「試合」

ボクは思いっきり走りながら、突然、あることに気がついた。どうして、日本にはいいＦＷが育たないかという事である。

「決定力不足」が日本代表の最大の欠点といわれるようになって久しい。その原因としてよく言われるのが、ＪリーグのどのチームもＦＷに強力な助っ人外人を起用しているため、肝心な日本人ＦＷが育たないという意見である。例えば加茂元日本代表監督は、就任当初、各ポジション（ＦＷ、ＭＦ、ＤＦ）に外国人は一人づつしか起用してはいけない、という規定をＪリーグの各チームに要請しようとしたほどである。しかし、果たしてそれが本当の理由であろうか。

というのも、同じく外国人が務めることの多いゲームメーカのポジションには、近年、信じられない程多くの優秀な選手が、次から次へと出てきているからである。今や日本代表の中心選手となった中田や名波はもちろんのこと、さらに小野、中村と、若いながら早くも日本代表の立派な戦力になる人材が後を絶たない。特に中田に関しては、ドゥンガなど海外で活躍していたＪリーガまでが絶賛しているのである。

彼らは「パサー」と呼ばれるパスの「出し手」であり、「受け手」ではない。日本のサッカーレヴェルが向上したとはいえ、それはあくまでも彼ら中盤の選手が主で、前線の選手には釜本や最盛期のカズに匹敵する選手が、全くと言っていいほど育っていない。

ある国の代表監督が言っていたが、各国代表の試合では、否応なしにフィールド上にその国の文化や国民性が出てしまう。日本でパスの「出し手」ばかりが育ち、その「受け手」となり、サッカーで最大かつ唯一の目的である「点を取る」という一番大事な仕事ができる人がほとんど育たないのも、どうやらそこら辺に原因があるようだ。そう、日本は「パサーを生みやすい国」なのである。

昨年のアジア最終予選。Ｖゴールの時間帯に投入され、キーパーと１対１になったのにもかかわらず、結局シュートを撃たずに中田にパスを出してしまった岡野に典型的に見られることだが、日本人選手はゴール前でフリーの形でボールを受けても、自分でシュートを打つより前に、パスを出す味方を捜してしまう。シュートを失敗して非難されるリスクを負った上で、自分で得点を決めてヒーローになる可能性を取るよりも、一番大事なことは他人に任せ、責任転嫁・責任逃れをしようとするのである。

一方、ＦＷというポジションは、その性格上、ある程度自己中心的な要素が求められる。もちろん、ますます組織的になる現代サッカーにおいて、以前のように「俺が俺が」というＦＷが使いものにならないことは言うまでもない。しかし、それでもやはり「俺が決めてやる!!」という強い意志と気概を持った選手でなければ、ＦＷは務まらない。そして、「出るクイは打たれる」という文化圏では、そういう人間は育ちにくい。かくして、日本にはパサーばかりが育ち、ＦＷは育たない……

「そこでシュートだ、シュート!!」

ボクは監督の良く響く甲高い声で我に返った。スペースにタイミング良く飛び出したボクは、左後方から来た味方からのパスを受け、自分でも信じられないくらい完璧に相手ゴールキーパーと１対１になった。ここでゴールが決まれば、ボクのチームは劇的な逆転勝ちを収めることになる。けど、もし外したら……

「何やってるんだ、早くシュートを打て!!」

「ボムッ」

ボクは、後方からエリアに入って来た味方に慎重にボールを出した。