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地方公務員のパラレルキャリア。総務省の通知は後押しできるか、それとも……


今年の1月。

総務省から「『営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する調査(勤務条件等に関する附帯調査 』の結果等について(通知)」という、自治体に調査結果を共有する通知が発出されました。


この通知が別添も用いて伝えているのは、地方公務員法38条の運用の実態について全国の自治体を対象に実施した調査の結果です。

但し、調査の結果を伝えるだけではなく「社会貢献活動等を含む職員の兼業の許可に当たっては~適切に対応するように」と助言しています。通知にも書いてあるとおり、地方自治法に基づく技術的助言です。

この記事では今回の総務省のこの通知が、公務員のパラレルキャリアにとってどんな意味があるのか、考えてみたいと思います。


ちなみに私自身の考え方は下記のとおりです。

そもそも許可の必要な兼業であるか否かを報酬の有無だけで線引きするのは限界があると思っており、お金(有形資産)、スキルや人脈等(無形資産)、そして地方公務員としての業務での成果と総合的に考えるべき

詳しくはこちらの記事で整理しているので、よろしければご覧ください。



◆地方公務員は兼業・副業が禁止されている

地方公務員自身もそうではない人たちも、「公務員は副業できないんでしょ~」というニュアンスで理解されているのではないでしょうか。

その根拠となるのは地方公務員法38条です。

地方公務員法
(営利企業への従事等の制限)

第38条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。

2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。


この地方公務員法38条が定めていることを条文から読み解くと要するに

 ①営利企業等の経営に参画すること
 ②営利企業等を自ら経営すること
 ③報酬を得て事業に従事すること

この3点を「禁止」しており、行うためには任命権者(首長等)の「許可」が必要であるということです。


しかし、どのような場合に許可できるのか、この条文だけだと判断が難しいので、人事委員会が許可の基準を定めることができるとしています。

ちなみに、さいたま市の人事委員会が定める規則は以下のとおりです。

営利企業等の従事制限営利企業への従事等の制限に関する規則
(平成14年10月1日/人事委員会規則第17号)
(許可の基準)
第3条
 任命権者は、職員が法第38条第1項及び前条に規定する地位を兼ね、若しくは、自ら営利企業を営み、又は報酬を得て、事業若しくは事務に従事しようとする場合は、次のいずれかに該当する場合を除いては、許可してはならない
(1) その職員の占めている職と当該営利企業との間に特別な利害関係がなく、かつ、その発生するおそれがない場合
(2) その職員の職務の遂行について、支障がなく、かつ、その発生のおそれがない場合


これも一応は許可の基準ではあるのですが「おそれがない場合」というこの基準は、申請者が「おそれがないこと」を証明するのが難しく、実態は審査にあたる人事当局の判断に委ねられている部分が大きいように感じます。


そもそも、この基準が定められていない団体も多いようです。



◆総務省通知とは何だったのか

今回の総務省の通知の話に戻ります。

この通知は正確には「『営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する調査(勤務条件等に関する附帯調査)』の結果等について(通知)」という通知で、自治体に調査結果を共有する通知です。

冒頭でも書きましたが、伝えているのは、地方公務員法38条の運用の実態について全国の自治体を対象に実施した調査の結果です。
但し、調査の結果を伝えるだけではなく「社会貢献活動等を含む職員の兼業の許可に当たっては~適切に対応するように」と助言しています。

適切に対応するうえで考慮すべきこととして示されているのは以下の3つです。

①まずは具体的な許可基準を設定すること
②設定した許可基準は公表すること
③職員の兼業の実態をしっかり把握・管理すること


具体的な許可基準を設定するというのは、下記のリンク先の「【資料2】 地方公務員の社会貢献活動に関する兼業について」という会議資料にもあるように、全体の約6割の自治体がその基準を設定していない(資料中では《約4割の団体(1,788団体中703団体)が許可基準を設定》と記載)ことから、それを求めているものです。


