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目を開けてキスをしたのは何故か、を考える:”ふたりのGraduation”

いつぞや坂崎さんがラジオで高見沢さんが作った数多の楽曲の中でも特に素晴らしいと思う曲(一番好きかもしらん)だと言っていました。30年ぶり2度目の沼落ちな私は、そのラジオで初めてちゃんとこの曲を聴いた気がします。幸ちゃん感謝!

ポツポツと降る雨を見ていると聴きたくなる、この歌。1989年発売のアルバム"DNA Communication"に収録されているリードボーカル・高見沢さんの淡い、甘い、青くて尊い、そんな表現が似合う声と歌い方に魅了される名曲です。
*歌詞はこちら:Victory Gardenさま

Graduation ・グラジュエーション・卒業、とタイトルにもあるので、何となく雨の中別れを決め、それぞれの道を進むことになった二人の恋が雨と共に消えてゆく・・・なのかなぁ〜〜と聴いていました。

歌詞全体は人の動きや状況や周囲の描写がありながらも、ストーリーを明白に描くようなものではなく(最近はそのような歌詞が多いですね)、とても抽象的。
聴き手の想像を促しながらもただ漠然と、それこそ雨に煙るようにぼんやりと悲しい気持ちが残る、そんな言葉選びと構成だな、と感動します。
さすが天才・高見沢さん!

今回の考察は、みなさんが不思議でならない(?)
なぜ目を開けてキスしたの???
を理解するために周りに散らばったヒントを集めながら、歌詞を読み解いていきます!

時間軸の揺れと気持ちの揺れ


物語の始めは二番から!そして三番に時間が動き、一番の歌詞は”今”の僕が見ている情景と気持ちを描いています。

”君”と”僕”の出会いから今日までの時間描写の二番。

(二番)出会った頃はスニーカーのまま 歩いて行けると信じてた
でも時は流れ 君変わった 素直さ隠すように赤い口紅

ふたりのGraduation:歌詞・高見沢俊彦(以下引用も同)

ここからふたりの出会いはまだ子供(少年・少女)だったころで、成長とともにお互いが変わり、それゆえに”卒業”を迎えることがわかります。
”君”変わった、とあるので自分も周りも変化したのですね。
後に続く ” stop stop stop pain / 時を止めて/ 出来るなら/ ふたり大人にはなりたくなかったね” からも成長に伴う痛みや辛さに苦しむ彼の様子がわかります。

そして次に続くのは三番の歌詞。
雨にけむる TOKYO-BAY” から始まります。この部分は別れの瞬間に向かう刹那を描いています。

(三番)雨にけむる TOKYO-BAY 目を開けKissして ふたりのGraduation
Stop Stop Stop Rain 冷たい雨 Stop Stop Stop Rain 
まるでふたりシャンパンを浴びたように佇んで

三番の最後、”雨の中消えてゆくLove story” とオーバーラップして、彼から遠ざかり、雨の中を去ってゆく彼女が一番で描かれています。

(一番)雨に輝く TOKYO-BAY 君が素足で歩きだす 一秒ごとに濡れてゆく髪

Stop Stop Stop Rain 想い出が 雨の中で今 消えそうさ

三番の別れの場面では雨に煙っていた東京湾ですが、彼女が自分から去る様子を描いた一番では雨に輝いています。

別れのキスをしたら、どこか寂しくも清々しい気持ちになった、そんな揺れる心が歌詞に現れているのですね。
薄暗くもやっとした嫌な気持ちが、晴れやかで美しい未来が待つような輝きを求めるように。それを彼が東京湾をどう見ているで表現しています。
こういう細かく美しい描写がまーさーにーーーー(大声)高見沢さんの天才っぷりを表しています(ハート100個くらいつけたい)。

シャンパンは何を象徴しているのか

別れのキスをして、その場にしばし佇む様子を高見沢さんは ”シャンパンを浴びたように” と描いています。
シャンパンが象徴するものは何かな、と考えたときに、ふたりの別れが清々しく美しい節目になったことを描いているのかなと思いました。

シャンパンは人生のいろいろなお祝い時に出て来ますね。卒業式、結婚式、昇進パーティー、記念日などなどです。悲しい集まりでは飲まないものという決まりはありませんが、お葬式や離婚した友人を慰める場ではシャンパンは登場することは稀だと思います。
そしてシャンパンを浴びる場面をよく見るのはスポーツのレースや試合などで勝った人ーーー勝者・WINNER です。寂しく打ちひしがれる人ではない。

彼女の髪が1秒ごとに濡れていくほどの雨なので、さらさらと降る霧雨なのでしょう。シャンパンの小さく弾ける泡のような雨粒と晴れやかな一歩を踏み出すふたりの”卒業”という節目を祝う描写かなと思います。

ロマンティックな最後のキス?

