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VRChatアバターにおける少女という存在についての雑記

私の遅筆はカタツムリもかくやといった具合なのですが、そんな私もありがたいことに、某所でライターとして活動させていただく機会を頂戴して、晴れて物書きの端くれとして活動させていただいています。
とはいえ、某所で性的な話を書くのは基本的にNGなわけであり、普段はVR空間の解説・考察記事なんかを書かせてもらっています。
今回はそうした制約から解き放たれ、自由に文章を書いていいということなので、まさに普段は禁じられている性について書いていこうかと思い、久しぶりに筆を取るに至りました。お付き合いいただけるとこれ幸い。

1 美少女アバターの優位性

1-1 アバターの外見的性別について

VRChatにおいて、利用者が多いのは間違いなく女性アバターです。
先日実施された「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」の調査結果では、約80%もの人が女性アバターを使用しているようです。
VRSNSの利用者は約80%が男性であるにも関わらず、なぜ女性アバターの利用率がここまで高いのかということに関しての議論は、あちこちで盛んに行われており、もはや手垢まみれの主題ではありますが、本記事で私もこの主題に手垢を塗りたくっていきたいと思います。

1-2 パーソナルスペースの観点から見た優位性

女性アバターの利用率が高い理由を並べてみます。
・純粋に見た目が好きという点
・コミュニケーションが行いやすいという点
・販売されている衣服やモデルの数、それに伴う改変の難易度
他にも理由はあると思いますが、ざっくりこの3点が主なものになるんじゃないでしょうか。

見た目や販売されているモデル数の話に関しては、拙稿
[VRChat考察]なぜ人々は「お砂糖」を作るのか
でも軽く触れているめ、もしよければそちらを参照してみていただければと思います。

自己表現の手法として女性アバターを使用するということついては、拙稿だけでなく、散々他の記事でも書かれていることですし、今更ここで長々と論じるのは冗長でしょう。
本記事では、女性アバターが他者に与える心理的な影響の観点から女性アバターの優位性を紐解いていきます。

まず、本章では2点目の「コミュニケーションの行いやすさ」という部分について、パーソナルスペースの観点から考察していきましょう。
再度「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」の調査結果を参照すると、
約70%の人がVRSNSの利用中に相手との距離が近くなると感じているようです。要はパーソナルスペースが縮小し、他者の侵入に対して寛容になる傾向がみられるということですね。
このパーソナルスペースというのは外敵から身を守るために、生物的に備わった本能なのですが、ことVR空間においては、他者が侵入しても、身体性は仮想現実から切り離されており、自身を守るための行動をとる必要が薄いため脅威の侵入に対して鈍感になっているからだと考えられます。
また、現実世界においては、他者の侵入を検知する際に、他者が発する音や熱、臭いなど様々なファクターが絡んでくるわけですが、VR空間においてはこれらの情報がそぎ落とされることによって、他者の侵入を検知しづらくなっていることも理由の一つになっているでしょう。

また、パーソナルスペースというのは侵入してくる相手によっても大きさが変化します。近づいてくる人物との関係性が親密であればあるほど近くに来ても不快感を感じづらいですし、逆に、初対面の人や、自らより立場が上の存在が侵入してくることに対しては敏感になります。
これは人間に限った話ではなく、ジョン・B・カルフーンによるネズミの飼育実験では、縄張りを支配する群れの長、ドミナントオスに対して、その他のネズミは他の個体よりも大きくスペースを取り、接近を控えるといった行動が観測されています。
このように生物的に備わったスペーシングという概念を考えた際に、美少女というのは他者に接近するうえで有利に働くといえます。「VR空間におけるパーソナルスペースに対する性の影響」という論文では、実際に、多くの場合において、相手のアバターの性が男性よりも女性のときにパーソナルスペースが小さくなることが確認されています
また、上記の論文では既往研究との結果の差異から、接近してくるアバターの見た目が自身の好みのものかであるか否かによってパーソナルスペースが変化することが示唆されています。
先述の「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」において、VRChatユーザーが女性アバターを使用する、最も大きな理由が「見た目が好みである」というものであったところからも読み取れますが、多くのVRChatユーザーは美少女アバターの容姿を好意的に捉えています。
そうしたことを鑑みても、VRChatで広く使用されている、美少女アバターが他者と物理的に距離を詰める上で有利であることが分かるでしょう。

また、「親密であれば接近を許すことができる」ということを逆説的に捉えると、「接近を許すことができるならば親密である」という感覚を対象に与えることができるということになります。
単純接触効果という心理効果を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。元々興味がなかった物事や人物に対して、複数回接触を繰り返すことで、興味を持つようになる心理的現象のことです。つまり、相手との接触が図りやすい美少女アバターは他者との親密性を育む上でも有利であることが考えられます。

