一流と三流のグラフィックデザイナーの違い
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。毎日午前7時に更新しています。
良いデザイナーと悪いデザイナーの見分け方
前回、「良いデザインと悪いデザイン」の見分け方を紹介しました。今回は、良いデザイナーと悪いデザイナーの見分け方について紹介していきます。デザイナーではない方が、どのようにしてデザイナーの良し悪しを見分ければよいのか、多くの経験を踏まないとわからないかもしれません。そんな見分け方をランク分けしてご紹介していきます。ちなみにですが、ここで言うデザイナーとは、「グラフィックデザイナー」です。それでは、三流から一流のグラフィックデザイナーの違いをみていきましょう。
三流のグラフィックデザイナー
三流、できれることなら仕事を一緒にしたくないグラフィックデザイナーの特徴です。レスポンスが遅い等のビジネスパーソンとしての欠点などは含めないでおきます。
デザインの説明ができない
書体、デザインの基礎知識がない
コンセプチュアル・ワークができない
1. デザインの説明ができない
デザイン案を出してきたデザイナーに、「なぜ、この書体なんですか?」、「この意匠の目的は何ですか?」などの質問をしたとします。そのとき、「今っぽいんで」、「かっこいいので」などの回答しかない場合、その方は三流のグラフィックデザイナーだと考えて良いでしょう。たとえば、名刺のデザインによくわからない線や円などが描かれているものをときどき見かけます。おそらくそのデザインには意味がなく、なにかデザインしているっぽくするためだけのものだったりします。もしくは空白が怖い、という理由かもしれません。このようにデザインに意味や狙いを考えないグラフィックデザイナーと有意義な仕事をすることはとてもむずかしいでしょう。
2. 書体、デザインの基礎知識がない
グラフィックデザイナーと名乗っていても、デザインについての知識があまりない方がいます。デザインの知識とは、書体、配色、色の原則、レイアウト、印刷方法などです。専門の分野というものがあったとして、最低限おさえておきたい知識があります。それらが欠けているというのは、喩えるならボキャブラリーが欠けていることに近いでしょう。
グラフィックデザイナーは、この翻訳の専門家です。その人が、デザインのボキャブラリーが少なければ、翻訳のクオリティが著しく低下します。1の「デザインの説明ができない」にも通じるのですが、質問して帰ってくる言葉に書体、デザイン、時流、ポジションなどの関して深みがないものが返ってきたら、そのグラフィックデザイナーの知識の量を疑って良いでしょう。
3. コンセプチュアルワークができない
コンセプチュアルワークとは、「抽象する」ことです。クライアント側は、何かのデザインを作り上げたいとき、すでに明確に依頼できるほど考えや狙いがまとまっているわけではない場合がほとんどです。たとえば、ある個人経営のレストランのオーナーから
「高級感のあるメニューを作りたい」
というオーダーがあったとします。このオーダーのなかにある「高級感」が意味するものは、レストランの価格帯やジャンル、客単価というニュアンスを含んでいますし、また「今までと比べて」や「近隣の他店と比べて」という相対的なニュアンスも含みます。これらを含めて、
それって、こういうことですね!?
というレスポンスを返すには、オーダーの内容を一度抽象化し、それを具体的なビジュアルへ還元するという行為が必要です。この過程のほとんどがコンセプチュアルワークです。これができないとヴィジュアルの翻訳もできません。グラフィックデザイナーが返してくる「それって、こういうことですね!?」にピンと来ないことが続いたら、コンセプチュアルワークが得意ではないかもしれないと疑って良いでしょう。
二流のグラフィックデザイナー
ここで言う「二流の」グラフィックデザイナーは、なかなか仕事ができる方々を含みます。でも「惜しい!」。減点法や完璧主義的な考えからではなく、クライアント側にとって「一緒に失敗もできるグラフィックデザイナー」というには、欠けているものがあるという意味です。「一緒に失敗」が意図するものは、デザインにはきっちりした正解がなく、そのため、より良いものを作るには、ある程度の失敗を経ることがあるということです。狙いどおりに行かなかった……その原因を一緒に考え、次の一手でヒットさせる、そんなパートナーとして頼れない理由が二流には、あります。その特徴は、次の通り。
時流と技術のアップデートができていない
「かっこいいもの」を作りたい
欧文組版の知識がない
1. 時流と技術のアップデートができていない
仕事ができるデザイナーは、とても忙しいです。デザイン会社にしろ、個人にしろ、その仕事には、多くの目に見えないトライアルが含まれています。クライアントに見せるときには、その最終形ばかりですが、錯視調整やバランス、競合に似たデザインがないかの調査など、見た目より多くの仕事をしているため、とにかく忙しい。そのため、時流、つまり流行のチェックや技術の更新が追いつかないことがあります。これを確認するには、「今、どんなデザインが流行っているんですか?」や「ホームページって今、どんな動向が目立っているんですか?」などの質問をすると良いでしょう。書体にも、デザインにも流行はあり、技術の更新のスピードは吐きそうなほど速いのが現在です。
2. 「かっこいいもの」を作りたい
