今回ご紹介するのは、ウェブサイト上での「身勝手」、「いい年こいたオッサン」、「無責任」等を含む投稿について侮辱の成立を否定した事例です。
東京地方裁判所令和3年1月21日(令和2年(ワ)27250号)West Law 2021WLJPCA01218030
事案の概要
事実関係
裁判所の判断
解説
本件は、名誉感情を侵害する侮辱であるとして、オンライン上の書き込みについて、発信者情報開示の開示が請求されたものです。名誉感情の侵害については、最高裁判決(平成22年4月13日 民集第64巻3号758頁)によると、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて・・・人格的利益の侵害が認められ得る」ことになります。そして、権利侵害の有無を判断するにあたっては、「本件スレッドの他の書き込みの 内容、本件書き込みがされた経緯等を考慮」することになります。
本件では、本件書込みがされた状況も併せて検討したうえで、「逃げる」、「身勝手」、「いい年こいたオッサン」、「無責任」等の表現については、「原告が不快な感情を抱くことはあり得る」としつつ、「率直な不満の感情及び印象」にとどまると判断されています。
一般的には、単に不快な感情を抱いたというだけで不法行為の成立を認めては、日常生活が不法行為だらけになってしまうことから、ある程度の不快感については、社会生活上甘受する必要があるものと思われます。また、本件では、「投稿者の質問に対し、原告が質問の仕方が不適当である旨を指摘する返答」があったことが発端となっているようなので、売り言葉に買い言葉のような背景事情があった可能性もあります。
上記のように、侮辱が成立するかどうかは、人格的利益を侵害しているかどうかという個別の判断が必要になります。本件では、やや穏当でない表現について侮辱の成立を否定した事例の一つになります。