月刊『日本歯科評論』では2015年に「最近の感染症」というコラムを連載していました.昨今の情勢を鑑み,その中から「一般人の一般的な予防法」を公開します.
基本的な感染対策として現在でも非常に有益ですが,一部,当時の情報であることをご留意ください(編集部).

岩渕博史/神奈川歯科大学大学院歯学研究科 顎顔面病態診断治療学講座

日本などの先進国では新たに感染症を発症する患者は大きく減少していますが,医療の進歩に伴い超高齢者が増えたことで免疫力低下を原因とする“日和見感染”が問題となっています.一方,発展途上国では現在でも感染症の流行が頻回に起き,死亡者数も非常に多いです.

またグローバル社会の現代においては,発展途上国に多い熱帯地方特有の感染症が輸入感染症として先進国内に持ち込まれることが多くあります.さらに近年流行したエボラ出血熱に代表されるような,今まで人類が経験したことのない強い病原性と感染力を持つ感染症(新興感染症)が出現し,猛威を奮っています.

感染症が発症する要因としては感染の原因となる感染源(病原体)の存在,その病原体が伝播される感染経路,伝播を受けた宿主の感受性という3要素が重要です.そして病原体の伝播を断ち切ることが感染予防では最も大切です.

感染経路

最も身近な感染症であるインフルエンザや風邪(普通感冒)の感染経路は飛沫感染によると考えられています.他の感染経路としては接触感染や空気感染があります.

飛沫感染とは,感染者のくしゃみや咳によって周囲に飛び散った病原体を含む気道分泌物の小粒子(飛沫.その数は1回のくしゃみで約200万個,咳で約10万個といわれます)が,周囲の人の呼吸器に侵入して起こる感染です.飛沫は感染者からおよそ1~ 1.5メートルの距離であれば直接侵入してきます.

接触感染とは,飛沫に汚染されたモノ(机,パソコンのキーボード,電話,ドアノブ,食器,つり革など)に触れた手などを介する感染です.手についた病原体を,目や鼻,口などに無意識にもっていくことにより,粘膜から病原体が侵入します.

そして空気感染とは飛沫から水分がなくなり,長い間空中を浮遊しているごく細かい粒子(飛沫核)を感染者と同じ空間にいる人が吸入することによって起こる感染です.

一般的な感染予防法

以下に挙げる方法で感染経路を断つことが,感染予防に繋がります.

1)手洗い
感染予防で最も重要な基本的事項です.石鹸によるこまめな手洗いにより接触感染を断ち切り,感染の機会を少なくします.

2)咳エチケット(マスク)
マスクを付けることで自分の飛沫を介して他人に病原体を伝播させないようにする効果があります.

「咳エチケット」では咳・くしゃみの際にはティッシュなどで口と鼻を押さえ,周りの人から顔を逸らし,使用したティッシュは,フタ付きのゴミ箱にすぐ捨てることが勧められています.ただし,この際に手で直接口を遮ることは,手に病原体を付着させ,それが接触感染の感染源となってしまうため注意が必要です.

なお通常のマスクのみでは周囲の感染者から自分への飛沫の伝播を完全に予防することはできません.しかし病原体が付着した手で鼻や口を無意識に触ることを防げるので,接触感染を予防することが可能です.

3)うがい
うがいを行った場合のインフルエンザの発症率は行わない場合と比べて40%低下するという報告があります.

なお,ヨード系含漱薬によるうがいではそれほど効果が出ず,水道水によるうがいが最も効果があったとされています.しかし,うがいの感染予防効果にはさまざまな意見があり否定的なものも少なくありません.

4)その他
①加湿や換気
室内環境で注意することは湿度と換気です.ウイルスは乾燥した空気を好みます.また,インフルエンザ等にかかった人がくしゃみをした後には,飛沫を減少させるため換気することが重要になります.

②予防接種
インフルエンザの予防接種は高齢者の死亡を約80%,入院を約50%予防できるとされています.

③食事・休養
バランスのとれた食事や休養が宿主の抵抗力維持・増加のために重要とされています.タンパク質や緑黄色野菜,果物を十分摂取することも必要です.

他にも淡色野菜やファイトケミカルによる免疫強化機能が注目されています.発酵食品の有益菌は腸内pH を下げ有害菌の増殖を抑えて腸内フローラを整えるので,免疫活性化にも有効です.

その他に主食として炭水化物や脂肪も適度に摂る必要があります.

そして睡眠を充分取る必要があります.疲労の回復や睡眠によって免疫力は維持されます.

④禁煙
喫煙は気道粘膜上皮の繊毛を破壊し病原体の排出機能を低下させ,さらに免疫力を下げるため,呼吸器への感染を起こしやすくします.実際に喫煙者はさまざまな呼吸器感染症に罹りやすくなる,といわれています.

⑤口腔ケア
介護施設では口腔ケアを行った場合,行わない場合に比べてインフルエンザの罹患を10%にまで減らせることが報告されています.

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月刊『日本歯科評論』2015年 6月号より

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国立感染症研究所:新型コロナウイルス(2019-nCoV)関連情報について

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