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とんだマッシュルーム
今日はなんだかモヤモヤとした日だった。
ただですらきらいな朝は、太陽が顔をかくしてどんよりとしていて、会社への足取りを重くしていた。
帰ってくるころには、足ではなく肩の枷がついていた。
少しでも気分をあげようと今日はビーフシチューを作ろうと、帰りのスーパーで材料を買ってきた。
肉、じゃがいも、にんじんを手際よく切っていく。
ビーフシチューの一押しはマッシュルームだ。
私はキノコ類は大っ嫌いだがマッシュルームだけはなぜか大好きだった。だからシチューをつくるときは決まって買ってくるのだが、今日は同じ考えの人が多かったのかマッシュルームがひとつしか残っていなかった。つくづく不運だな、と思いながらマッシュルームを切ろうとした。すると、今日一日のやるせない思いが電気信号となって腕につたわり、想像以上に振りかぶって包丁を振りおろしてしまった。
刃先は、傘から茎のさかい目などもともとなかったかのようにあっという間にまな板を叩いた。
切れたマッシュルームは、大海原に放たれた大砲の弾のような弾道をえがき部屋の暗闇に消えていった。
マットの下をめくり、床を探しまわりながら、好きなものにも見捨てられてしまった悲しさで虚しくなり、探すのをやめた。
シチューをたべながら、洗濯物をとりこんでいなかったことに気づき、器をもってシチューを食べながらベランダにでた。空をみるとまだ雲がかかっていたが、クレープの生地の色をした月が雲から顔をだしていた。月は下半分がすっぱりと切れた形をしていた。
さっきのマッシュルームは月になったんだな、となんとなく思った。手元にあったものがみんなが見上げるものになっていることが不思議だった。
そうか。惑星規模で考えたら心のなやみなんて、生まれてないに等しいんだな。そう思ったらモヤが晴れて、胸のあたりにあたたかさを感じた。
自分と宇宙がつながった。
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