1-3 女性アバターを使用することによる対人距離の変化

一般的に、女性の方がパーソナルスペースが狭いということが分かっています。つまり、女性の方が他者の接近に不快感を感じにくいということです。
ここで疑問に感じるのは、現実での性別が男性のユーザーが女性アバターを使用した際にパーソナルスペースは変化するのかということですが、先述の「VR空間におけるパーソナルスペースに対する性の影響」での研究結果によると、使用アバターの性差によってパーソナルスペースの変化は見られないようです。女性アバターを使用することによって感覚や性格、所作などが女性に寄るという現象(俗に言うメス堕ちってやつ)はよく聞く話ではありますが、ことパーソナルスペースという観点においては精神はアバターの性別の影響を受けないということですね。

1-4 コンテンツとしての優位性

本章では女性アバターの優位性について、先述の理由に加えて、「VRChatを1つのコンテンツとして考えたときに、女性アバターが必要不可欠なものであるから」という説を推していきます。
まず大前提として、VRChatのメインコンテンツは言うまでもなく他者とのコミュニケーションです。私はVRDJとしても活動しており、VRChatを‘’音楽を聴く/聴いてもらう場所‘’として楽しんでいますが、DJイベントにおいても、音楽は非常に重要なコンテンツではあるとはいえ、あくまでもそれは「キュレーションされた音楽を聴く‘’時間‘’を他者と‘’共有‘’すること」によって真価を発揮するものである以上、この前提から逃れることは難しいです。

そして、コミュニケーションがメインコンテンツである以上、VRChatユーザーは消費者でありながら、他者の視点からみればコンテンツを形成する部品であるという見方ができます。
要は、VRChatというのは、コンテンツとして自身が他者から求められるのはことによって、同時に自身は他者とのコミュニケーションをコンテンツとして享受できるというサービスな訳です。
また、先述の通り、VRChatのユーザーは8割が男性です。これはVRコンテンツの市場が未だゲームやアニメというエンタメ産業と親和性の高いものであることに起因していると考えられますが、詳しい理由についてはここでは割愛します。
要するに本章で何が言いたいかというと、このような特性を持ったVRChatという環境において、最大限コミュニケーションの機会を得るためには、
男性が求めている姿でいるのが効率的である
ということです。
男性が求めている姿になる方法として女性アバターを使用するというのは非常に簡単な方法でありながら強力な回答だと思います。

つまりVRChatが男性向けコンテンツとしての側面を持っている以上、美少女アバターというものは、その使用者と接触者の両方の視点から見て、体験価値の創造のために不可欠であり、逆に言えば、多くの男性が好意的に見られないアバターを使用することが機会損失につながる可能性は消して否定できないということです。

あらかじめ断っておきますが、当然ユーザーは各々好きなアバターを選ぶ権利があります。「男性アバターを使用すれば他者とコミュニケーションをとるのが難しくなるから美少女アバターを使用しろ」などと言うつもりはありません。しかし、VRという誰もが理想だと思う姿を追求できる環境において、ルッキズムを完全に否定することは正直難しいと思いますし、美少女ではないアバターを使用することによって疎外感や居心地の悪さを感じ、結局美少女アバターに落ち着いたという人も少なくないのではないでしょうか。

2 P感覚の忌避とV感覚の喪失

2-1 VR空間におけるP感覚の忌避

第一章では女性アバターを使用するメリットについて、パーソナルスペースとVRChatというコンテンツの性質の2つの視点から見てみました。
前章の内容を軽くまとめますと、女性アバターを使用することで、他のユーザーの警戒心を解き、尚且つコンテンツとしての価値の高さから、他者との接触機会の増加を狙えるということです。

ここで注意しておかなければならないのは、女性アバターを使用した場合にも、現実世界の男性としての肉体が抱えるP感覚が発露することによって、この女性アバターの優位性は瓦解する可能性が高いということです。
そもそも、多くのユーザーにとって、美少女アバターを使用することは、他のユーザーの性対象となることを容認することを意味しません
それどころか、他者から自身に向けての備給(カセクシス)は、精神的なパワーバランスを、行為者が優位になるように傾けるため、それに伴って、パーソナルスペースの拡大を招くことが予想されます。
要するに相手とコミュニケーションを取る上で、P感覚は抑圧されているべきである訳ですが、そんなことは現実社会の規範から考えれば当然のことです、しかし、VRにおいて、これはもう一寸複雑な話になります。

