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【書評】『フェオファーン聖譚曲op.Ⅰ 黄金国の黄昏』一人はみんなのために


また一つ、傑作王道ファンタジーが誕生した。
そんな予感がした。

フェオファーン聖譚曲op.Ⅰ 黄金国の黄昏

たまたま立ち寄った本屋さんでこの本が置かれているのを見た。
ひとめぼれだった。

赤一色の背景に黒と白の文字、中央にはキラキラと光る鍵。
装丁にここまで惹かれたのは、人生で初めてだったかもしれない。

表紙には、黒字で知らない文字が書かれている。
白字で「黄金国の黄昏」、「フェオファーン聖譚曲」と書かれている。
帯には、「ソリッドファンタジー」と書かれている。

黒字の単語の意味は?
黄金国の黄昏とは?
フェオファーン聖譚曲とは?
ソリッドファンタジーとは?

まったくわからなかった。


それでも反射的に手にしていた。
引き寄せられるようにこの本を手にしていた。
引力のような、魔力のような力に抗うことはできずに、気が付けば購入していた。

内容は中世ヨーロッパを舞台とした王道ファンタジー。
大王国があり貴族が名を連ねている。

貴族階級と農民との間には絶対的な差がつけられていて、農民と辺境貴族の間にはいさかいが絶えず、大王国にありがちな貴族の腐敗や政権争いが描かれている。
中世ヨーロッパファンタジーと聞いて思い浮かぶ世界そのものが、この本の中に広がっている。

まさに王道ファンタジー。

王道の話をイメージすることは簡単だけど、いざ描くとなったら容易じゃない。

『ナルニア国物語』に『指輪物語』に『ハリーポッターシリーズ』。
ファンタジーと聞けば、不朽の名作の名をいくつか浮かべることができる。

そんな名作中の名作たちと肩を並べるほどの話を描く、「勇気」と「覚悟」を私は持ち合わせていない。
大半の人は持っていないんじゃないか。


ただ、菫乃園ゑさんは持ち合わせているようだ。

誰もが知るような名作たちに匹敵するような話を描く自信を、その先の世界を覗こうとする勇気を。


その自信、その勇気、その覚悟。
それに応えるのが、本作の『フェオファーン聖譚曲』だ。

読者に物語の世界観を伝え、新たな企みとそれを阻もうとする清廉な心を持つ少数派の存在、そして、、、。

王道でわかりやすく、そして続く二巻以降へのとてつもない引力を感じさせる。
第一巻として、これ以上にない滑り出し、と言えるんじゃないか。

もし、本『フェオファーン聖譚曲』シリーズがこれ以後も、その勢いを落とすことなく、そして見事に物語をまとめ上げることができたのなら、、、

ファンタジーというジャンルにおいて、間違いなく傑作に数えられることになる。だろう。

今はただ、期待し、胸を高鳴らせながら、第二巻を待つばかり。である。
耳をすませば、黄昏の鐘の音が聞こえてくる。


まだ第二巻が刊行されてもいないが、第一巻終了時点での今後の展開を勝手に予想します。ネタバレになる可能性があるため、未読の方はここで引き返してください。



・アントーシャの前に妃となる女性が現れる

『三銃士』を参考にしている(と思う)のであれば、ダルタニャンにとってのコンスタンスのように、アントーシャにとっての女性が現れるのではないか。


・エリク王がアントーシャの超人的な魔力に気が付き、ゲーナと同じように隷属の魔術紋をかけようとする

230頁にて、エリク王はゲーナがアントーシャに身分や領地を受け継いだと聞いた際の不自然さを感じていた。その違和感を探り当てたエリク王はアントーシャに隷属の魔術紋をかけようとするのではないか。



・ダニエ(もしくはヤキム)がアントーシャ(もしくはゲーナ)に隷属の魔術紋で操られる

243-244頁にて、アントーシャがゲーナにかけられていた魔術紋の対象を変更したことから。ゲーナの精神を鍵に留めておくことができたことからも。
上のエリク王のくだりといい、予想でもなんでもなく描かれている文章からそうなってしかるべきだ、というだけの話だが。
チェーホフの銃的な。


最後に、菫乃園ゑさんが本作を描くにあたって、影響を受けたであろう物語や要素を、私なりに勝手に妄想してみた。

・『三銃士』アレクサンドル・デュマ
騎士団、決闘、貴族制度、主人公を評価する身分の高い存在(=トレヴィル)、企みごとを謀る女性(=ミレディー)。

・なろう小説全般の主人公の設定
主人公が他を圧倒するような超人的な魔術量を保持していること


面白ければなんでもいいと思うので、ぜひ滅茶苦茶面白いお話を書いてください。一読者として応援しています。

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