カレーを食べたい日の私
カレーを無性に食べたくなることがある。
手軽にレトルトを温めるのもいい。
たまには、愛想がいいんだか悪いんだかわからないインド人がやっている店のチキンカレーに、ナンをちぎって浸して口に放り込もうか。
しかし、いちばん厄介なのは、「何かそんな気分じゃない」と思ってしまったときである。
作るしかないじゃないか。
とはいえ、私は、カレーを「作りたい」わけじゃない。
カレーを「食べたい」のだ。
だから、よく解らない名前のスパイスなんかは使わない。
寝ても覚めてもカレーのことばかり考えている食品会社の社員さんが、満を持して世に出してくれたルーを、ありがたく使うことにする。
玉葱を薄く薄くサクサク切って、油をひいたフライパンに入れてさっと炒め、水を少量加えて蓋をする。そうして弱めの火力で放置。
火が通ったら、火力を上げてきつね色に仕上げて、鍋に移す。
このフライパンで、小さく切った豚バラ肉をほんの少量、炒める。
少しだけ水を足して、フライパンにこびりついたうま味も全部溶かし込んで、豚肉と一緒に、鍋に移す。
人参は小さめに、コトコト刻む。
煮込む時間を短くしたくて、電子レンジで加熱していたこともあったけれど、「しわっ」「ぐにゃっ」とした形になるのがいやで、結局鍋で煮るやり方に、戻ってしまった。
これも鍋に入れて、お水を足して、蓋をしてから火にかける。
人参に火が通ったら、じゃがいもの皮を剥いて、小さめの一口大にコトコト刻む。じゃがいもは小さめのものをいっこだけ。それ以上は入れない。
鍋に入れて、またゆっくり火にかけて。
のんびりテーブルで待つ。
何にも味をつけてないのに、もう美味しそうに見えるのはなぜだろう。
串でつついたじゃがいもがほろりと割れたら、火を止めて、ルーをいっこずつ、ぽとりと入れては、箸で摘まんでちゃぷちゃぷ溶かす。
全部で6個。ちゃぷちゃぷ。とぷとぷ。
隠し味には、こだわらない。プロの力を信じてる。
でも、たまには、ケチャップなんかも入れてみる。
ウスターソースをほんの数滴。
そうして、蓋をしないで弱火にかけて。
「ぐつぐつ」という音が「クツクツ」という音に、だんだん変わってくる。
換気扇を回していても漂う、カレーの匂い。もうおいしい。
そしたら、最後に。
ちっちゃい、ツナ缶。
パカッと開けて、汁ごと入れる。
ひとかけらも残さないように、缶の中をお箸でカシカシ。
トロリトロリとかきまぜて、馴染んだら、火を止める。
すぐに食べたい。でも、少しだけ我慢。
時間が、カレーを、もっとおいしくしてくれる。
20分から30分。もう待てない。もう一度温め直して。
お皿に盛ったごはんの上に、ケチケチしないでたっぷりかける。
普通の具材に、普通のルー。
こだわりのスパイスも、高価な具材も、使ってない。
何時間も何日も煮込んだわけでもない。
人には全然自慢できない。誰からも驚いてもらえない。
だけど、ひとくち食べると、なんだかほっとする。
じゃがいもは溶け崩れて、玉葱はしっとり馴染み隠れて、ちいさな人参と豚肉がちらほらと見えている。
ごはんの上にトロリとかかる、辛くもとがってもいない、おだやかな茶色のルー。
それを、全部、ツナの風味が優しく包んでくれる。
口の中に広がるツナの味と香り。だけどちゃんと周りと馴染んでる。
とっても優しい、そんなカレー。
ああ食べたいなあ。
食べたいけれど、作るのが面倒くさい日に、私が読んで味を思い出してそれで満足するために、要は自分のために、書いてしまいました。
でも、カレーにツナ缶を入れるの、本当に美味しいですよ。
よろしかったらお試しあれ。
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