グラフィックデザインの世界には、賞がいくつかあります。JAGDA(ジャグダ)という公益社団法人日本グラフィックデザイン協会の新人賞や広告デザイン賞、ADC賞など。グラフィックデザイナーは、これらで入選したい。さすれば、デザイナーとしての名声を獲得し、制作費にプレミアムがつき、将来への展望がかなり明るくなります。これを目指すグラフィックデザイナーは、能力やセンスが高く、良いデザインを生み出すのですが、クライアント側には、受賞よりも優先したい目的があります。それよりも受賞を目指されても困るわけです。そのへんも含めての見抜き方は、
必要最低限のわかりやすさを軽視している
かどうかです。日本だけがマーケットにも関わらず、全部英語だったり、文字が小さすぎたり(二流のグラフィックデザイナーは文字を小さくしたがります)するとき、これを疑っても良いでしょう。グラフィックデザインの受賞は、グラフィックデザインの時流の最適化、新規性などの意義や良きモデルであることがポイントになりますが、それはクライアントのオーダーと合致している保証もなく、受賞したことがクライアントのメリットになるかといえば、デザイン業界だけでの名声であるため、宣伝効果として期待できる程度も限定的です。とはいえ、クライアントのオーダーに叶ったうえでの受賞であれば、とても理想的ではあります。
3. 欧文組版の知識がない
欧文組版とは、欧文にあるルールです。欧文では、両端揃えにするとき、単語間で調節しますが、それを知らない日本人のデザイナーは、日本語と同様に文字間で調節するため、単語の文字が間延びします。これは、欧文としてはとても醜い姿となりますが、欧文組版を知らないと、それに気づくこともありません。その他にも合字や引用符、大文字の使い方などのルールがあります。そして、これイギリス英語とアメリカ英語でも異なってきます。この知識がある程度でもないと欧米人から見て、残念な英文表記になります。これは、海外でも事業を行う企業においてはブランドを低下させるものとなりえます。日本人ならあまり気づかないし、それゆえに欧文組版の大切さも認知されないため、欧文組版に精通しているデザイナーが珍しいくらいです。
一流のグラフィックデザイナー
二流までの特徴については、減点的で、否定的なものを挙げてきましたが、一流のデザイナーの特徴は打って変わってポジティブなものとなります。これらの特徴に当てはまるなら、安心して長い付き合いをしていけると思います。そんな一流のグラフィックデザイナーの特徴は、
デザイナーではなくても、わかるように話す
デザインを経営戦略のひとつとして捉えている
損得で判断・行動している
1. デザイナーではなくても、わかるように話す
グラフィックデザインというものは、デザインの一形態なので、その存在意義は、「機能」です。主役ではなく、目的という御主人様を持った存在です。その目的を抽象化し、それを達成するためのものを具現化していくのがデザインなわけですが、このとき、「いい具合に納得してもらって納品してしまう」ということが元来目的ではありません。(ただしデザイナーの良し悪しだけでなく、クライアントの良し悪しにも大きく関わってくるものでもあります。)良き仮説を作り、それを実施し、検証するのが理想なのですが、これを望むに当たり、お金と時間を掛けるのですから、戦略の共有の精度がとても重要になってきます。なのにデザイナー側が「デザインはこっちのフィールドなのでまかせちゃってくれ」という姿勢であるとき、デザイナーは、経営戦略のフィールドでは外側にいることを忘れがちです。
なんか、難しく書きましたが、相手が分かるように話せないなら二流で、相手がわかるように話せるなら、一流だという話です。
2. デザインを経営戦略のひとつとして捉えている
グラフィックデザインは、扱うものにもよりますが、「見た目をいい具合にしてくれれば良い」という程度のものではない場合のほうが多いでしょう。B to Cに限らずに。なぜかというとグラフィックデザインのお出ましには、競合の存在が前提になってくるからです。競合なきところでは、ブランディングはほとんど必要ありません。競合があるからブランディングが必要になり、その一環としてグラフィックデザインが必要になってきます(という場合が多い)。
クライアントとグラフィックデザイナー(もしくはクリエイティブディレクター)の関係に依るところはあるのですが、経営戦略のひとつだという意識がないと掛けるべき時間とお金の考えにずれが生じてきます。このあたりも一緒に考えて、戦略を立てていけるなら、一流です。
3. 損得で判断・行動している
最後は、損得で判断し、行動できるということになってきます。デザイナーとしての矜持を損得より優先されるとクライアントとデザイナーのあいだに狙いにズレが生じてきます。損得で判断できるなら、狙いは、利益の最大公約数となります。プライドは、基本邪魔にしかなりません。損得で判断し、且つ頭が悪くないのであれば、不正などのあとになって困る選択はしないはずです。
まとめ
以上、別になにかしらこの主張を保証するものがあるわけでもなく、グラフィックデザインと経営と投資をしてきたわたしの主観ではあります。それでも、ブランディングやデザインの不確実さと重要さと、またそれが発揮される場とされない場の違いを理解する環境を経てきて、思うところのものを紹介しました。
とても有名なデザイナーでも、欧文組版あまあまだったり、そのデザインは機能するのか?と疑問に思うものを世に出している方もいるんです。たとえば……って紹介したくなりますが、しません!損をするので。