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東京の秋・5

日曜日。シャワーを浴びて少し眠った。朝になり、チェーン店の牛丼を食べて、遅れることなくバスに乗り、八時間後、無事大阪に帰ることが出来た。夜、満身創痍で帰宅して、泥まみれのぶたになった。と、ここまでが今回の東京での顛末のすべてである。やはり自分は東京で痛い目に合った。東京もなかなかええやん、と思ったらこの仕打ちである。

普段誰かと話していると、器用ですね、とか、賢いですね、とか言われることがある。自分の何を見てそんな評価を下すのか知らないが、そんな風に言ってくる人はおそらく、物凄く頭が悪いのだろう。自分はこのザマなのに、それを賢いだ何だ言うということは、それ以下、つまり完全にお猿さんなのだと思う。それとも、世の中はお猿さんで成り立っているのだろうか。確かに、東京で人間らしい人間はあまり見かけなかった。歌舞伎町の黒人も女も、異国の街のシンナー外人も、サウナの禿げかけた茶髪も、早稲田大学の学生たちも、ターミナル係員の完璧な標準語おっさんも、お猿さんのようだった。唯一まともだったのはビデオ試写室の受付のおっさんくらいで、ひょっとすると現代の世は、人間社会ではなくお猿さん社会なのかもしれない。

東京の秋を想う。想い返すと、VR凄かった、牛丼食いすぎた、くらいの感想しか出てこないのが寂しい。ああ、そういえば舞台にも立った。そのために東京に行ったんだ。そうだったよ。と標準語で想う。お客さんも来てくれて、嬉しかった。東京の芸人もたくさん来てくれた。皆いい顔をしていた。肝心の内容は、曖昧にしか覚えていないが、まずまずだった気がする。とうの昔のことのようだ。ビデオ撮影もしたから、後で見返そうと思う。とにかく疲れた。東京ではいつも痛い目に合う。だけどようやく気が付いた。今まで東京のせいにしてきたけれど、悪いのは東京ではない。どう考えても、自分が悪い。しかし、それ以上にこの世の中が悪いのであって、つまり東京は何も悪くない。おわり。

何もいりません。舞台に来てください。