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インフレ警戒の欧米とデフレ下の日本

 欧米の主要中央銀行は、昨年からインフレを警戒し始め、金融緩和策の縮小を図り金利引き上げに向かっている。しかし、日本の黒田東彦・日銀総裁は「日本の物価上昇率は目標の2%に程遠く、大規模金融緩和やゼロ金利政策の変更は全く考えていない」と言い切っている。ただ世界的に資源高や食料輸入品の高騰などで消費者物価が上昇してくると、賃金の上がらない日本では“不況下の悪い物価高(スタグフレーション)”に進む懸念が出てきそうだ。

  今年4月にIMFが発表した2022年のインフレ率(消費者物価上昇率)は、アメリカが7.7%、ドイツが5.5%、イギリス7.4%、ユーロ圏は5.3%となり、欧米はインフレ警戒体制に入った。このためイギリスの中央銀行は昨年12月から4会合連続で利上げを行ない、5月5日の会合では0.75%から1.00%へ引き上げた。主要中央銀行がコロナ禍で利上げに踏み切ったのはイギリスが初めてだった。欧州中央銀行(ECB)もコロナ対策で導入した量的緩和策を今年の7-9月期のごく早い時期に終了させる。

  またアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は国債などを買い入れる量的緩和の終了時期を今年5月の連邦公開市場委員会(FOMC)で決定し、6月、7月のFOMCでも利上げを行なう見通しを示している。欧米ではコロナ禍からの経済回復により、逆にインフレ懸念が高まってきたためだ。アメリカは昨年11月時点でも消費者物価上昇率が前年同期比で6%を超え、コロナ期間中の人手不足で賃金も上がっていた。

  これに対し黒田・日銀総裁は「日本の物価上昇率の実力は0.5%程度で目標の2%にはまだ遠い」という。しかも単に物価は上がればいいのではなく、賃金が上昇する好循環が進んでゆくことが重要だ、と指摘する。就任時には「物価上昇率2%を2年で実現する」と宣言し2013年4月から大規模金融緩和を開始した。おカネの供給量は年間60兆~70兆円のペースで増やし、2014年から80兆円に加速させた。2016年1月にはマイナス金利を導入し、2018年になると長期金利をプラスマイナス0.2%程度の幅で操作し始めた。それでも物価上昇率2%の目標は達成できなかった。

  ゼロ金利やマイナス金利、大規模金融緩和を続ければ、企業がおカネを借りやすくなり設備投資などに資金を廻すとみた。また個人も借りたカネで住宅建設、新しい製品の購入、レジャーなどに費やすのではないかと推測したのである。しかし企業は貯めた資金の有効な使い道を見出せず、賃上げもケチって、余剰資金とし、内部留保にため込むだけだった。その額は過去最高の450兆円に達している。30年間賃金の上がっていない個人も1980年代のように生活向上やレジャー、旅行、贅沢にみえるレストランには行かず貯金にまわす傾向が強かった。個人はバブル時代のようなおカネの使い方を忘れたようで、金融資産は2000兆円にまでふくらんだ。おカネは天下の回りものではなく、企業や個人に貯め込まれて動かなかったのだ。その結果、日本銀行はいつまでもデフレ状況から抜け出せないでいるように見える。

  日本でも今年に入って物価上昇が目に見えてきた。資源関連だけでなく、2月には食用油(+30%)、牛肉(+11%)、食パン(+8%)など調査対象522品目のうち319品目が上昇した。今年1年で1世帯あたり5.5万円の負担増になるという。

  しかし、黒田日銀総裁は、円安が進んでも最近は海外で生産し輸出するケースが増えているので円安で手取りの円が増えるとは限らないと指摘。景気刺激のためには今後も大規模金融緩和を続けると述べている。だが、景気は金利水準だけで決まるわけではない。財政刺激や何より企業の生産性、新製品づくりが課題なのだ。金利だけでなく、財政、企業努力など三位一体の経済政策が望まれるのではないか。今の日銀は低金利、大規模緩和で景気刺激を行なうことに力を入れているが、もう少し大きな構想で政府、企業、日銀が対策を打ち出したらどうかと思う。
【TSR情報 2022年6月2日】

画像:日本銀行ホームページ

◆参考情報
 ・拙速な緩和縮小を黒田総裁否定、「2%から遠ざかる」-円安進む(2022年6月7日 Bloomberg
  日本銀行黒田東彦総裁は7日、現在の日本の経済・物価情勢の下で金融緩和を拙速に縮小すれば設備投資など国内需要に一段と下押し圧力がかかり、「2%物価安定目標の持続的・安定的な実現から遠ざかってしまう」との認識を参院財政金融委員会で答弁した。  


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