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旅が栖だったあの頃とこれから。

 2020年、私たちの旅は完全に足を止めた。世界を飛び回っていた人達が突然家から出ることができなくなった。一度足を止めて自分と向き合い、やりたいことを見つめなおす良い機会ではあったとは思う。ただ、当分の間は旅を生業とし、旅と共に生きていこうと決めていたから、こんなにもあっけなく自分が描いていた理想が崩れるなんて思いもしなかった。目標が実現してから1年足らずというの春の夜の夢のごとき時間だった。平和な世界が続いていれば、きっと今頃は文字通り旅を栖として、海外の得体のしれない雰囲気も身に纏った、浮世離れした妖怪になっていたはずだ。それはそれで少し不安にもなる。

 チャットモンチーが中学生の頃から好きで、高橋さんが脱退する前がピークだったよなと世間で言われながら、頑なにドラムメンバーを入れようとしなかった2人体制となったガールズバンドの楽曲を今でも聴き続ける。今の時代、レコードがすり減る心配もないので、これまでも、これからもそうする。武道館の最後の楽曲「サラバ青春」を現地で聴けたことは誇りに思う(舞台裏の追加席に当選した)。高橋久美子さんという、アーティスト兼小説家が書く旅についての書下ろしは、旅の計画をするあのうわついた感覚から自宅に帰ってきたときの少し変わった自分までをありありと思い出させる。細胞がまたあの気持ちを求めているのだということに気づかされた。

 偶然ではあるが、彼女が綴ったでタイ、モロッコ等は自分が行ったことのある国だったので、その頃情景が文字から広がり懐かしい気持ちになった。特にモロッコは自分の中でも思い入れのある国の1つであり、あのぱさぱさしたパンと広大な砂漠の朝日は忘れることはないだろう。

 日本人がアジア人の自覚がないのは、日本という国での暮らしが閉塞としているのもあるし、部外者に対する不安が大きいからでもある。旅に出て世界を知ることは、自分の限界値を知らぬ間に大きく超えていたりもするから面白い。今となってこそ自宅から出ることの少ない日々を過ごしているが、夜になっても熱に包まれる夜、今日も人生という旅の中で暮らしていく。

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