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「whois情報公開代行」サービスが悪用されたとしても、同サービスの提供事業者は、不法行為の幇助の責任を負わないとされた事例(東京地判令和5年3月24日)

 今回ご紹介するのは、あるウェブサイト上での違法な情報発信により被害を受けたと主張する原告が、「whois情報公開代行」サービスを提供する被告に対し、当該サービスが、ウェブサイト運営者の連絡先情報を秘匿し、結果、ドメイン登録者が違法な情報を発信することを手助けした(幇助した)として、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。請求は棄却されています。

東京地方裁判所令和2年11月25日(平成31年(ワ)8875号)West Law 2020WLJPCA11258001

事案の概要

事実関係

原告らの主張によると、まず前提事実として、A社(A社代表取締役を含む場合がある。以下同じ。)が、ウェブサイト(本件ウェブサイト)上に原告らの名誉・名誉感情を侵害する記事を投稿されている。そして、本件は、原告らが、本件ウェブサイトの開設に当たりA社から依頼されてドメイン登録手続を代行した被告に対し、被告がドメイン検索システム「whois」のデータベース上にA社の名称及び所在地を掲載せず、また、その後上記ドメイン登録手続を更新した際に掲載していない状態を継続したことは、A社による上記不法行為を過失により幇助するものであるなどと主張して、不法行為に基づき、330万円の支払を求める事案である。

裁判所の判断

「本件サービスは、企業情報を含むプライバシー情報の保護という社会的な要請から生まれ、これによって利用者の私生活の平穏や企業活動の円滑な遂行といった正当な利益を保護することに資するものであり、これを適法な情報発信に利用するかその他の用途に利用するかは、利用者の判断に委ねられていること(ア)、その一方で、本件サービスは、それ自体、ドメイン登録者が違法な情報発信に利用する場合にも、摘発されにくくする面があるものの、責任追及の余地が全くないわけではなく、その程度はそれほど高くはないこと(イ)、本件サービスの利用者の中には本件サービスを適法であるとは必ずしもいい難い用途に利用している者がいるものの、それは利用者中のごく一部にすぎないこと(ウ)、本件レジストラ認定契約を根拠として、被告が原告らを含む契約外の第三者に対してwhoisデータベースに代行したドメイン登録者の名前と郵便宛先を提供する義務を負っていたと認めることはできないし、A社からの本件サービスの利用が申し込まれた際にA社に個人の私生活の平穏や企業活動の円滑な遂行などといった利益の保護が全くなかったとか、A社の利用目的が本件ウェブサイトを利用して違法行為をすることにあることを被告が知り、又は容易に知り得たとはいい難く、これを根拠として上記義務を負っていたと認めることもできず、その他にこれを認めるに足りる証拠がないこと(エ、オ)などの本件事実関係の下においては、A社が本件ウェブサイトを運営する際に使用するドメインとして本件ドメインを登録するに当たり、被告が本件サービスを提供し、本件ドメインのドメイン登録者の氏名(名称)及び住所(所在地)をwhoisデータベースに登録しなかった行為が幇助行為に当たるとか、その際に被告に過失があったと認めることはできないものといわなければならない。」

解説
 本件は、弁護士ドットコムが報じていた訴訟の判決です。whoisサービスは、ウェブサイトの運営者の氏名や住所を特定するにあたって重要な役割を担うサービスです。しかし、whoisサービスに登録された情報は、誰でもアクセスできることから、特に個人が運営するウェブサイトでは、自分の氏名や住所をwhoisサービスに登録して、全世界にさらすことに抵抗を覚える人も少なくないと思います。そこで、実際の運営者に代わって、whoisサービスの情報を代理で登録し、公開してくれる「whois情報公開代行」サービスが利用されることがあります。
 しかし、「whois情報公開代行」サービスは、同時に、違法なウェブサイトの運営を行おうとする者によって、自分の正体を隠すための手段としても用いられかねず、その場合には、違法なウェブサイトの運営を容易にしていると判断される場合もあるかもしれません。この点、原告代理人弁護士は、「正確な情報を提供せずに登録手続きを代行するのは、違法な事業活動に用いられることを想定しているからに他ならない」と批判しています。
 さて、「whois情報公開代行」サービスは、通常の使用方法では全く問題のないサービスであり、悪用するユーザーの行為についてまで、サービス提供事業者が責任を負うことになれば、あまりにも幇助の範囲を拡大するものであって不当と言わざるを得ず、新たなサービスの開発を委縮させる可能性すらあります。例えば、極端な例では、「ホームセンターが、挙動不審な客に包丁を販売したところ、客がその包丁を使って銀行強盗をしたら、そのホームセンターも責任を負う」かのような議論になってしまいかねません。従前は、この点は、Winnyの事件最高裁平成23年12月19日刑集第65巻9号1380頁)で中立行為による幇助として議論されているところです。最高裁は、次のように述べています。

「すなわち、ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合 や、当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り、当該ソフトの公開、提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。」

 本判決は、「whois代行サービス」のIT技術につき、悪用する者がごく一部にいるだけでは、不法行為の幇助にならないことを認めたという点で一定の意義を有する事例といえます。

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