そうして設定した許可基準を、公表すること、運用のために職員の兼業の実態を把握・管理することなども併せて求めています。


(再掲)
①まずは具体的な許可基準を設定すること
②設定した許可基準は公表すること
③職員の兼業の実態をしっかり把握・管理すること

しかし、これら3つの項目の前提として、「社会貢献活動等」という文言がなかなか事態を難しくしている気がします。



◆総務省通知はイケてるのか、イケてないのか

この総務省通知について、私と繋がりのある公務員の皆さんのSNSなどでのコメントを拝見すると、賛否両論というよりは、やや否定的なコメントが多めに目につきました。

そこには否定的な感想を持っているからこそ発信をする(肯定的であればわざわざ発信していない)という偏りもあるとは思います。


ここでは私自身がどう感じたか、どう見ているかという点で、評価する点、評価できない点を両面でお伝えします。


★評価できる点
 ・詳細かつ具体的な許可基準の設定を求めている点
 ・定めた許可基準の公表を求めている点
 ・「謝金」を許可不要と例示している点

★残念な点
 ・社会貢献の文脈を強く押し出している点

まず評価できる点の1つ目、「詳細かつ具体的な許可基準の設定を求めている点」ですが、これはあまり解説の必要はないと思います。

私の知人でも、大学でゲスト講師として登壇する際に、団体として手続きを定めていないため謝礼の受け取りを辞退しているという話を聴いたことがあります。

どのように運用するかは自治体によって裁量の部分はあっていいと思います(それが厳しくても比較的寛容でも)が、許可手続きの方法や許可基準を定めるというのは、最低限必要な環境整備です。

加えて、ここからは私の推測ですが、総務省が求めているのが「詳細かつ具体的な許可基準の設定」となっていることから、既存の人事委員会規則等で定められている一般的な許可基準ではなく、神戸市や奈良県生駒市が定めているような「より明確になった基準」、つまりは社会貢献的な兼業を後押しするような基準が求められていると考えられます。

(さいたま市人事委員会規則を再掲)
営利企業等の従事制限営利企業への従事等の制限に関する規則
(平成14年10月1日/人事委員会規則第17号)
(許可の基準)
第3条 任命権者は、職員が法第38条第1項及び前条に規定する地位を兼ね、若しくは、自ら営利企業を営み、又は報酬を得て、事業若しくは事務に従事しようとする場合は、次のいずれかに該当する場合を除いては、許可してはならない
(1) その職員の占めている職と当該営利企業との間に特別な利害関係がなく、かつ、その発生するおそれがない場合
(2) その職員の職務の遂行について、支障がなく、かつ、その発生のおそれがない場合


評価できる点の2つ目は、設定した許可基準を公表するよう求めていること。
これもあまり解説する必要はありませんが、人事委員会規則の下により具体的な許可基準を運用のための手引きのような形で庁内で共有していたり、人事当局の内部だけで使っていたりすることがあります。

それを公表することになれば、当然市民の目にも触れますし、他の自治体とも比較される可能性があります。中にはそれを材料に議会で質問され、団体としての正式見解を答弁する必要も出てくるかもしれません。

人事当局の中でブラックボックス的に運用される部分が無くなり多くの目に晒されるようになることは、最初のうちは運用する人事当局を過剰に防衛的にするおそれもありますが、長い目で見れば制度が成熟することを助けるでしょう。


評価できる点の3つ目は、「謝金」得て講演することを許可不要な行為として例示している点です。

通知 別添2(7ページ)
兼業許可を要しない行為であることが明確な事例②

例3)継続的又は定期的ではない単発的な講演等に対する謝礼であって、許可が必要な兼業に該当しないことが明確な事例
(活動内容)
■ 主事級の職員が、母校である大学の就職セミナーで講師を務めた。同校卒業から5年前後の社会人という条件に基づき選出されて単発で引き受けたもので、講演の謝礼は8千円程度


この単発での講師の謝礼や雑誌への寄稿の謝礼などについては、自治体によって運用が様々なようですが、私が勤めるさいたま市では許可を得ることを求められ、私は毎回許可を得ています。

一方で、この話題でよく紹介されるのがこちらの大阪府のページ。


相談室 営利企業等の従事制限について(大阪府ホームページ)
(回答の一部を抜粋)
「報酬」とは、労務、労働の対価として支給あるいは給付されるものをいう。(略)ただし、謝金、実費弁償に当たるものは「報酬」に含まれない。たとえば講演料、原稿料、布施、車代等である。(略)報酬を得ないで非営利事業もしくは事務に従事することについては、地公法は規定していない。(『地方公務員月報平成元年12月号』自治省公務員課編17頁)

大元の「地方公務員月報」まで確認できていないのですが、大阪府ではこのような考え方を引用して紹介していることから、単発の依頼に応えて講演料、原稿料をいただくケースは許可不要であると思われますが、それを技術的助言としての通知の添付資料として例示したことは、意味があると思います。


