見出し画像

電線絵画展

大学の時の写真部の顧問が大学の近所のカメラ屋のオヤジで
写真部の写真展に来て寸評を言うのだが
風景を撮った写真を見て
「この電線はなかった方が良かったな~」などと言う。
僕たちは何言ってるんだおっさんと言う感じで聞き流していた。
そこにあるのだからしょうがないだろう、現実なんだから。
というのが僕たちの考えだったと思う。
しかし、カンパしてくれるので聞いているふりはしていた。

画像5

最近「天と地」という大げさなタイトルを設けて
空や地面を撮っているが、街中で空を撮ると大抵は
張りめぐされた電線が画面のどこかに写る。
邪魔者とか言っていたら空は撮れなくなるので
むしろ電線を主人公にして撮る場合もある。
複雑に交差した線と線が浮かび上がる夕焼け空は
日本ならではの風景でもある。
地中化が進んでいるのはまだまだ一部で
日本の空からは当分の間電線が消えることはなさそうだ。

画像3

もう一方の地面の方は枯れて落ちた花や葉っぱや
アスファルトに描かれた道路標示から棄てられたゴミまで
そして勿論女性の脚も被写体に含まれる。
ややロマンティックな空とかなり現実的な地面との
組み合わせは果たしてどうなるのか…。

画像4

僕が電線のある風景を撮っているので
知人が練馬区立美術館で
「電線絵画展ー小林清親から山口晃までー」という
展覧会をやっていることを教えてくれたので行ってきた。

日本で電気を使い始めた明治時代、
電線や電柱は排除すべきものではなく
文明開化の象徴として絵画に積極的に描かれていた。
展覧会では明治から平成、令和までの電線が描かれた
絵画を通して日本の歴史の一面を見ることができる
ユニークな展覧会になっている。
電線にはなくてはならない電気を絶縁するための
碍子の展示もされている。
これらは本来送電のための磁器製の部品であるが
その機能から生まれた無駄のない形に
工芸品のような美しさがありコレクターもいるらしい。

画像2

ちょっと前に電柱・電線が景観を破壊するという趣旨の
メッセージビジュアルが、北斎の赤富士に
わざと電線・電柱を描き加えたビジュアルを使って作られたが
逆にかっこいいと話題になったそうだ。
やぶへびというのか、皮肉な結果だ。
このビジュアルを作ったデザイナーは確信犯ではなかったか。
たしかに邪魔というよりは電線と電柱が赤富士に
ダイナミックにコラージュされて確かにかっこいい。
今回の展覧会でも展示されている。

電線は一見すると無秩序に張り巡らされているように見える。
しかし日本の建築物が無秩序に建てられているから
そこに配電するための電線も無秩序に見えてしまうのである。
実際には建物に効率よくかつ安全に配電するために
現実の複雑な空間と折り合いを付けつつ
マニュアルに則って施工された結果の姿であって決して無秩序ではない。
必要に迫られて空に描かれた機能的な線画とも言える。
それゆえに緊張感のある美しさを感じるのだろう。

画像1

電線のある風景を撮り始めた自分にとっては
とてもタイムリーな展覧会だった。
美術館を出たらすっかり日が暮れて
駐車場のサインの「空」が目に入ったので
空を見上げて写真を撮ったら電線写真となった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?