寂しさもありながら、晴れやかな気持ちで(少なくとも彼女は)”卒業”し、別れてゆく二人。
目を開けてキスをした、ふたりのgraduation・・・・ふむ。
みなさん ”え???目を開けてキスゥ〜〜〜?”と思ったはずです(笑)
以前ライブのMCでも ”目を開けキスしてだよ〜ははは” と高見沢さんは笑っていましたね。

キスをする時は目を閉じるもの! 
誰に教えてもらったわけでもないですが、甘いキスを大好きな人とするときには目を閉じてその瞬間は全ての感覚を唇に集中させたい、そんな理由でしょうか。(もちろん目を開けたまま派の方も否定はしませんよ笑)

私はこの場面、僕と君はロマンティックなキスをしていなかった、と考えます。
唇を合わせて、最後の甘いキスをする間柄ではなかったのでは、と思っています。

その理由はそれぞれのサビ場面から。

(一番)Stop Stop Stop Rain 冷たい雨 Stop Stop Stop Rain これ以上
あの娘のHeartを凍えさせないで

”君”から”あの娘”になることで彼女がもう遠くに行ってしまった心情を描く一番。
”これ以上〜凍えさせないで” ということは雨が冷たくしてしまう前に、彼女のハートはすでに冷めていたのですね。彼に対しての熱い思いはもうとっくになかった・・・涙。

(二番)Stop Stop Stop Cryin' 泣かないでStop Stop Stop Cryin' 
いつまでも 夢見る少年のままでいたかった

そしてここで泣いているのは多分彼の方です。夢見る少年が見た夢は、彼女といつまでも愛し合う、一緒にいるという夢だったのかな。その夢は彼女が雨に消えてゆくと共に弾けてしまう。

(三番)Stop Stop Stop Rain 雨のなか Stop Stop Stop Rain 消えてゆく
君と僕との Love story… Forever 

そして君と僕とのラブストーリーは消えてゆく・・・最後のforever は”ラブストーリが永遠に残る・続く”という意味ではなく( lasts forever)、永遠に消え去る (gone forever)だと読めます。この部分での動詞は”消える”しかないので、”永遠に”はそれにかかっているのでしょう。

こんな悲しさ満載のサビ部分から、私は高見沢さんが”目を開け” とわざわざキスの情景を表現したのは、これはロマンティックな熱いキスではなかったことを示唆しているのでは、と思っています。

というのも

私も目を開けてキスをすることがしょっちゅうあることに気づいたからです!!!

Hello とか Good bye とかの、あいさつのキスです。
唇ではなく、頬を合わせながら チュッチュッチュとするあれです。
シマ夫の両親・兄妹とは、右チュ>左チュ の2回。
スペインに住んでいた時は、右チュ>左チュ>右チュ の3回でした。

ヨーロッパや南米から来ている私の生徒たちとも、そのご両親とも、頬に軽く唇を当てたり頬を合わせて音だけ立てたり、とあいさつのキスをします。
その時はお互い目を閉じていません。目を閉じるとちょっと変な感じもします。

彼と彼女の最後のキスは、もう他人同士の”別れの合図”としてのキスだったのだろうと思えます。

ここで高見沢さんが ”目を閉じキスして”と書いていたら私たちは彼らはまだ愛し合っているけれど、卒業という選択をした、と錯覚するかもしれません。
でも高見沢さんは、”目を開け”という一言で彼らは(少なくとも彼女の方は)もうロマンティックな関係でもなく、熱い感情もない、という”ふたり”の終わりを描いた・・・・・天才ですね、控えめに言って。

すでに3500字を超えておりますので(汗)、このあたりで終わりますが、この曲には他にもたくさん高見沢さんの言葉のマジックが隠されています。

いつも”聴き手が感じるまま聴いてほしい”と高見沢さんは言いますが、今日は歌詞カードを読みながらこの曲を聴いてみませんか?

そしてキラキラと輝く雨粒のように散りばめられた言葉の意味や意図を考えながら、高見沢さんの天才っぷりに感動してください🩷

あぁ、高見沢さん天才やーーーーー!!!

シマフィー


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