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巡る。

 (かなりうろ覚えで不確かな記憶だが)トマス・ハリスの『ハンニバル』で、事件の真相を知る使用人が、口止め料をたんまりもらって世界中のフェルメール作品の実物を観てまわる旅にでるのだが、アートにも疎かった当時の私は、“フェルメール作品”にそれだけの(お金と時間をかける)価値があることを初めて知った。
 あれから、かなりの時を経てー、年が明けたと同時に、無職になった。
 会社都合の早期退職なので、無職の悲壮感は思ったほどではなく、定年退職に近いのかなあと感じながら、少し休んで、四月から新しい仕事を始められたら、と考えている。
 少しの春休みに、何をするか?
 真っ先に“フェルメール巡り”を思い出した。
 が、誰からも口止め料をもらっていないし、3ヶ月の休み期間のうちに就職活動もしなくてはならないので、実質休めるのは1、2週間と言ったところか。
 海外へ行くのは無し。
 国内で可能なものに絞る。
 前から気になってた美術館はあるが、今回は作家限定の“○○巡り”にこだわりたい。
 第一候補は、北斎の肉筆画。有名どころは海外にあるが、まずは東京へ。国博、墨田北斎美術館、そこから小布施北斎美術館へのコース。
 第二候補は、モランディ。随分前に美術雑誌の特集でその存在を知ったものの、現物を一度だけ、しかも1点だけしか観たことがないので、いつかはイタリアまで観に行きたいと思っていた。が、私の知る限り、日本には2点ぐらいしかなかったはず。“巡る”とは言えないかもしれない。
 第三候補は、流政之。
 地元・長崎県美術館の常設展示室の中庭(?)に、流作品がある。元はアメリカで評価された人らしいが、日本の全国各地に作品があるようだ。彫刻は美術館の展示室だけでなく、公園や庭園やビルの谷間にも、さまざまな場所に存るので、“巡る”むきかも。
 他にも気になっている作家や作品が幾つかあって、その在処を検索するだけでも楽しい。
 再就職がどうなるか、今の段階では全くわからないが、仕事を始めてからも、完全に退職してしまってからでも、この短い春休みに巡り始めておけば、この先、まだ観ぬアート作品巡りは続けられそうな気がする。
 (写真は流政之作、『南蛮えびす』。長崎市内の銀行の敷地内にいます。)

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