2-2 P感覚は身体性の反転に伴って反転しない。

ここから先は多くのユーザーがNSFW行為を行わずにVRChatを楽しんでいるという前提のもと話を進めます。
さて、男性ユーザーが女性アバターを身に纏った上で、備給を撤収させて生活をしている場合、精神的にも身体的にもP感覚は排除されます。

余談ですが、以前の記事で私は「メタバースで生活を営む」という行為は、ある種での「生まれ変わり」であると書きました。VRChatを始めたユーザーは、自らの肉体と社会的なしがらみを捨て去り、アバターというもう一つの自分の姿を生み出すことによって、自己実現欲求と変身願望を満たし、更には自らの周囲の環境をも変革していくわけで、これはつまり「自己の改変と、それに伴う社会≒自らを覆う世界の改革」が行われていると言うことです。
そうした状況において性欲動が抑圧された状態を維持し続けて身体性を育んでいくことは、フロイトの性理論三篇を参照するに、非常に倒錯を起こしやすいものであるように思えます。
その辺りを鑑みると、VRChatプレイ時に精神的性別が女性に寄っていくという現象、所謂メス堕ちは初心者が陥りやすい典型的な症状であり、それが修正される機会もコンテンツの性質的に得難いものであることが想像できるため、VRChatにおいてそういったユーザーが散見されるのは自然なことのように見えてきます。

本題に戻ります。P感覚が徹底的に排除された社会において、P感覚は反転しV感覚になるのか、或いはA感覚が発達するのかということについてですが、これは否であると私は考えています。

まずV感覚についてですが、先刻も述べた通り、多くのユーザーにとって、美少女アバターを使用することは、他のユーザーの性対象となることを容認することを意味しません。そのためV感覚は大抵の場合において発達しません。これはメス堕ちユーザーについても言える話で、メス堕ち=V感覚の発露ではないということが多いように見えます。
また、P感覚が排除されることの根底には性欲動の抑圧があるわけで、V感覚の発露はP感覚のステレオタイプ的な性対象として、その先にある他者のV感覚を想起させますし、自身の抑圧されたV感覚を不必要に煽動する存在を好意的に見る人も少ないでしょう。

続いてA感覚ですが、これはタルホ先生も言っていたように、こと日本人はA感覚への意識が非常に低いよう思います。私はタルホ先生の意見を全面的に支持している訳ではなく、流石に臀部に挿入し固定するための真珠まで搭載したシマウマ柄のパンツを提案してくるあたりには正直若干ドン引きしたものですが、この部分については同意しています。また、日本人ではなく外国人女性を見ればA感覚の存在が如実に意識できると言っておられたことについても概ねその通りだと思うのですが、そもそもVRChatにおいては外国人テイストのアバターが少なく、A感覚もまた発露しているケースは非常に少ないでしょう。

3 如何にして理想の美少女を表現するか

本記事ではA、V、P感覚に加えて、B感覚の存在を提唱したいと思います。
思えばB感覚に対して日本人はなかなか敏感だと言えるでしょう。それはメディアの影響が多大にあると思います。峰不二子とかね。かくいう私も幼少期マモーを観て大層興奮したものです。そんなわけでB感覚は女性という存在を表現する上で非常に重要なファクターですし、実際結構多くのアバターでB感覚をコントロールできるシェイプキーが搭載されていますし、B感覚を表現するために特別にボーンが搭載されています。
また、VRChatにおいては、P及びV感覚が抑圧され、それによって生じるある種での倒錯はB感覚に集約され、フェティシズムの発露の対象となると同時に、自らの趣味嗜好を主張するためのツールになっています。

一方、B感覚がフェティシズムを表現するための機能としての役割を持った場合に、如何に少女性を付加していくかということが問題となります。というのも、第1章で述べた通り、VRChatにおいては美少女が優位な地位を築いています。そう、女性ではなく、美少女です。

一説に、男性が魅力的に感じる女性の年齢を平均化すると、年齢÷2+8となるらしいです。
例えば26歳男性であれば、平均的に21歳の女性が魅力的に見えるということですね。
VRChatユーザーのボリュームゾーンが20代半ばから30代の男性ユーザーであることを考えれば大体20代前半の女性を魅力的に感じる人が多いことが推察できるでしょう。
更に、VRChatのユーザーの多くが所謂オタクと呼ばれる人々であり、アニメやゲームといったエンターテイメントコンテンツから数多くのジュブナイル作品に触れてきた人が多いことを加味すれば、この平均値はより下がるのではないでしょうか。私の周囲を見ての主観的な推察にはなりますが、具体的には16〜21歳ぐらいではないかと思っています。
つまり、その辺りの年齢層を狙ってアバターをデザインすると、優位性を活かすことができる可能性を最大にすることができると推察できるわけです。

