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婚活サイト(マッチングアプリ)では「プロトタイプな女」より「リアルが透けて見える女」が好まれる。

「お嫁さんにしたいタイプ」は、いつの時代も不変だ。

家事全般ができて、特に料理が上手なこと。
優しくて包容力があり、何でも許してくれそうなこと。
女性らしい丸みのあるライン。美しい髪。
どこもかしこも、すべすべで柔らかそうなイメージ。
小動物っぽさ。守ってあげたくなる儚さ。

残念ながら、私にはどれひとつ当てはまらない。

家事はできるが、料理は苦手。
懐は深いかもしれないが、他人への許容はわりと厳しい。
丸みはあっても色気はない。ヘアサロンまかせのニセ美髪。
肌はかろうじて滑らかだが、肉はセルライトで硬い。
165センチの大女には、頼もしさしか感じない。

しかしネット上のプロフィールであれば、すべて偽装することができる。
女子アナっぽい髪型と服装の上半身写真(顔は見切れさせておく)にすれば、なんとなく「嫁にしたいタイプ」っぽく見せられなくもない。

しかし私は、肝心のことが頭から抜けていた。

何人と出会おうと、会わなければ1ミリも進まない

いくらネット婚活とはいえ、相手とリアルで会えば、偽装プロフィールであることは一目瞭然だ。
嘘をつき通したまま結婚できるはずがない。そんなニセモノの私を好きになられたところで、嬉しくもなんともない。
そもそも相手に失礼だ。結婚詐欺ではないにしろ、どこかのタイミングで「騙された」と思われるのがオチだ。

何通かいただいた男性からのメッセージに、私は無難な返事をした。「会いたい」を具体化することは極力避け、デートに誘われても「繁忙期なので、来月以降で」と引き延ばした。

偽装プロフィールの出来がよかったせいか、婚活サイトでは毎日何名もの男性とマッチングし、うち2~3名からメッセージが送られてきた。だがメッセージのやりとりばかりで会えなければ、そのうち相手はしびれを切らす。

「絶対に会わない」前提でのらりくらりと泳いだ結果、メッセージをくれた男性全員がフェイドアウトしていった。その間、私はいろんな質問を投げかけ「婚活サイトに登録するような男性のタイプ」をこっそりリサーチした。

ちょうどエンジニアの仕事が多忙だったこともあり、誰とも会わないまま、男性たちとメッセージのやりとりだけを私は繰り返した。

気がつけば、婚活サイトに登録してからさらに半年が経ち、私は47歳になっていた。50名あまりもの男性とネット上で出会っていたにもかかわらず、ひとりも進展させなかった。
46歳の1年間は仕事も収入も増えたが、再婚する可能性は1%もアップしなかった。

隠さなくても、バレなかった

47歳を迎えてから「のんびりしてる場合じゃないぞ」と思い直し、プロフィールの内容を大幅に変えた。嘘偽りなく、だけど男性からは「会ってみたい」と興味を惹くようなエッセンスを随所に散りばめた。

いい嫁アピールをやめ、物書きであることを明かした。
愛と性について執筆していること、エンタメ系であることも添えた。
「ペンネームは会った際に教える」と書き記し、「会えそうな女性」であることをさりげなくアピールした。

婚活サイトはどこも、初期登録時に注目されるようなアルゴリズムになっている。だから最初はマッチング件数も多くなり、比例してメッセージ件数も増える。
プロフィールを別人レベルに書き換えるなら、一度退会して再登録したほうが注目されるはず。だけど私はそうしなかった。それは登録時の本人確認やらカード登録やらが超絶面倒だったからだ。再びその手続きを踏むには、モチベーションが足りなかった。

ちょうどメッセージのやりとりが全員途切れたところで、私は「本来の私」にプロフィールを刷新した。写真も替えて、ちゃんと顔出しした。

もうこの頃には「顔バレ」も覚悟した。別に有名人でもないし、バレたところで5ちゃんねるにスレッドが立つこともないだろうと開き直った。
結果、婚活サイトで活動していた約1年の間、会う前に島田佳奈だと見抜いたのは、たったの3人だった。それはそれで、ちょっと悲しかった。

