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麹珈琲•誕生物語

麹珈琲•誕生物語


・普段ブラックコーヒーは飲めないがこのコーヒーならブラックで飲める。
・いつもは砂糖もミルクも入れる。このコーヒーなら、どちらもいらない。
・ほんのり甘い香りがする。
・優しい味、甘味が感じられる。
・普段コーヒーは飲めないが、びっくりするぐらい美味しかった。

こんなコーヒーがある。
当店のオリジナル。麹珈琲(こうじコーヒー)だ。

麹珈琲(こうじコーヒー)とは、
珈琲に焙煎した麹をブレンドした珈琲。
麹珈琲って一体なんだ?という疑問を抱くのが普通だろう。
この珍しい珈琲が、どのようにして生まれたのか?
是非知っていただきたいので、本記事においてまとめてみる。

発酵の里 神崎

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麹珈琲を語る上で、神崎町について触れる必要がある。

鹿眼鏡珈琲の所在する千葉県香取郡神崎町。
茨城県と千葉県の境にある利根川沿いの小さな町で、
人口がわずか6000人弱の千葉県で一番小さな町だ。

この町の面白い所は、発酵をテーマに町づくりを行なっている事。

明治時代後期に鉄道ができるまでは、
利根川の水運が主な物流ルートであり、
往来する船の宿場町として大いに栄えたそうだ。

そんなこの土地には昔には9件もの酒蔵があり、
麹屋、味噌屋、醤油屋など発酵の文化が日常的に存在する町だったそう。

今ではその当時から残る2軒の酒蔵があり、麹屋、醤油屋など、
今でも発酵の文化が残っている町。

人口わずか6000人の町。この町がどのように町づくりを行うのか?
と考えたときに行き着いたのが〈発酵〉というテーマだった。

2件の酒蔵が年に1度開催していた酒蔵祭りに町も行政単位で関わるようになり、初めは数百人だった来客数が、年を重ねるごとに、
口コミで物凄い勢いでどんどん広がり、
10回目を数える2019年の酒蔵祭りでは
1日に6万人以上の来客が記録されるようになった。
人口わずか6000人の町に、である。

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JRの臨時電車〈酒蔵祭り号〉や、この酒蔵祭りのための
臨時高速バスも出るような賑わい。
普段は閑散としている、静かな町が、
原宿の竹下通りかと思われる賑わいとなる。
(残念ながら2020年、2021年は酒蔵祭りは自粛となっている)


2015年に神崎町にオープンした道の駅がある。

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その名も〈発酵の里こうざき〉。
全国のありとあらゆる発酵関連の食品がずらりと並ぶ、
全国にも類を見ない発酵食品のセレクトショップだ。
発酵マニアにはたまらないメッカとなっているなんて話も聞かれる。

発酵の里の珈琲とは…?

神崎町で珈琲屋をやっていて、当然この町ならではの
発酵要素を取り入れた珈琲作りができないものか…?と考える。

甘酒を入れてカフェオレ風に?
→正直、味が微妙。ミルクとは違う。珈琲には合わないという結論に。

酒粕を入れる?
→溶けない、アルコールが入ってしまう。

と、いろいろ考え、試すも決定打に欠け、商品開発には至らなかった。


寺田本家の蔵人さんとの会話

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神崎町に知る人ぞ知る、寺田本家という酒蔵がある。
〈自然酒〉作りがコンセプトの酒造で、
オーガニックの世界ではかなり知名度が高い。

寺田本家の社長夫妻や従業員さんとは、
普段から個人的にもお付き合いがある。

ある日、蔵人さんと何気ない会話をしていた中で
「麹って焙煎するとすごい甘い香りがする」
という話題が出てくる。

麹を焙煎!?今まで考えもしなかった。

そこで、いろいろな麹を焙煎してみる。
白米麹、玄米麹、町内の麹屋さんのもの、市販のもの…。
初めは上手くいかない。
麹が窯の中で焦げ付き、窯の内側にびっしりとこびりつく…。
なんて失敗をしたり、焼きすぎて焦がしたり…。

寺田本家の発芽玄米麹〈かむたち〉

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で、行き着いたのはやっぱりというか、そういうことになっていた、
という感じだが、麹焙煎の話を聞かせてくれた寺田本家の麹だった。

麹珈琲に使用しているのは寺田本家の〈かむたち〉という麹。
発芽玄米麹という、珍しい麹だ。
通常の麹は白米に麹菌を付着させ、発酵させて菌を増やし麹を作る。
この〈かむたち〉は玄米を発芽させ、非常に栄養価の高い段階で
麹菌を付着させ、発酵させて麹に仕上げる。
だから麹にものすごいパワーがある。