ここで、現実社会においては、二次性徴の時期を鑑みるに、15才以降であれば、既に成長が停止している場合が多いという指摘があるかと思うのですが、ことアバターというデフォルメされた姿の中で、ステレオタイプ化された思春期の女性を表現する際には、B感覚がもつ妖艶さは不利に働く場合こそあれ、少女性を付加するという意味では無力です。

さてここで、A、V、P、B感覚を用いずに少女性を表現する手段としてキーワードになってくるのが、魅力的な二次元キャラクターに出会った際に生じる情動、つまり「萌え」だと私は考えています。「萌え」を何かしらの手段で付与できれば、美少女の優位性を活かした立ち回りが行いやすくなるということですね。

松原ら(2013)の研究で行われた階層型クラスター分析によって得られたデンドログラムでは、二次元メディアの架空人物に対する萌えとは、「若々しい」「柔らかい」「動的な」「平凡な」「親しみやすい」「快い」などの形容詞群が相関を見せたことから、アバターにこれらの印象を付与することができれば、「萌え」という感情を想起させることができることになります。

如何にしてこのような印象を付与していくのか、手段は様々考えられますが、本記事ではVRChatでよく見られるアバターの衣装、アクセサリーとして、ケモ耳とミニスカートに注目したいと思います。

まずケモ耳についてですが、VRChatでは猫耳などのケモ耳がついたアバターがかなり多いです。
「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」の調査結果では、ケモ耳や半獣などの亜人間アバターを使用する人が全体の47%を占めており、人間のアバターを使用する人(41%)よりも多いという結果が出ています。
このケモ耳を見てみると、まさに、突飛ではなく、平凡なモノでありながらも、若々しい、柔らかい、動的で親しみやすそう、といった印象を付与する上で非常に効率的で有利な手段であるように感じられます。
改変の行いやすさも評価できるポイントですね。
また、上記の松原ら(2013)による研究では動物的、マスコット的であるだけで萌えが生じている可能性が示唆されており、いかにケモ耳が萌えと相性が良いかが分かります。

続いてミニスカートについてですが、
ミニスカートはイギリスのストリートファッションデザイナー、マリー・クワントによるデザインのものを起源とし世界に広がったもので、動きやすく、自由で新しい女性のライフスタイルを象徴するアイテムでした。
また、私の個人的な考えとして、日本におけるミニスカートの印象形成にはイギリス人モデルであるツィッギーの存在が大きく寄与していると思っているのですが、
ツィッギーの名の通り小枝のような華奢な四肢とミニスカートの組み合わせは、若々しく、動的であり、今考えると、現代的な「萌え」の要素と非常に近いものを盛り込んだようなスタイルだったように思われます。
更に、アニメやゲーム等の二次元コンテンツ作品では学園を舞台にしたジュブナイル作品が非常に多く、そうした作品のヒロインが制服などでミニスカートを着用する機会が非常に多いことからも、オタクの感じる「萌え」と親和性の高い衣装であると言えるのではないでしょうか。
脚という比較的性対象として捉えられる機会が少ない割に、少女性や女性らしさを表現できる部位をアピールできることや、ロングスカート等の脚を隠し切った衣装に比べてアバターが破綻しにくいことも大きなメリットだと思います。

4 おわりに

書きたいことを大体書いたので、今回の記事はこの辺りで終わりにしたいと思います。
お付き合いいただきありがとうございました。

長々と何か書きたかったかというとですね、
性的でいやらしいアバターは基本的には避けるべきで、その上で性的な要素を抑圧しつつ可愛い美少女アバターっていうのを目指すべきなんじゃないかということと、
そういうアバターは萌えの構造を考えて作ると、作りやすいかもよということ。
そして、そういうアバターはVRChatで有利に働く可能性が割とあるので、みんなkawaiiアバターになろうぜってことです。

また機会があればなんか書きます。さよなら。

参考文献・引用元


・バーチャル美少女ねむ. ソーシャルVRライフスタイル調査2023.
 2023.

・伊藤 真一ら. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌  Vol.28, No.2.
 VR空間におけるパーソナルスペースに対する性の影響.2023.

・稲垣足穂. 少年愛の美学: A感覚とV感覚. 河出書房新社. 2017

・Freud Sigmund. Three Essays on the Theory of Sexuality 1905

・松原美香ら. 立命館人間科学研究科26. 21-34,2013
対象、評価、情動の観点から検討する「萌え」.2013

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