一方で、残念な点は社会貢献の文脈を強く押し出している点です。

SNSで見られた批判的なコメントの中にも、この「社会貢献」という目的の設定に対して批判的な立場のコメントも見られました。

私自身も今回の総務省の通知全体の中で、残念なポイントを挙げるとしたら、この社会貢献を目的としている点です。


神戸市や奈良県生駒市などの先例でも、やはり職員の地域における社会貢献活動を後押しするために38条の許可基準を明確化したと聴いています。

これら先例は、その地域において役所の職員という“人的資源”を地域に供給する目的として、社会貢献活動という設定が適切だったのかもしれませんし、そこには組織として社会貢献活動をどこからどこまで対照として捉えるかの裁量の中で動ける部分があります。
それは自分たちで基準を明確化し、自分たちの地域にとっての社会貢献活動について組織的に一定の合意が可能だからこそ機能するものです。

しかし、総務省の通知で「社会貢献」という言葉を”与えられた”自治体はどうでしょうか。

きっと悩むのではないでしょうか。

悩んだ結果、どんな人から見ても社会貢献としかいいようがないよねという極めて防衛的な設定になりはしないでしょうか。
中には、現在は社会貢献云々には触れることなく比較的寛容に運用している許可基準を、社会貢献という線に後退される自治体もあるかもしれません。


今の社会における社会貢献はとても幅が広く、多様です。


社会貢献はもはやNPOや地域の団体の専売特許ではなく、民間企業も自らの製品やサービスを通して社会に貢献しています

どこからどこまでが社会貢献活動であるのかを、線引きするのが極めて難しい時代なのです。そんな中で、各自治体が各地域の事情に合わせた社会貢献の幅を見出せるのか、注目したいと思います。


◆最後に

今回の通知について総務省が意見を聴いている小委員会の議事録を紐解きます。

(田中委員)
”公務員の兼業ルールは厳格に運用されていますので、だめなことだけはっきりさせて、意欲的に活用されるようにすべきです。
(中略)
また、兼業で生み出された成果や実績を公開して、共有して、それが新たな評価にもつながるふうにすると、地域のマルチタスクをこなすような人材がロールモデルとして現れて、若い人材にも希望を与えることができるかと思います。運用するなら思い切った形で行うことが理想です。”
(地方制度調査会 第32次地方制度調査会 第26回専門小委員会)

この田中先生の考え方は、私も部分的に共感するので最後にご紹介させていただきました。

特に、職員が地域のマルチタスクをこなすような人材になれるかどうかが、国家公務員と比較したときの地方公務員の兼業ルールの大きなポイントではないかと私は思っています。

すごく目の粗い整理であることを承知のうえで、あるテーマ(所属省庁に関係するものなど)の中で強みを発揮する国家公務員の兼業と、ある地域の中で強みを発揮する地方公務員の兼業という差別化はあるような気がします。

その際に、地域への人材供給の価値を考えると、福祉に人手が必要な地域もあれば、林業に必要な地域、教育に必要な地域など、役所の職員の兼業を認めてでも供給したい事情というのは、地域ごとに様々なはず。中には、宮崎県新富町の町長が言うようにコンビニのバイトだって職員に兼業で担ってもらいたいと考える地域があっても不思議ではありません。


民間~国家公務員~地方公務員の先例と進んできて、今回の総務省通知をもって公務員の兼業に関する動きは、一定の区切りがつくと見ていいでしょう。



これから起こりそうなこととしては……

・あくまで技術的助言であること
・市民や議員の関心もさほど高くないと思われること

上記2点から考えると、それほど速やかに対応する自治体は多くないと予想されます。もちろん速やかに基準を作り、公表する自治体も出てくるとは思いますが、それがどのくらいの割合になるかは未知数。


とはいえ、今回のような通知を起点に、各自治体が基準を定め、公表し、事例が増えることにつながるといいな~と期待しています。



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先日、大田区役所のキャリアデザイン研修に講師として呼んでいただいた際も、公務員のパラレルキャリアというテーマでお話をさせていただきました。
私自身はキャリアコンサルタントでもなければ、労務や地方公務員法の専門家でもありませんが、このテーマについて何かお悩みの方がいれば、個人の方でも組織のご担当者でも、考え方の整理のお手伝いはできます。

ご相談等あれば、各種SNSまたは、下記問い合わせフォームからご連絡ください。




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