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なぜパンティの真ん中にリボンがついているのか?その理由

ビジネスに使えないデザインの話

ビジネスに役立つデザインの話をメインに紹介していますが、ときどき「これはそんなにビジネスには使えないだろうなぁ」というマニアックな話にも及びます。今回は、ビジネスにたぶんあんまり使えなさそうな話です。でもおもしろいです。


なぜパンティの真ん中にリボンがついているのか?

国内外ともに女性の下着の前の部分には、リボンが付いていることが多い
画像引用:aimerfeel 

こんな疑問は国内外で多く上がっていて、いくつかの代表的な推測があります。ひとつは、昔はゴムではなく、紐て締めていたので、結んでいた部分が名残としてリボンになった、というもの。もうひとつは、前後ろがわかる、という機能的な理由。現代においては、この2つが、パンティの存在理由としては成立しなさそうです。前後ろは間違えにくいし、もうゴムで締められることが一般的です。故に現在もまだある理由は、「デザイン上の理由」、つまり「飾り」だと考えられています。ワコールの広報/宣伝部に訪ねた結果は、

デザイン上の理由

でした(※1、※2)。海外の記事(※3)では、「忌まわしいので切り落としている」という女性の声も載っていました。

その答えをみるまえに、女性の下着の歴史にちょっとだけ寄り道してみましょう。

女性の下着の歴史

source: Local Histories “A History of women's Underwear”


初期の女性の下着

アポデスメ(apodesme)
source: Sartorial Adventure

古代ギリシャの女性は、アポデスメ(apodesme)と呼ばれるブラジャーを着用していました。ローマ崩壊後、19世紀まで女性はパンティを履くことはありません。でした(!)。下着は、シフト、スモック、シュミーズと呼ばれるリネンの長い衣服で、女性は、これらをドレスの下に着用するだけでした。(日本だってそう)。

16世紀以降、女性は鯨の骨で作られたコルセットを着用するようになりました。また、16世紀後半には、針金や鯨の骨で作られたファーティンゲールと呼ばれる枠を着用するようになりました。下着ではありますが、パンティのように股のまわりを覆うものではありませんでした。

16世紀末からは、ペチコートと呼ばれるスカートのような衣服に刺繍を施したものも着られるようになります。(ペティコートはもともとペティ・コートと呼ばれる男性が着る短いコートのことで、女性がこの言葉を借用しました)。

19世紀の女性用下着

ディードリッヒ・ニッカーボッカー(Diedrich Knickerbocker)が書いた『ニューヨークの歴史』という小説があります。(実際はワシントン・アーヴィング(Washington Irving)が書いたものでした)。この本の挿絵に、オランダ人が下半身に長いゆったりとした衣服を身に着けている様子が描かれていました。これが由来となり、当時、男性がスポーツのために履いた、ゆったりとしたズボンを「ニッカーボッカーズ」と呼んでいました。ニッカポッカの語源です。やがて女性もニッカーボッカーズを履き始めました。19世紀後半になると、この言葉はニッカーズ(Nickers)と短縮されました。アメリカでは、女性の下着をパンティーと呼びますが、イギリスでは、パンティーという言葉ではなく、このニッカーズを使います。当時、ニッカーズやパンティを英語で「a pair of knickers or panties」と表現していました。それは、2本の脚を腰でつなぐものだったからです。まさに靴や靴下のように「ペア」だったのです。

19世紀、女性の下着はブルマー(bloomers)と呼ばれることもありました。エリザベス・ミラー(Elizabeth Miller)が女性用のゆったりとしたズボンを考案し、1849年、アメリア・ブルーマーがこのアイデアを広め、ブルマーとして知られるようになっていきました。やがて、長い下着がブルマーと呼ばれるようになっていきます。

20世紀の女性用下着

19世紀の女性の下着は股の間が開いたものでした。それが、20世紀には、股の間が閉じたニッカーズが取って代わっていきます。1910年、ストッキングやニッカーズにレーヨン(当初は人造絹糸と呼ばれていました)が使われるようになります。ナイロンは1935年にウォレス・キャロザース(Wallace Carothers)によって発明されました。1939年に最初のナイロンストッキングが販売され、その後、パンティもナイロン製になっていきました。

