、毎回湯水溢れるが如くアイデアが思い付くわけでもないので、何も思い付かないことも多々あり、毎月ライヴ前にはがたがた震えながら考えている。他の芸人たちに、きみたちも何か考えてよ、と言っても、皆、あんたが主催なんやからあんたが考えなさいよ、といった態度で、虚しい。

出演者に連絡メールなどを送るのも主催者の仕事で、毎月全員にライヴの構成や企画内容や宣伝文句を添付したメールを送る。一斉送信にすれば楽なのは知っているが、そういうのを嫌がる人もいるかもしれないので、一人一人に送るようにしている。面倒臭くて、虚しくなる。

当日になれば、リハーサルをやる。ええと、皆さん、今日はよろしくお願いします、なんて言いながら、事前に企画の流れなどを説明しつつ、舞台上の配置などを決めるのだが、その説明をしている間も芸人たちは煙草を吸ったりお喋りしたりしている。これがたとえば、恐い芸人や、風格のある芸人、人望のある芸人が主催のライヴの場合、皆黙って説明を聞くのだが、自分には怖さも風格も人望もないので、皆お気楽な調子で、ふざけたり、茶々を入れたり、聞いていなかったりするので、虚しい。

そうして虚しさが極地に達する頃、ライヴが始まり、どうもー、なんて言って、お客さんも笑ったり笑わなかったりして、ともあれ無事に終わると、自分は少ないながら皆にギャラを渡したり、ビールを奢ったりして、次回もまたよろしくお願いします、なんて言って笑って、虚しさが消えていたりするので、まだ続けている。

何もいりません。舞台に来てください。