トマトジュース
ある夜、帰り道に自販機でトマトジュースを買った。暗い取り出し口に手を突っ込み手探る。私はこれがいくつになっても苦手で、いつもゴタゴタする。お爺さんになってもゴタゴタする自信がある。せめてマウンテンデューとか飲んでるジジイになりたい。やっと缶を取り出して歩き出す。飲もうとしてプルタブに指をかけると、
「いちごみるく」
と書いてある。
あら、かわいい。いや、なにこれ。
よく見ると、350mlもない白い缶にピンクの小さなハートが散りばめられている。業者が間違えて入れたのか。連絡すれば返金等対応してくれそうだが、喉が砂漠だったので、もういいや!といちごみるくを飲んだ。いちごみるくはやっぱり甘すぎて、そんなに美味しくなかった。しばらく飲みながら歩き、ふと思い出す。
昔、自販機に、変なもの入れた飲み物を置くいたずらがあったよな。
こういうときは妙に想像力が掻き立てられる。本当はトマトジュースが落ちていたが、私はトラップを手にしたのではないか。こんなにかわいいトラップで病院送りになるのか。いちごみるく事件とかダサ過ぎる。やっぱりマウンテンデューが良かった。ファンシーなファンタジーが頭に巡って自販機に後戻りする。
やはり、自販機の取り出し口にトマトジュースはなかった。私はふと冷静になり、大人しくいちごみるくを飲みながら家に帰った。