一方、1913年、メアリー・フェルプス・ジェイコブ(Mary Phelps Jacob)がブラジャーを発明しました。

19世紀には、パンティは膝下までありましたが、1920年代になると、丈が短くなり、膝上までになります。1940年代と1950年代には、多くの女性がブリーフを着用するようになりました。1970年代には、パンティはさらに小さくなっていきます。1981年、米国でTバックが登場し、1990年代には一般的になりました。1949年、ガートルード・モラン(Gertrude Moran)というアメリカのテニスプレーヤーが、フリルのついたパンティをはいて、ウィンブルドンに登場し、センセーションを巻き起こしました。1949年当時、この格好は、とても大胆なものとして受け止められました。

ガートルード・モラン(Gertrude Moran)
source: USA TODAY

もっとアカデミックな下着の歴史はこちらの動画が参考になります。


予想外の理由

歴史を見て驚くのが、今現在の下着が定着し始めたのは、1990年頃だということです。まだ30年ほどの歴史しかありません。それでも、歴史はどれだけ調べても、「なぜどんどん小さくなっていくのか?」ということについての答えを示してくれません。その答えは、意外なところにありました。ゆったりしたものだった下着がなぜこれほどまでに身体に密着するようになったのでしょうか。そのほうが機能的?そんなことはなくて、身体に密着すれば汚れやすくなります。生理のときだけ身につけていたものはあったのですが、それはまた目的が違います。

社会学者の上野千鶴子さんの推測は、このようなものでした。

ストリッパーが履くバタフライが、現在のパンティの起源

わたくし、ストリップに詳しくなく、ストリッパーが着用するバタフライなるものが良くわかってはいません。調べてもなかなか出てこない。しかし、ここは掘り下げなくても良いです。「ストリッパーが最後に脱ぐ衣装」という理解で良いと思います。

ちなみに「あれ?リボンの話じゃなかったっけ?」と思われるかもしれませんが、その答えにも同時に到達します。

ここまで読むと不快に思う方もいるかもしれません。女性が、男性に「見られることを意識して、小さな下着を身に着けている」と考える、なんて許せない!と。しかし、ファッション、衣服や20世紀に入り、現代に至っても「機能」ではなく、「記号」としての役割を担っているのは事実です。つまり、女性の下着は(男性の下着も)、「記号」としての役割を持っているわけです。

倫理や道徳というものを取っ払って、機能しているものだけに注目すると、人間の行動のほとんどは、実は「子作り」に向かっていると捉えることができます。これは、行動心理学的な視点でもあります。たとえば、わたしたちが、「イケメン」とか「美人」と感じることができる人間は、左右対称性が高い外見の人間です。左右対称が意味するものは「健康」です。

ジバンシーの香水も、ロレックスの腕時計も、ポルシェも、基本的に性的な魅力に通じる記号です。それがそれてそれて「社会的」という意味としても捉えることが可能になります。


結論

結論は、「女性が男性に媚びるようにして性的なアピールを目的として下着は小さくなっていった(だからプレゼントや性的なゴールを示す記号としてリボンが付いている)」というものでは、ありません。近いのですが、ちょっと違うのです。

女性が女性性を示すために、ストリッパー由来の形状の下着を着ている、というところまでは正しい(と考えています)。しかし女性は、男性の目線以上に、自分の目線(を通した同性の目線)も意識しています。男性もまたモテる以上にマウンティングしたいニュアンスで高額の腕時計を身に着けたりします。さて、結論は、

人間は20世紀に入り、男女ともにセックスアピールに注力できる余裕を持つようになりました。それに伴って、セックスアピールというものを具現化するようになっていきます。ゾンバルトの恋愛と資本主義の関係の考察は、こうした傾向の源泉として観ることができます。女性は、自分のセックスアピールを宗教を恐れず、肯定的に利用することが可能になり、下着を誰に咎められることなく、「その下にあるもの」を暗示したものを着用することができるようになりました。そのため、ストリッパーに由来するデザインが一般化していきます。つまり、「その下にあるもの」を暗示したデザインのパンティを着用することが一般化していきます。

これが、リボンの意味であり、女性の下着が小さくなっていった理由です。

そして、それは男性に向けた、というものというよりは、男性に向けたものであることを起源として、女性が女性性を積極的に取り入れることが一般化し、男性に向けていた性質が希薄化したことも意味しています。

ちょっと回りくどい話になりましたね。しかし、こう考えるとわかりやすいかもしれません。わたしたちは、もう衣服を機能よりずっと記号として着用しています。パンティが持つ記号は「女性であることの魅力」です。キャピタルというと誤解されにくくなるかもです。

パンティのリボンの理由は、記号

ヒール、腕時計、車、香水、予約の取りにくいレストランに来ていることを示すインスタグラム、なども記号です。


論拠にした本

上野千鶴子(著)『スカートの下の劇場』



参照

※1

※2

※3




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