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サンボの散歩道、始動。引っ越しのごあいさつ

サンボが引っ越してくる2週間前から人間の移動は行われていた。娘の荷物も届いていた。とりあえず、生活ができるように8月の暑い中、ダンボールを開ける作業を黙々と進めていた。ご近所のごあいさつも一応済ませ、「もうすぐ、犬も引っ越してきますので」と伝えてあった。ちょうどお隣さんには猫が2匹、犬が1匹いる。斜め向かいには、外犬の柴犬・サツマイモくんがいる。そのくらいの犬情報だった。

雑草が生い茂る中、カメが外に飛び出してますぜ

夏はアスファルトが熱くなるので、朝4時半起き。5時すぎには太陽が出て、どんどん暑くなっていくので、5時には散歩に出かけなくてはならない。まだ、土地勘もないので、とりあえずダブルリードで散歩に連れ出すことに。

おはよー。ここはどこ?

この頃はよかった。娘が家にいたから、朝夕、どちらかの散歩でよかった。それが半年後、ワンオペになるとは、誰が予想したであろうか。(いや、一抹の不安はあったのだが)

1970年代にM不動産が手がけた分譲住宅地で、かつての「三井のリハウス少女」がお孫さんを連れて戻っているようなご婦人を見かける。思いの思いの戸建で、ひとつとして同じ家はない。純和風もあれば、洋館もあるし、約50年近く経っているので、建て替えて表札が二つあるところもあれば、朽ち果てた誰も住んでいなさそうな家もいくつかあった。全部で約850世帯が暮らしているという。

地区内に6つの公園と「緑地」と呼ばれる、手付かずの雑木林と原っぱが5つくらいある。ひとつひとつ、訪ねてみることにする。

踏ん張るな ハーネスぬける キケンあり
まだ陽が登る前の緑地1

最初に遭遇したのは、まつ毛の長いテリア系のエルちゃん。サンちゃんより一回り小ぶりで、おとなしい。まずは、おしりの匂いを嗅いで嗅がせる。これが基本のご挨拶。しかし、血気盛んなサンちゃんは、この後、ワンプロをいきなり仕掛け、何匹もの犬たちに警戒されることになる。和歌山では常識だったご挨拶が、ここでは通用しないことを知る。

エルちゃんの耳が後ろ向き。警戒されてるよ!
三つ指ついて待つわ

前方に散歩している犬を見かけると、伏せの体制で待つ。
「あら、お行儀いいのね」
と言われるのだが、実際は、近づいたら、襲いかかる準備。
「お行儀いいのは、お前を安心させて襲いかかるためだよ」
「赤ずきんちゃん」に登場するオオカミみたいな感じである。

ほら、いやですって目で言ってるよ

次に会ったのはサテツ。大きめの茶色の柴犬。ご夫婦で散歩をされていて、サテツもたいそう可愛がられている様子だ。サテツは、すでに大人だったため、最初にグイグイいったサンちゃんの印象は悪く、その後も決して近寄ってこない。むしろ、見かけると足早に去っていく。
「サンちゃんが後ろから来るの、鼻息ですぐわかるわ」
とさえ言われている。そう。越してきた当初の引っ張りは今の比ではないほど強かった。サンちゃんの体はつねに前傾姿勢で、斜めになっていた。リードも緩むことはなかった。

あたし、急いでます

和歌山でも引っ張り気味ではあったが、これほどではなかった。なぜか?
情報量が急激に増えたせいではないだろうか。ここM台では、犬を飼っているお宅も多い。毎日、4、5匹には会う。柴犬だけでも10匹くらいいる。その犬たちの匂いのお手紙が至る所にあるからなのでは?

公園に行けば、クンクンと3周くらいし、緑地に行けば、鳥や他のケモノの匂いもするらしい。車の量も和歌山に比べれば多いし、子どもたちも走っている。なにより、郵便屋さんや宅配便の車とすれ違おうものなら、尋常ではない吠えようになる。都会暮らしに慣れることができるのか? 

耳がアンテナのように立っています

よく会うのが、柴犬の茶丸。ちょっとお兄さんであるが、茶丸の家の前を通りかかった時、お庭に入れてもらって遊んだら、いきなりのワンプロでお腹の下に入り込み、吹っ飛ばしてしまった。それ依頼、茶丸は決してサンちゃんより前に出ることはない。

心なしか背中が緊張している茶丸

朝散歩は、それぞれの時間帯があったり、出勤の人もいたりなので、遭遇確率は低いが、土日に夕方には、公園や緑地で犬たちが集っていたりする。

オイラはカギ尻尾が自慢

ここは、わんわん天国なのか、犬に対してとても寛容だ。そして、散歩道の情報、動物病院の情報、いろんなことを散歩しながら、サンちゃんも私も学んでいけた。みな、犬好きの人たちばかりなので、「おや、サンちゃん、いい子だね」となぜてくれる。サンちゃんもサンちゃんで、飼い主よりも他の人たちに擦り寄ってなででもらい、他の犬を威嚇する。なんて、ケチなんだ?

越してきてすぐに、8種混合の予防接種を受けに動物病院に行った時、こう言われた。

「日本犬は神経質で臆病な傾向があるので、子どものうちに、いろんな犬に会わせたり、いろんな道を散歩させたり、いろんな人に会ったり。たくさんの経験をさせてくださいね。そうすることで、動物病院に行った時も暴れたりしなくなりますから」

なるほど。わんわん天国は、人間と共存する犬にとって、練習を積むのにとても好環境だったというわけだ。他のわんこたちも、みなフレンドリーで、人懐っこい。なにより、これだけ毎日散歩に連れて行ってもらえる環境が、彼らにとっていいに違いない。

物陰から物色するサンボ。あのこはワンプロできるのか? いや、たぶんできません。

(甲斐犬サンボの散歩道/2021/08)