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1章|ひとびとが考え工夫してつくった大きな道具|【4】住まいを考える絵本

ふだんから生活の拠点としている住まいについては、その存在があたりまえすぎることもあって、そもそも「住まいとはなにか」なんて考える機会は早々ありません。ただ、日々の生活のなかで、そんな「住まいとはなにか」という問いに思いがけず触れてしまう時間があります。それは絵本を読み聞かせするとき。

絵本は子どもを対象としているがゆえに、より本質的な意味や価値を、しかも平易な言葉で表現されています。子に読み聞かせしている大人の心にも「そもそも〇〇ってなんだ」という問いを突きつけてくるのが絵本との時間。

ここでは、そんな絵本のなかから、住まいを考えるきっかけになるようなものを選んでみました。「志摩の住まいを考える」ためにはやや回り道ではありますが、実はとても大切な回り道でもあると思います。

高野文子『しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん』

まずは、漫画家として知られる高野文子さんの絵本作品『しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん』(こどものとも年少版、福音館書店、2010年2月)。

眠りにつく前に「こわい夢をみませんように」と寝具たちにお願いする主人公。家のなかの寝具や家財道具の存在は、実はわたしたちが安心して眠り過ごすための支えになっている。それは震災などによる日常の喪失によって痛感させられる事実でもあります。家財道具との連帯とは。

【あわせて読みたい】
 柳原良平『おうちのともだち』こぐま社、2006年


さとうわきこ『いそがしいよる』

次に、さとうわきこさんのばばばあちゃんシリーズ第1作、『いそがしいよる』(福音館書店、1987年)。

主人公のばばばあちゃんが星空を見上げて眠りに就きたいと欲望することから話が始まり、それが連鎖して、一切合切の家財道具を庭に持ち出してしまうお話。住むこととは、あらゆる行為や什器との連関の上に成り立つのだとわかります。

【あわせて読みたい】
 村山桂子、堀内誠一『たろうのひっこし』こどものとも、325号、福音館書店、1983年


タイガー立石『すてきにへんな家』

そして画家タイガー立石の絵本『すてきにへんな家』(たくさんのふしぎ、42号、福音館書店、1988年9月)。

芸術家タイガー立石による絵本。古今東西の「すてきにへんな家」を集め、自らの考案もあわせて紹介します。さまざまな「へんな家」を示し凝り固まった「家」概念を破壊。自分らしく生きる=自分らしい家を手に入れることの大切さを説く。

【あわせて読みたい】
 村上慧『家をせおって歩く』たくさんのふしぎ、第372号、福音館書店、2016年3月


ゲルダ・ミューラー『庭をつくろう!』

そして、住まいと深くかかわる庭について。ゲルダ・ミューラー『庭をつくろう!』(あすなろ書房、2015年)。

大きな庭のある家に引っ越してきた家族。子どもたちが庭をつくっていく過程で、能動性や他者との連携、自然と対話、虫や鳥、動物の死との対峙といった学びを得て成長する物語です。庭を介して生きることがもつ意味を教えてくれます。

【あわせて読みたい】
 バージニア・リー・バートン『ちいさいおうち』岩波書店、1965年


チゾン+テイラー『バーバパパのいえさがし』

根強い人気を誇るバーバパパ・シリーズの第3作。アネット・チゾン、タラス・テイラー『バーバパパのいえさがし』(講談社、1975年)。

いろいろな個性をもつバーバ一家が自分たちにぴったりな家を獲得するまでの物語。さいごはセルフビルドでプラスチック製の住宅をつくりあげます。パリ五月革命の空気も感じられる一冊。ちなみに作者のチゾンは元・建築設計士。

【あわせて読みたい】
 中川李枝子、大村百合子『そらいろのたね』こどものとも、第97号、福音館書店、1964年


ケヴィン・ルイス『おうちにいれちゃだめ!』

最後は、ケヴィン・ルイス『おうちにいれちゃだめ!』(フレーベル館、2013年)。

虫やネズミを家に連れて帰ってはお母さんに叱られる主人公。生き物がどんどんスケールアップしてついには…。家に連れて帰りたい主人公と招き入れたくない母親。建築を開くことと閉じることを考えるヒントにあふれた絵本です。

【あわせて読みたい】
 神沢利子、山脇百合子『わたしのおうち』あかね書房、1982年

住むことは生きることと同じゆえに、住まいについて考えるキッカケとなるような絵本は、ほかにもたくさんあります。大人になったいま、同じ絵本であっても、自分に問いかけてくる内容は大きく異なっているはずです。「住まいってなに?」という素朴で、でも本質的な問いを自分に投げかけて思考を深める。絵本はそんな「方法としての子ども」を実践するよき友です。

(おわり)

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