この寺田本家のすごい所は、
麹に使用する米も、酒造りに使用する米も
全て契約農家に作ってもらう無農薬栽培米
という事だ。
さらに自社で田んぼをやっていて、酒造りに使う専用の酒米も
社長自ら田んぼに入り、泥だらけになって、社員と一緒に作っている。

もう、ここまでくると、このような酒蔵は
オーガニックの変態の域と言って良いと思う。

かむたちに使用する米も、もちろん無農薬で作られている。
無農薬米を原材料に使用している麹という要素は、
Organicをコンセプトにしている当店の珈琲に使用するにあたり、必須条件
だった。

無農薬米で作られた麹なんて、売ってない。まず手に入らない。
それが焙煎所から徒歩数分の場所で作られているのだ。
これも奇跡というか、必然というか。驚くべき事だ。

この寺田本家とのつながりがなければ、麹珈琲は誕生していない。
本当に感謝である。

白米麹と違い、玄米は殻に包まれているからだろう、
窯の内側にこびりつくことなく、うまい具合に窯の中で回転してくれて、
均一に焼くことができる。
そして何より香りが抜群に良い。
やはり発芽玄米麹のパワーあっての事なのだろう。
かむたちを焙煎すると、むせ返るほどの甘い香りが焙煎室中に充満する。
お客様には体験してもらうことは難しいのが残念だが、
本当にこの香りを体験してもらいたいと常々思う。

次は珈琲とのブレンドの配合。
これがなかなか難しい。

珈琲の味わいを消さずに、かつ麹の味わいを活かすことができる配合割合を探る。

珈琲9割:麹1割→麹の味がほとんど感じられず、普通の珈琲との差がわかりにくい。
珈琲5割:麹5割→珈琲の味わいが弱くなりすぎて物足りない。
珈琲7割:麹3割→まだ珈琲が弱い。味の締まりが足りない。
珈琲8割:麹2割→普通の珈琲とは違う。差が感じられる。かつ珈琲の味わいもしっかりある!!

いろいろな人に試飲してもらい、通常のコーヒーとは違う、柔らかい味、
麹の味わいが生きているなど感想をもらう事ができた。


麹珈琲の誕生

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こうして麹珈琲が誕生した。
初めはイベント出店で対面販売にて麹珈琲を売っていた。
お客さんからもなかなかの好評をいただいた。

この珈琲をイベントの対面販売だけで売るだけではもったいない。
これをたくさんのお客さんに届けるためには…。
と考えて商品化したのが、麹珈琲ドリップバッグ。

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これならハンドドリップの道具を持っていない人でも気軽に麹珈琲を飲んでもらえる。
道の駅発酵の里こうざきに置かせてもらい、販売は好調。
道の駅で購入して美味しかったというお客さんが、
HPからリピートの注文をしてくれるようにもなった。

地元で美味しいからとリピートして買ってくれる常連さんも増えている。

ドリップバッグの面白いのは、プレゼントにも最適というところだ。
プレゼント用に化粧箱入りでとか、ちょっとした手土産にしたくて、
そんな注文も入る。

これは自分の経験でもあるが、珈琲屋であるが故、
旅先などで美味しい珈琲を飲みたいと思う。
お目当てのカフェや喫茶店に行くのは良いが、
宿に戻って一息という時にもやはり美味しい珈琲を飲みたい。

そんな時にこのドリップバッグがとても重宝する。
宿には大抵、ポットと湯呑みはある。
ドリップバッグを持っていけば、自分の納得のいく珈琲が
簡単に飲めるのだ。
これは自分の旅行中の体験で、我ながら良い物を作ったと思ってしまった。


麹珈琲•誕生物語とこれから

以上、長くなってしまったが、麹珈琲の誕生物語を記してみた。
何事もそうではあると思うが、自分の全く予期していないところ、
予期していないタイミングや状況に必然としか思えない事が
一見普通に転がっているような事がある。

この麹珈琲もある意味必然によって生まれたような気がする。

当店は珈琲屋であるが、単に珈琲を売るだけの珈琲屋であればいいとは思っていない。
大袈裟で、厚かましいかもしれないが、オーガニック珈琲を通して、
人類がもっと自然に寄り添ったライフスタイルを送る事ができるように、
という願いがある。
それが当店のコンセプト〈Organic Normal〉だ。

オーガニックを難しく考えず、美味しく、楽しく、嬉しく、
オーガニックが日常になる生活スタイルを目指したい。
人間にも動物にも地球にも優しい持続可能な世界を目指して行けたら、
微力でもその一端を担えたらと思う。

以上、麹珈琲の誕生物語を記してみた。
発酵の里の珈琲として多くの人に味わっていただければと思う。

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