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「その他ユーザーとして不適当と判断した場合」に基づく解除が認められた事例(東京地判令和5年3月24日)

今回ご紹介するのは、BtoBのオンライン利用規約における「その他ユーザーとして不適当と判断した場合」に基づいて、会社から対象ユーザーに対する契約解除が認められた事例です。

東京地方裁判所令和5年3月24日(令和4年(ワ)第1263号)LEX/DB25608724

事案の概要

事実関係

 原告は、令和3年12月3日から同月5日ころまでの間、インターネット上で、パソコンソフトや同人誌その他の電子書籍のダウンロード販売のためのウェブサイト(本件ウェブサイト)に、原告の作品を登録するに当たり、被告側から指摘を受けて画像処理を行ったが、その際、被告従業員の原告への対応に不満を抱いたこと、原告は、同月6日、本件サイトの掲示板に、上記被告従業員から原告への電子メールの全文や、その被告従業員について「こいつには金輪際、絶対に作業をさせないでください!」との記載を含む、被告ないし上記従業員らの対応を非難する旨の投稿をし、また同日、原告が開設するツイッターアカウントに、今回の被告従業員を名指しした上で、「悪質行為を働いた二名をさっさとクビにしろ!」とする投稿や、今回の被告従業員はNGにするように求めた方がよいとする旨の投稿をした。
 そこで、被告が原告のユーザー資格を取り消す措置をとったため、同サイトを利用できなくなった。本件は、原告が、被告に対し、被告の上記措置が違法であり、これによって得られたはずの利益を得られなかったほか、精神的苦痛を受けたなどと主張して、債務不履行に基づく損害賠償約150万円を請求する事案である。

前提となる利用規約

第20条 禁止行為
 Dサービスを利用する際、ユーザーは以下に定める行為(それらを誘発する行為や準備行為も含む)を行ってはならないものとします(以下「本件禁止条項」という。)。
(1から5まで省略)
6.Dサービスの運営を妨害する行為またはDサービスの信用を失墜、毀損させる行為
(7から9まで省略)
第21条 ユーザー資格の取消
 ユーザーが、次の各号の一つにでも該当する場合は、Dサービスは当該ユーザーのユーザー資格をユーザーに何ら事前に通知及び催告することなく、一時停止または取り消すことができます。この場合Dサービスは既に支払った利用料金の払い戻しなどは、一切行いません。また、当該の措置によりユーザーに損害が生じても、Dサービスは一切損害を賠償しません(以下「本件資格取消条項」という。)。
(1から3まで省略)
4.Dサービスの運営を妨害した場合
(5から8まで省略)
9.本規約のいずれかに違反した場合
10.その他D社(※被告)がユーザーとして不適当と判断した場合

裁判所の判断

「原告の上記行為は、本件サイトの運営を妨害ないしその信用を毀損する行為として、本件禁止条項6号、本件資格取消条項4号に該当し、本件資格取消条項9号に該当するものといえる。また、被告が、上記原告の行為についてユーザーとして不適当と判断するのが合理的であるから、本件資格取消条項10号にも該当するといえる。
 そうすると、被告は、本件資格取消条項に基づき、原告のユーザー資格を取り消すことができるから、本件処分は適法というべきである。
・・・本件資格取消条項10号は、9号までの列挙事由と並べて規定されていることに鑑み、被告が当該ユーザー資格につき本件サイトを利用するのを許容し得ないと判断するのが合理的といえる場合をいうものと解するのが相当である。
 このように、本件資格取消条項は、被告において、本件サイトの利用を許諾することが困難と判断される、ユーザーの不適切な行為があるか、これに準じる状況がある場合に、被告がユーザーとの利用契約を解消できるとの規定であり、被告に無条件の契約解消権を与えるものではなく、また、被告にとって一方的に有利な内容ともいえない。むしろ、本件資格取消条項は、本件サイトの適正かつ円滑な運営を実現するために必要かつ相当な内容というべきであり、本件サイトの登録や利用自体が無償であることにも照らせば、ユーザーにとって過度に不利益な内容ということもできない。」

解説

 オンライン・サービスの利用規約では、会社が「その他ユーザーとして不適当と判断した場合」という条項がよく設けられています。ただし、この表現は、かなり不明確であって、文字どおり、会社が無条件で自由に契約を解除できるという意味であれば、一方的に有利すぎて不公平であるとして、信義則に違反して無効となりかねないため、実務上、この条項にどこまで依拠して解除してよいのかどうかは悩ましいことがあります。
 もし、これが消費者契約であれば、消費者契約法により、無効となる可能性が高まる(さいたま地裁令和2年2月5日判時2458号84頁参照)が、BtoBにおいて、どこまで有効なのかというのは、明確な裁判例が少ない分野でした。
 本判決は、「9号までの列挙事由と並べて規定されていること」や「本件サイトの登録や利用自体が無償であること」も踏まえ、本件条項を「当該ユーザー資格につき本件サイトを利用するのを許容し得ないと判断するのが合理的といえる場合」と限定解釈をしたうえで、ユーザーとの契約を解除することを認めたという点で一定の意義を有する事例といえます。

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