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そもそも社内回線がないんだ、すまない

 クレームの半分は勘違い。二割はこちらの落ち度。二割は触ってはイカン人。残り一割は最初から怒ってる人。

 という感じですすめてきておりましたシマシマnote。今まで触れていなかった残りが、触ってはイカン人。
 言うなれば、話が通じにくい人のことだ……理知的にではなくて、電波的に……という方も。

「申し上げます。この度、天命会議によりホニャララ様の祝福がご降臨いたしましたので周りの方にもご伝達をよろしくお願いいたします」
 という、老女の声での電話がかかってきて一方的に述べた後切れたりとか、そういうのもありましたが、これはまあいいです(いいのか)。害はないので。
 駅に勤務していたときには構内爆破予告も割と頻繁にきていて、しょっちゅう警備員がウロウロしていたりしてたけど、それもまあいいです(よくないけど)。実際爆破されたことはない。
 買い物をしている最中に「あっ……」と思うのが一番ヒヤヒヤする。まあ多いですが!! 何しろ二割に相当するので。
 ただのキレやすい人で話を聞かないのなら、「大変失礼を」でへーこらしてればそのうち収まるのだが、理由が自分の中だけにしかないお客様は落としどころがない。困りどころだ。

 うちで取り扱っていた菓子箱はいくつも種類がある。
 饅頭10個、焼き菓子5個、みたいな取り合わせで1500円。など、お値段と種類が違う。
 これは化粧箱になっていて、カスタムはできない。そして、人気の箱、不人気の箱などがある。
 人気の箱は在庫があるので多くストックしてあるけれど、それでも20とか30が必要な場合は前もってお店に電話するといい。足りないこともあるのでね。
 さて今日のお客は3400円の箱を7箱と言ってきた。
 悪いがこの取り合わせ、たいそう不人気で一、二か月にいっぺん、1箱売れるかどうかだ。ストックももちろん、2箱しかない。
 すみません在庫がございませんで、と言うと、お客は信じられないという顔をした。
「えっ……これよ? この、3400円のやつよ?」
 はい、そーですねー。
「饅頭10と焼き菓子6と最中5の、このセットよ?」
 そうなんですよー、在庫少なくてですねー、すみませーん。
「だって……これが一番いいでしょう? これ、すごく使いやすい箱じゃない! みんなも欲しがるでしょうこれ! 一番人気のはずよ?」
 苦笑いしかできない。自分の感性を信じるのはいいことだが、そんなことは全くない。すまない。それ、売れてない。
「ここに来る前に、みどり店にも行ってきたのよ、そこでもないからって言われてこっちに来たのよ!」
 でしょうねえ。そっちも同じくらいしか置いてないんだろう。他店からかき集めてくるか、注文して後日だったら用意できますが……と、代案を述べようとしたら、お客の目がスッと遠くを見た。そして、大声で言った。
「私にいじわるしてるんでしょう!」
 あの時の目は、なんとも忘れられない。あっ、と思う瞬間だ。
「前の店から連絡がきたんだろう! 私の顔写真と特徴と書いて、この人には売らないようにって、インターネットで回ってきたんだ! 私は詳しいんだ!」
「えっ? は? おちついて?」
「そうでしょうが! 知ってるんだからね! 私の悪口書いていいふらして、いじわるしてるんだ! だってこの箱が無いなんて、そんなはずはないんだ! みんなでインターネットを見て私を笑ってる! チクショウ! 訴えてやる!」
 お客は叫んでスタスタと逃げ出した。

 キレやすい人と比べて、撤退が早いのが救いだった。
 今にして思えば、電波……というよりは、別件でも前科があり、身に覚えがあるのかもしれない。出禁にされて全店舗に通達来たとか。
 何にしろ、思い込みは激しい方であった。
 あの時の目を思い出せば、いや、やっぱり、よくない電波をキャッチしてらっしゃるな、とも思う。

 会社としては、よほどのことがないとそんなこと致しませんのでご安心くださいね……言わずもがな。

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