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2024年度大学入学共通テスト「生物基礎」を解いてみよう

週末は大学入学共通テストが開催されました。生物系のサイエンスライターだし、せっかくなので生物科目の問題を解いてみることにしました。果たしてサイエンスライターと名乗るにふさわしい点数を獲得することができるのか!?(センター試験時代から13年連続使っている文章のコピペ)

文系志望が解く生物基礎

この記事では、まず「生物基礎」にチャレンジします。この科目を選択するのは、文系学部志望の受験生です。

生物基礎という科目は、文系のほとんどが解く問題であり、もちろん理系選択者は学習の範囲内です。つまり、今の高校卒業生は全員授業でやっていると考えてください。問題と解答はいろんな予備校のウェブサイトにあります。

さて、僕の結果は……

50点中50点の満点!生涯現役!!

ゲノムを知らないではすまされない

せっかくなので、僕が好きな遺伝子や細胞あたりで「今の高校生はこれくらいのことを勉強しているんだぜ」みたいな問題を紹介します。

ゲノムや遺伝子に関する記述として最も適当なものを、次の1〜5のうちから一つ選べ。

1. ゲノムのDNAに含まれる、アデニンの数とグアニンの数は等しい。
2. ゲノムのDNAには、RNAに転写されず、タンパク質に翻訳もされない領域が存在する。
3. 同一個体における皮膚の細胞とすい臓の細胞とでは、中に含まれるゲノムの情報が異なる。
4. 単細胞生物が分裂により2個体になったとき、それぞれの個体に含まれる遺伝子の種類は互いに異なる。
5. 細胞が持つ遺伝子は、卵と精子が形成されるときに種類が半分になり、受精によって再び全種類がそろう。

解答番号2

DNAではアデニンとチミンが向かい合い、グアニンとシトシンが向かい合うので1は×。同一個体では細胞の種類が違ってもゲノム情報は同じなので3は×(同じだからこそクローンやiPS細胞ができる)。単細胞生物は分裂しても基本的には同じ遺伝情報になるから4は×。卵子と精子は減数分裂で1対2本の染色体は半分になるが染色体にすべての遺伝子があって遺伝子の「種類」が半分になるわけではないので×。というわけで正解は2。DNA→RNA→タンパク質のセントラルドグマは今の高校生で習うから、転写や翻訳という言葉は受験生なら知っています。教科書には、「DNAの一部の塩基配列だけが転写される」とあるので、ピンポイントの知識で答えることもできるし、消去法でもなんとか正解できます。

みんな大好きエイブリーの実験

次はこれ。

肺炎双球菌には、病原性を持たないR型菌と、病原性を持つS型菌がある。加熱殺菌したS型菌だけをマウスに注射すると発病しなかったが、加熱殺菌したS型菌をR型菌と混ぜてから注射すると発病した。発病したマウスの体内からはS型菌が見つかった。また、S型菌をすりつぶして得た抽出液をR型菌に加えて培養すると、一部のR型菌はS型菌に変わった。これらの現象は、S型菌の遺伝物質を取り込んだ一部のR型菌でS型菌への形質転換が起こり、それが病原性を保ったまま増殖することで引き起こされる。
そこで、この遺伝物質の本体を確かめるために、S型菌の抽出液に次の処理a〜cのいずれかを行った後、それぞれをR 型菌に加えて培養する実験を行った。培養後にS型菌が見つかった処理はどれか。それを過不足なく含むものを選べ。
a. タンパク質を分解する酵素で処理した。
b. RNAを分解する酵素で処理した。
c. DNAを分解する酵素で処理した。

解答番号3

2018年と2020年にも出ていた、もはや準レギュラーのエイブリーの実験。DNAが形質転換を引き起こす遺伝物質であることを1944年に直接的に証明した歴史的実験の一つです。DNAがあれば形質転換できるので、正解はDNAを分解しないaとbになります。

細胞分裂を止める化合物Zは何をしているか?

あとは、ここ数年でよく見る細胞周期の実験と考察。ここでは解答番号5を解説します。

細胞はDNAを複製して分裂することで増殖する。動物の体細胞由来の培養細胞のDNA量を継続的に測定したところ、細胞1個当たりのDNA量は、図1のように、周期的に変化していた。
次に、化合物Zが細胞周期に与える影響を調べた。 DNA量の測定開始16時間後から、化合物Zを培地に加えて培養を続けたところ、図3の結果が得られた。また、測定開始から15時間後、26時間後、および40時間後の各時点において、細胞を顕微鏡で観察した。図4は、その結果を模式図として示したものである。これらの結果から、化合物Zは、細胞周期のどの過程を阻害したと考えられるか。最も適当なものを、1〜5のうちから一つ選べ。
1. G1期の進行
2. G2期の進行
3. DNAの複製
4. 染色体の分配
5. 染色体の凝縮

解答番号5

図1のグラフはよく見るけど、しっかり文章とグラフを読み解かないといけないから点差がつきそうな問題。細胞周期は、分裂前のS期でDNAが複製されて2倍になり、そのあとM期で染色体の分配と細胞分裂が起きます。化合物Zを加えるとDNAが2倍のままで40時間経っても染色体が凝縮したままということは、DNA複製まではできているけど細胞分裂前の染色体の分配ができていないということになります。というわけで正解は4。

ちなみに教科書外の話になるけど、こういう化合物Zは実在します。何かというと抗がん剤。抗がん剤の中には、染色体の分配に関わる微小管という細胞内構造物がうまくつくれないようにするものがあって、例えばビンブラスチンやパクリタキセルがこれに該当します。そういう意味でも結構いい問題だと思います。

オトナも学ぶ価値がある生物基礎

あとは免疫やバイオーム、外来種とか。センター試験時代はホルモンの問題が多かった印象があるけど、今はなりをひそめて免疫細胞に関する問題が毎年2〜3問は出ています。

生物基礎は3年前に長文読解や初見グラフから思考力を問うものが増えたけど、去年はその傾向が弱まり、今年はさらに弱まりました。文系が受ける生物基礎は教科書に書いてあることをしっかり理解しているか、理系が受ける生物は論理力など本質を見抜く力があるかどうかというように目的の違いがより明瞭になったような気がします。

生物基礎だと最初の5問目あたりまでは細胞や遺伝子の問題で、高校生がこれを習うということは一般常識として知っておけという運営からのメッセージです。今どき「ゲノムって何?」というのはもう通用しない時代になっているということです。生物基礎の内容はここ数年で劇的に変わっていて、今の20代後半の人が知っている生物科目とはかなり変わっています。新しい生物の常識を身につけるためにも、高校生向けの参考書を1冊読んでもいいかもしれませんね。

おすすめ図書

↑生物基礎を受けるならこれを読んでおけば間違いなし。僕が現役のときからいまだに第一線で活躍している先生。

↑僕が編集協力した本。生物は暗記科目ではないですよ、体の中で起きていることを流れで理解すればいいですよ、という内容。今の共通テストの考えにかなり近いです。

↑血液や免疫が苦手な人はこちらで勉強するのもおすすめ。

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