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村上雅郁「りぼんちゃん」

再掲です。
この本が幅広く読まれることを切に願いまする。

真っ暗闇でオオカミが跋扈する世の中。主人公達は光を見つけた。だれもが望んだ場所で幸せに生きるために。生き残るのるために、彼女たちは魔法を手に入れた。

小6の朱理(あかり)は転校生の理緒と仲良くなる。朱理は体が小さくどちらかというと周りから赤ちゃんあつかいされている女の子。親もどちらかというと姉を気にかける。彼女は理緒と過ごす時間に安らぎを感じる。なぜなら彼女は朱理の話を聞いてくれるから。そんな中、ある出来事を通して理緒の抱える痛みを、暗闇を知ることになる。朱理は大切な友だちを守るために、その闇と対峙することを決意する。そうオオカミとたたかうことを決意する。
そのオオカミは理緒に「生まれてきたくなかった。」と言わせるほどのものだ。

「話も聞いてくれない。わたしが子どもだからって理由で。」
この作品で繰り返される話を聞いてくれないというフレーズが刺さりまくる。
果たしてボクは子どもたちの、周りの人達の話を聞いていたのだろうか?
1年半前の一斉休校を思い出す。あの時の登校班の子たちが話していたことを思い出す。

朱理には心の支えとなった本がある。魔法使いのアルペジオという全7巻の物語。この物語の登場人物たちの言葉が彼女を支えるし、理緒を支えることになる。
繰り返し、繰り返し読む本。本の物語の力を感じる。
その物語を通して、朱理は心に広い森を育てることになる。その森は朱理の心そのもの、広く暖かく豊な森。

「だれかを深く知ることは、その人を心の中の世界に招くのと同じだ。その言葉を。気持ちを。心をしっかり受け取ったから、心の中に存在するのだ。」
朱理はその森に招いた人が朱理と理緒を支えることになる。このあたりがたまらんところであります。

魔法には色々な種類があるという。朱理は言の葉の力に気付くことになる。
「そう、自分にしかとらわれない心を、目に見える〈文字〉や、みみに聞こえる〈声〉にして、相手に伝える力。そうやって相手の心をふるわせ、ゆさぶり、動かす力。」
この言の葉の力を使って朱理はオオカミと対峙する。
でもでもオオカミはとにかく強い。オオカミの跋扈する夜はとにかく暗く‥でも希望はある。
この夜を乗りこえられるだけの、まぶしいほどに明るい物語を紡ぐこと。
しかしその希望をオオカミが飲みこもうとする。
理緒に最悪な事態が訪れる。
そして朱理はオオカミを倒すために、「話も聞いてくれない。わたしが子どもだからって理由で。」に言の葉の力で立ち向かう。
このオオカミなんですが、詳しくはぜひ本書を手に取って欲しいです。

大人はなにをしてきたのだろうか。
ある勉強会のレジュメにあった引用がタイムリーだった。

「子どもは妨げられることなく成熟するために、安全な隠れ場所を本性上必要とするのである」
ハンナ・アーレント

自分たちも子どもだったのに、その時のことを忘却したのだろうか。
話を始めないいけないと思うのです。

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