男は単純だけど、バカではない

見知らぬ男性と(ネット上で)出会い、メッセージのやりとりをする中で、複数から指摘されたことがある。

「サクラじゃないですよね?」

潜入(体験)取材を兼ねてはいたが、私は決してサクラじゃない。むしろ、何がなんでも相手を見つけて再婚するオチまで持っていくぞ、と自分に言い聞かせていたほどだ。

そのくせ、偽装プロフィールで活動していたから、メッセージを送ってくる相手も半信半疑だったのだろう。
「こんなプロトタイプの女性など、婚活界にいるはずがない」
直球で指摘して図星じゃなければ、女性を傷つけてしまう。だから男性たちは、婉曲な言い回しで私にたずねてきた。

どの男性も、最初の何往復かは無難なやりとりをする。しかしプロフィールから話題を広げるのも限界になると、以下のパターンに変化する。

◆「俺通信」派
自分の話題ばかりなのは、相手にさほど興味がないのか、コミュニケーションが下手な証。
◆「お天気」派
ニュースや時節柄な話題を無理やりひり出してるから、こっちから掘り下げてもそれ以上広がらない。
◆「リアル重視」派
3往復が限界で「会いたい」とデートの約束に終始するのは、文章が苦手なのか、ヤリ目だからなのか。

残念ながら、私はどのタイプにもフラグが立たなかった。そして自分は、何通でもメッセージのやりとりが続く、お互い返事を考えることが苦にならない「フィーリング合致」派を求めていた。
そのことは、50名以上とメッセージのやりとりをするなどという稀有な経験をしなければ、わからなかった。

複数の男性からサクラかと疑われたのは、なかなか会えなかったことと、プロフィールが無難すぎたことが原因だ。課金の別サイトに誘導されるわけではないから(当たり前だ)、サクラではないにしろ、出会い目的ではないだろうと睨んだのは、ある意味正解だ。

世間では「サクラに騙された」という声も多数ある。私自身、婚活サイトを利用するような男性は「恋愛弱者の騙されやすいタイプ」ばかりかと、先入観を抱いていた。穿った見方をして申し訳ない。

ネットの向こうで結婚相手を探しているのは、成人した大人の男性だ。普段は立派に社会人として働き、独りで自立して生活している(はず)。
そもそも自身の生活さえままならないレベルの男性が、婚活市場にいる可能性は低い。

女性とは違い、男性が結婚を考えるのは、余裕があることの表れだ。経済的にも精神的にも余裕があるからこそ、次のステップとして「そろそろ結婚して家族をつくりたい」と考えるのだ。

とはいえ相手に困っていなければ、婚活市場に入ってくることはない。つまり、恋愛的には多少の不自由(出会いがない、モテない)があるからこそ、婚活サイトへと裾野を広げているともいえる。

……ふと我に返った。

私だって同類だ。
モテるかどうかはさておき、ヒキコモリな自宅仕事の自分は、年齢的にも同世代は既婚者ばかりだから、出会いの絶対数が少ない。

メッセージをくれる男性たちを、心の中でバカにしていたことを、私は反省した。
「どうせモテない奴なんだろうな」と先入観を抱いていた。でも真実は、ちょっと自己アピールが下手だったり、年齢の割に女性の扱いが慣れていない(経験が少ない)だけだ。

プロフィールを変更して以来、マッチングする男性のタイプが大きく変わった。
それもそうだ。私の出す条件が同じでも、私そのものがキャラ変したからには、私みたいな女性を好む男性しかマッチングしないのだから。

プロトタイプのときは、同年代~還暦のモテなさそうな男性(失礼)ばかりが寄ってきた。
だがリアルな自分を出してからは「え、こんな人が婚活サイトなんかやってるの?」というタイプの男性ばかりが寄ってくるようになった。

どの男性もレベルが高い。ちょっとワクワクした。
今度は「会ってみたい」と、自分のほうから思うようになった。

このとき、私は婚活サイトにおける「罠」のことを、すっかり忘れていた。

(つづく)


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