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「身勝手」、「いい年こいたオッサン」、「無責任」等の表現について侮辱の成立を否定した事例(東京地判令和5年3月24日)

 今回ご紹介するのは、ウェブサイト上での「身勝手」、「いい年こいたオッサン」、「無責任」等を含む投稿について侮辱の成立を否定した事例です。

東京地方裁判所令和3年1月21日(令和2年(ワ)27250号)West Law 2021WLJPCA01218030

事案の概要

事実関係

本件は、原告が、被告が運営するウェブサイトのQ&Aページ上の次の各投稿(本件書込み)について、原告を侮辱しその名誉感情を侵害する書込みがされたとして、発信者情報の開示を求めた事案である。

・本件書込み
「Xさん。逃げるなよ。フリーはいいご身分ですね。好きな事を言って。都合が悪くなると逃げるの?」
「客先を完全に怒らせても自You 返事もする、しないも自You」
「△△人は身勝手なご身分でございます。」
「貴方のような△△人を自称する方が世の中に蔓延らないようにしないとね」
「人に質問の仕方にはちゃんとしたルールを解くのなら吐いた言葉に責任と説明を果たしてから言えよ。」
「一度でもお前で資料を目に通したのか?お前も何も見てないで言葉を返しただろうが。」
「そして何より俺は顧客だ。ここまで顧客を怒らせて。ダンマリ決めて逃げるのは従業員のすることじゃないぞ。」
「見るからに50代。いい年こいたオッサンが息子同じ年齢にここまで怒られてもしらばくれ 娘と同じようなスタッフに尻拭いをさせる この姿に自分で情けないと思わないのか?」
「お前はIT身勝手人だよ。そこらのネット書き込みの野次馬とやっている事は変わらんよ。」
「こんなんで金もらってぬくぬくやっている様には怒りが湧いてくる」、
「まぁこんなコミニケーション取れない奴には今後、仕事なんてないだろうな。」
「お前は関西の人らしいからわかりやすくいってやるわ。オタクホンマええ加減にしーよ こんなナメたことするならやめてしまえ」

裁判所の判断

 「本件書込みは、いずれも○○のウェブサイト上のQ&Aページにおいてされたものであり、投稿者の質問に対し、原告が質問の仕方が不適当である旨を指摘する返答をし、その後特段の返信をしないでいたところ、かかる対応に対する苦情ないし不満を述べるものとして投稿されたものであると認められる。
 このような本件書込みがされた状況も併せて検討すると、本件書込みの「逃げる」、「身勝手」、「いい年こいたオッサン」、「無責任」等の表現により、原告が不快な感情を抱くことはあり得るものの、本件書込みは、基本的には、原告による返答ないしその後の返信がないことに対する率直な不満の感情及び印象を述べるものにとどまり、殊更に原告の人格が無価値であるとしてこれを否定したり、原告の人格を直接著しく攻撃したりするものとまではいい難い。仮に、本件書込みについて、侮辱行為として不法行為責任を生じるとすると、特定の質問に対する対応振りについて否定的な評価を述べること自体に相当な萎縮が生ずることとなり、相当でない
 したがって、本件書込みにより、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為がされたとまでは評価できないというべきである。」

解説
 本件は、名誉感情を侵害する侮辱であるとして、オンライン上の書き込みについて、発信者情報開示の開示が請求されたものです。名誉感情の侵害については、最高裁判決(平成22年4月13日 民集第64巻3号758頁)によると、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて・・・人格的利益の侵害が認められ得る」ことになります。そして、権利侵害の有無を判断するにあたっては、「本件スレッドの他の書き込みの 内容、本件書き込みがされた経緯等を考慮」することになります。
 本件では、本件書込みがされた状況も併せて検討したうえで、「逃げる」、「身勝手」、「いい年こいたオッサン」、「無責任」等の表現については、「原告が不快な感情を抱くことはあり得る」としつつ、「率直な不満の感情及び印象」にとどまると判断されています。
 一般的には、単に不快な感情を抱いたというだけで不法行為の成立を認めては、日常生活が不法行為だらけになってしまうことから、ある程度の不快感については、社会生活上甘受する必要があるものと思われます。また、本件では、「投稿者の質問に対し、原告が質問の仕方が不適当である旨を指摘する返答」があったことが発端となっているようなので、売り言葉に買い言葉のような背景事情があった可能性もあります。
 上記のように、侮辱が成立するかどうかは、人格的利益を侵害しているかどうかという個別の判断が必要になります。本件では、やや穏当でない表現について侮辱の成立を否定した事例の一つになります。

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