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「invincible-ete~不屈の夏~」を観て

在宅で仕事をしていると、人と交流することが減る。
背中でテレビをつけたままにしてPCに向かっている日が続くと、体の中にいっぱいもやもやしたものがたまっていく気がする。
外に出たくなるし人と話したくなる。
在宅ワーク…向いていないなぁ…と思ったりもする。

先月の半ばころ、請負からの仕事が途絶えた。
仕事がないのではない。
仕事をするのに必要となる書類が来ない。
待つ時間が長いとその分来る予定の仕事がたまっていく。
いらいらしていたし、ちょっと寂しくなっていたこともあって、誘われたものをほぼすべて予定に組み込んだ。
書道の会の参加、食事会、従弟とのお墓参り、ご近所のおばさんとのお茶会、ゴルフ、飲み会…新たなボランティアの見学…。
母の面会の合間に詰め込んだ予定…そこに内心恐れていた通り、どっさりと(やっと)きた書類の束…さらにイレギュラーな申請のための作業…。
自分の刹那的な浅はかさに呆れながら綱渡りのような日々を過ごした(笑)
いくつかの申請作業、私の担当の作業は何とか目途がつき一安心。
これから通常作業に突入するところ…。

こんなバタバタの中、無理無理入れた予定は予想通りどれも楽しかった(笑)
それでもさすがにイレギュラーの申請作業は自信がなくて、昨日の夜に入れていた予定はぎりぎりになって躊躇した。
そんな躊躇を抱えながら観ることになったのは、ドキュメンタリー映画「invincible-ete ~不屈の夏~」である。
そして私の躊躇を木っ端みじんに吹っ飛ばしてくれた。

誘っていただいていたのは試写会だった。
この場所でどこまで内容について触れてよいのかわからないけれど、伝えたいと思うので書いてみる。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病にり患した主人公オリヴィエ…。
チャーミングな妻、利発で聡明な二人の息子、堅実な父、信頼できる仕事の仲間、そして得意とするトーキングスキルを発揮することができる仕事…順風満帆であった50歳前のオリヴィエ。
ある日突然ALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断がされた。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は発症からの余命は3年と言われ、全身の筋肉が萎縮していくALS…聞きなれた病気ではないと思うが、イギリスの宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士、日本では美容家の佐伯チズさんがこの病で亡くなっている。

話は逸れるが、私がALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気を知ったのは介護の仕事を始めてすぐのことだった。
男性のご利用者でALSの方がいらした。
私が入職した時には、麻痺により移動は車いす、既に将来に備えて胃ろうを造設、会話も難しくなっていた。
気難しいご利用者で、入浴では私の介助が気に入らずに怒られることも多かった。
段々私が慣れてきて、気持ちよさそうにチェアインの湯船で緩んだその方の表情を見たときに、もしかしたら初めて「この仕事が好きだなぁ」と思ったのかもしれない。

そしてもう一人のALSの方は女性。
60代後半から70代前半だったと思う。
スマートな体格に福々しい笑顔、というギャップが魅力的だったその方は、ご利用開始の時には送迎者の乗降も歩いてできていたのに、あっという間に車いすになり、車いすもリクライニングタイプになり、自宅内から車いすごと送迎車に乗るようになり、会話ができなくなった。それはもう衝撃、と思えるほどの速さだった。半年に満たないほどの間だったと思う。

お二方とも通所が利用できなくなると入所の施設に移られた。
まだ経験が浅かった私には、とても記憶に深く残るご利用者だ。
今でも、あの頃の自分の知識のなさが歯がゆく情けなく感じられる。

「invincible-ete ~不屈の夏」は、だからと言ってALSという病気の残酷さや悲惨さを訴える映画ではなかった。
映し出されるフランスの景色は、街並みも自然の中も非常に美しい。
何よりも心に残るのはオリヴィエの笑顔。
ご本人が試写会のために来日されており、舞台であいさつをされた。
遠目からも彼の温かい笑顔に引き込まれて視線を外せなかった。

映画の中の彼の笑顔も本当に素敵だ。
そしてたくさんの色とりどりの宝石のような言葉がちりばめられている。

すべての言葉が心に残るけれど、一言一句覚えているわけではない。
自分なりの言葉で記憶に落とし込んだものが殆どだと思う。

心に刻まれたをここにいくつか挙げてはみたが、読み返して全部消してしまった。

きっと聞く人それぞれにとってその言葉は微妙に色を変えると思う。
なので、それらの言葉をすべてここに記すことはできないと思った。
オリヴィエの言葉は暖かくて、強い。
人にパワーを与えることができる笑顔と言葉だ。

そしてまた、周囲の支援も温かい。
妻、子供、父、友人、仕事の仲間、そして彼が出会う人々。

その人たちの笑顔は、時に苦悩の影をはらませながらも美しい。
言葉も温かく力強さに満ちしっかりと足が地についている。
なのに、オリヴィエの言葉とは違ってその言葉の後ろに各々の心の物語が垣間見える。
それがとても近しく切ない。
気が付いたら泣いていた。

父親、母親、妻、息子、娘、友人、仕事仲間、どれかひとつでも同じ立場である人、もしくはその立場である大事な人を持っている人…つまりはすべての人…に観てほしいと思う。
受け止めるべき逝く人の思いは何か、逝くときに遺す思いは何か…を考えさせられる。

私の父が亡くなった時、いろいろなことが悔やまれてしばらく泣いて暮らした。
今の母の状況が切なくて気持ちが落ち込む日もある。
そんな時、いつも「自分が逝った後に、こんな状態の子供を見て嬉しいか」と考える。
そして「子供がこんな状態になるのはとても嫌だ。いつも笑顔で幸せな気持ちでいてほしい」
と思う。
なので、今は気持ちが落ち込みそうになったら笑ってみることにしている。

そんな今の私にはとても力になった映画。

重ねて言うがこの映画は「ALS」という病気について学ぶものでもないし、その残酷さを嘆くものでもない。
観る人それぞれが、違う感動を覚える映画だと思う。
「生きる」ということの意味をを、自然体で自分の立場で自分に取り込んで考えることができる映画だ。

と、ここまで長々と書いてきたけれど、やはりうまく伝えられない。
言葉にすれば安っぽくなるし、ましてやこれから公開となるとどこまで書いていいのかわからない。
ため息がでそうだ。

ご覧になってほしい。
これから日本公開となるのだと思う。
「invincible-ete ~不屈の夏~」
もしも機会があればぜひ!





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