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【書評】『3-stepと3-zoneで対応する サポーティブ・インプラント・セラピーーやさしいインプラント周囲疾患の予防と治療』

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2023年9月号に掲載の「HYORON Book Review」を全文公開いたします.(編集部)

中田光太郎/京都市西京区・中田歯科クリニック


どの医院にもインプラント患者は訪れる時代

インプラント周囲疾患は,その発現率の高さから今非常に注目を集めている.林丈一朗教授が著された序章の中に記されている「インプラント治療を行わない臨床医にもインプラント患者は訪れる時代」である.
 
また,インプラントクリニックにおいても自院のインプラント患者でないインプラント周囲疾患患者が来院することもあるし,評者の医院でもその対応に困ることもしばしばある.間口の広さと多様な患者を受け入れておられる大学病院の歯周病科だからこそ,多彩な臨床例の蓄積データにより,そういった状況に対応するための本書が誕生したといえるだろう.  

本書はインプラントに普段携わることのない先生方にも十分理解できるよう,非常に理解しやすい内容に終始されているし,また高価な装置や特別な器具がなくてもできる SIT(Supportive Implant Therapy)を3つの zone 別に丁寧に解説されている.その 3-zone の概念はとてもシンプルで理にかなっており,理解しやすい.

3-step と3-zone でシンプルに  

天然歯の縁上,縁下と同じ考え方でインプラント周囲組織を捉えるのではなく,縁下をスムースサーフェ スの部分とラフサーフェスの部分に zone 分けをして,それぞれの部分に適する PMTC を紹介している.それも身近な清掃用具を用いて行う方法を,実際使用する器具の紹介も掲載されており,読者はすぐに購入して同じ手技で患者に向き合うことができる.また,インプラント周囲疾患における歯周病学的診査診断の重要性も強調されている.

従来のインプラント周囲疾患の SIT はなかなか複雑で,その鑑別診断,治療のバリエーションの選択はインプラント専門医でも迷うことがある.その点で,3-step と3-zoneでの整理は理解しやすく,シンプルにインプラント周囲疾患に向きあえる.  

3-step の考え方は「なるほど!」と唸る内容である.インプラント独自の上部構造を外せるという利点により,アクセスの良さからその清掃性も向上し,処置の容易さもアップする.確かにここに天然歯と異なる step が存在する.実際提示されている臨床ケースを見ても,上部構造を外す必要性がよく理解できる.外科処置に至る Step3においては,多くのトラブルシューティングの実例が示されて非常に参考になる.
具体的な術式や縫合処置も詳細に示されており,この外科処置においても上部構造を外す,外さない処置が紹介されており,興味深い.

臨床医と共に歯科衛生士さんにも

明海大学歯学部歯周病学分野が総力を上げて仕上げられた本書は,とにかく「歯科医療従事者なら誰でも理解しやすい!」を追求した内容である.ぜひインプラント治療を手がけておられない臨床医の先生,歯科衛生士さんにも手に取ってほしい必携の1冊である.  

申 基喆教授が「はじめに」で著されている「インプラント周囲疾患は,口腔内にインプラントが存在しなければ発症することはなく,言うなれば歯科医療が作り出した疾患である」というこの言葉は,大変重いし,歯科医療従事者全てが向き合わなければいけない疾患であると,改めて確認させていただいた.

関連リンク
『3-stepと3-zoneで対応する サポーティブ・インプラント・セラピー』(申 基喆 監修・林 丈一朗 編著)

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