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素朴な塩パンにまつわる物語

先日、神田川ベーカリーのお店に立っていると、いつも塩パンをたくさん買ってくださる白髪のご婦人がお店にいらっしゃいました。
小柄な方で、いつもエプロンをしてパンを買いに来てくださる方。

「塩パンを8個ください」

今日もたくさんの塩パンをご注文されてから、ブリオッシュなど2.3個のパンを追加でご注文してお会計を済ませたあとで、ご婦人が笑顔で話し始めました。

「最近、パンの種類がたくさんふえてきたわね。このパン屋さんが開店した頃、主人とよくパンを買いに来たのよ。主人の病院の帰りに表通りでタクシーを降りて、ここに寄ってよくパンを買ってたのよ。その直後に主人が亡くなってね。それで、私はその頃食欲がなくなってしまったけれど、ここのパンが美味しくて塩パンを食べて元気をもらいました。」

僕は、勢いと想いだけで、修行した職人さんもいない中でスタッフたちとお店を立ち上げたこと、当時のスタッフたちが大変な中、なんとかお店として成立させてくれていたこと、最近メンバーがかわったけど、なんとかお店が軌道に乗り始めたことなどを一生懸命に話しました。

ご婦人は最後に「私、ここの塩パンがなかったら生きていけないの。だから頑張ってね」と言ってお店を後にされました。

僕は「ありがとうございました。またお待ちしております。」って声を振り絞って深々頭を下げました。

ご婦人が去った後でお店で泣きました。
当時のスタッフたちと、今続けてくれているメンバーに感謝して。

お客様にそんな風に話していただいて、感謝されて応援されるお店なんだなと。

パン屋さんって素晴らしい仕事だなと思いました。

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