映画館で圧倒された話。_閑話休題
あれは大学1年生のころ、だったと思う。
舞台でご一緒した先輩俳優さんと仲良くなって(珍しい!)、一緒に映画でも行こうと誘われた(もっと珍しい!!)
難波の駅で待ち合わせをして、連れられるがまま、TOHOシネマズ(たぶん本館)に赴いた。
観たのは、当時上映されていた李相日監督の「怒り」だ。
「何か気になっている映画ある?」と聞かれて、「怒り」と答えたのはぼくで、テレビに流れる予告やポスターに並ぶ俳優陣の顔ぶれがすごかったからだったと思う(あとは広瀬すずがとても可愛かった)。
今思えば、個人的に端的で短いタイトルが好きで、原作小説(吉田修一)そのままである「怒り」のふた文字にただ惹かれたのかもしれない。
「それでもあなたを信じたい───」
エンドロールが終わって、しばらく立ち上がれなかった。
胸の中、心の臓のあたりに、ズシンと大きな塊が入っている。
とはいえ、ずっとこうしているわけにも行かず、無言で立ち上がる。
隣にいた先輩もまた、無言で立ち上がる。
先輩が横にいるにも関わらず、無言。ただただ無言で無表情。
言葉が見つからない…というのもあったかもしれないけど、そんなありきたりものではなくて、もっと単純にただ声を出す勇気と力がなかっただけだと思う。ざわざわする劇場、無言で出口に向かった。
そこからぼくの記憶は、劇場のお手洗いの前で先輩が出てくるのを待っていたところに飛ぶ
先輩がお手洗いから出てきてようやく「はぁ」と二人でため息をついた。
わからないけど、単純に考えて映画が終わって5分ぐらいは立っているはずで、その間、声を発することも息を大きく吐くこともなく、ようやくこのタイミングで大きく息を吐いた。
多分、はじめて映画館を「劇場」と呼ぶことに納得した日だと思う。
生の舞台で心を鷲掴みにされた感覚を味わったことはあったけど、
それよりも個人的にはもっと衝撃だった。
心を鷲掴みではなく「心臓を鷲掴み」されたような感覚だったと記憶する。
「2人で見るものじゃなかったね」が先輩の第一声だった。
でも1人で見に行っていたとしたら、それはそれで帰りの足取りが重かっただろう。
映画館。
何度だって映画館で映画は観たはずなのに、
テレビドラマとも舞台とも違う、不思議な場所の力をはじめて感じた作品だった。
(その後何度か似たような経験はしたのだけれど。)
#映画にまつわる思い出
というより、映画館の思い出っぽくなっちゃったけど、
なんてことはない。ただふと思い出しただけの過去の記憶の話。
▽3月10日(日)「紫さんを待ちながら」出演
宇治市の子どもたちと朗読劇に取り組んでいます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?