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キミの涙より汗は美しい

 夏。高校球児が大活躍。
 テーマはズバリ「キミの流す汗は美しい」、これだろう。
 何かに汗を流して取り組む、その姿を見て感動したい。これが高校野球のウリだろう。だから特番では負けた方の涙も映す。感動するからだ。
 なので、近年の猛暑でナイターにしようとかドームにしようとかいう至極真っ当な意見も上がったが、スポンサーが渋ったみたいな話も小耳にはさんだ。
 なにより汗。汗なのだ。……ドームの使用料は高いから、という世知辛い話もあるし。
 まあ……いいですよね高校球児の汗。や、シマシマはもう地元敗退したんでいいですけど。

 仕事に一生懸命なのはいいことだ。
 はー、そうなんですよ、高校球児だと爽やかだけど話はどうしてもこっちになってくるんですよ、仕事。
 汗をかいて走り回るのが至高だと思っている。「私はあなたの(もしくは会社の)ためにこれだけ尽くしていますよ」というのが、やって当たり前のサービスとして広く認識されている……気がする。
 お客の私のためにこれだけやってくれた。が、お客様満足度の指標である以上、そうなるだろうことは当然といえば当然なのだが。
 時折、それは効率よりも重視される。

 学生時代のシマシマは、街の靴屋でバイトしていた。
 靴には当たり前だがサイズがある。婦人靴コーナーにいたので、ここでは婦人靴について語る事にしよう。
 デフォは23cm。米表記でMサイズだ。これを基準に展開していく。22は小さいサイズ、25は大きいサイズに入り、ものによっては製造していないなどもある。専用の売り場ではない「普通パターンの婦人靴」では概ね、22.5から24.5までが多い。(最近は変わったのだか、シマシマは知らない。昔の話ですよ)
 まず、23から売れていく。そのサイズの方が多いからだ。
 なのでその靴屋では最初に23を出し、そのサイズがなくなったら23.5、それもなくなったら24、次に22.5、次に24.5、などとやっていた。すると、飾られているのが24.5の場合、そのサイズ以外はもうないですよの合図になる。たまに25はあるけど。見に行くけどね。
「これ、23cmある?」
 お客様が聞いてきた。はいはいただいま。あ、コレですね、えー。
 箱は一個。乗っていた靴は24.5。
「いやー、ないんですよーはいーすみませーん」
 するとお客様、不満そうに言った。
「見にもいかずにそんな……」
 申し訳ございませんお客様、そのときのシマシマは若かったのです。生意気ざかりでした。
「……あ、見にいきましょうか?」
「ないんでしょう?」
「ないですねぇ」
 ないもんはないんだ。これラスいちって昨日から知ってる。これが売れたらスペース空くなーと思って待ち構えていたからな。
 お客はぷりぷりして帰っていった。シマシマは先輩からこっそり叱られた。
「アンタ、ダメよそんなことしたら。そういう時はすみやかに『見てきますね!』て言って倉庫でちょっと一服して来るんや!」
 なるほどぉ!

 あなたのために尽くす汗>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>効率

 今日はこれだけ覚えていってください。
 一生懸命仕事に走り回っているフリが上手いだけのヤツが出世するんです。そんな話を、うちに来る営業がブリブリと本社の文句と一緒に垂れて帰って行ったりしてました……
 仕事に汗するのはいいことです。それは間違いないと、シマシマは思う。
 ただそれは、昔ながらの価値観です。今は前提から違ってきたんです。
 汗した分、正しく評価される世界ならそうでしょうね。と……
 

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