日向ぼっこ08

「タングステンね、まぁ使えるよ」
クロはおどけながらそう言った。
「よし、ここにも試作品を作るために工作機械は揃ってる。後で作ろう、あともう一つ問題があってな…」
「なんですか?」
レオは対戦車ライフルを箱に戻しながら聞いた。
「誰が撃つかってことだ。勿論、ここからは届かないし、当然撃つ場所は前線で、しかも余剰はほとんどない」
余剰と言えば幾分か聞こえはいいがほとんどは数ヶ月前まで銃も持ってなかった連中でまともに戦える奴はもう前線にいるのだ。
「人がいたとして、どこで対戦車ライフル使うんですか?」
「それならもう考えてある、電波塔の上だ」
「戦場のランドマークか」
クロはスズの電波塔というワードに反応してそう言った。
「お前がくれた位置情報的にもあの浮遊物体に一番近くて私の作ったライフルの威力が減衰せずにダメージを与えられる」
「問題はその電波塔が緩衝地帯にあるってことですね」
レオは過去のことを思い出そうと上の空を見つめた。
「だから人がいる」
「行かせてください」
レオはスズの言葉を遮るようにしてそう言った。スズは言っていることと、レオの表情の真剣さのギャップに思わず苦笑いする。
「軍において行動する時は2人以上って教わらなかったか?」
クロは黙ったまま、レオを観察するように見ている。
その時急にスズの携帯電話が鳴り出す。
「……出ても?」
レオは少し機嫌悪そうに了承する。
スズは電話に出ながら部屋の隅へ移動した。
それまで傍観していたクロが口を開く
「お前ってなんで軍辞めたの?」
特に何もすることがないらしく、クロはレオに話しかけた。
「上の判断だよ、ここに来れたのは上の気遣いか、所長との取引、は考え過ぎか」
そう言いながらレオは近くの木箱に腰掛けた。
「辞めさせられた?というと」
クロが若干驚いたように言うと電話が終わったらしくスズは近付いてくる。
「情報部が新しい情報を手に入れた。あと2日で敵の大攻勢が始まる」
一気に緊張が張り詰め、クロは自然と手を握りしめる。
「……ええい、この際仕方ない使えそうな奴はお前だけだ。すぐに装備を整えるぞ」
と言った。
「仕方ない、続きはお預けか」
クロは肩をすくめながら対戦車ライフルのケースの中に同封されていた弾の設計図を眺め始めた。
レオは対戦車ライフルの入ったケースの蓋を閉じて持ち上げる。

「軍に貴様のような臆病者はいらぬ」
そう言われたことを思い出した。
敵の攻撃を受けて味方でほとんど無傷だったのはレオだけだった。激しい戦闘でほとんどの仲間が2階級特進になった。

「あの状況で生き残るなど敵前逃亡に等しい」 

 そういうレッテルを貼られた。
上層部は目を背けるには大きすぎる失敗に対応せねばならなくなり、責任から逃れるためにレオを吊し上げた。
 軍法会議にかけられたにも関わらず、異動だけですんでいるのは来るには遅すぎた援軍の指揮をしていた上官が庇ってくれたからである。そしてその後彼を所長が拾ったのは言うまでもない。

「生き残るのも兵士の勤めである」

庇ってくれた上官はそう抗議した。

しかし、今、レオはどちらを信じればいいのかわからない。あの時死ぬべきだったのか、そうじゃないのか。

倉庫を出るとスズは簡潔に指示を与える。
「装備改良のための研究目的で研究部に一通り装備が揃っているからレオくんは対戦車ライフル以外の装備を揃えろ、あと所長に電話、戦争の後始末の準備をしろと」
「はい」
レオは所長に電話を掛け、簡潔にその内容を伝えた。
「クロ、設計図を読んだら早速作業に取り掛かるぞ、弾頭はお前、装薬は私がやる」
「うい」
「レオ、所長はなんと?」
「首相官邸に殴り込むと」
「頼もしいな、君らの上官は」
建物内を移動し、「装備研究」とドアに書かれた部屋にほぼ減速ゼロで突っ込むように入る。
「スズさん?お客様ですか?」
状況を飲み込めてない部下は通常通りの会話を始めようとする。
「お客様じゃないからお茶は不要だ。こいつに研究用の装備をくれてやれ。責任は取る」
いつもは奇行しかしないスズの態度と違うことを感じたスズの部下は少し動揺しながら「了解」の返事をする。
「タングステンもってこい!」
スズが指示を出し始めると数人いた部下達がスイッチが入ったようにテキパキと動き始める。

ガンロッカーの鍵が開けられる。どうぞ、と言われ部下がレオの為に場所を開ける。
「……久しぶりだな」
レオは制式ライフルを手に取った。
「銃以外の装備は?」
近くにあった作業用の机にライフル、そしてマガジンを置いた。
「こちらに、いくつか種類がありますが…」
「ああ、大丈夫。僕が選ぶから弾薬持ってきて」
広いとは言えない研究室の中で事故が起きないための法定速度ギリギリのスピードでスズの部下が走っていく。
服のサイズは一種類しかなかったがこの国で平均的な身長だったので問題なかったのはありがたかった。
「服はこれでいい、あとは…」
どんな戦い方で行くのか、グループで戦うことで弱点を晒さないように行動するというのは難しいだろう。そして実戦の経験と助けてくれる仲間がいないのだから敵の攻撃を一発でも受ければ次弾も当たると考えていい。それでもって継戦能力を考えなければいけない。

軽装で敵陣を突っ切り、目標を破壊する。

「プレートキャリアーじゃないな…」
防弾プレートが入っている分、多少撃たれても問題ないという利点はあるが動きが鈍くなる。
「チェストリグだ」
マガジンの携行数を増やすことに特化したものを選び、ベルトにもマガジンポーチ、グレネードポーチをありったけつける。
「弾薬です」
先程走っていった部下が帰ってくる。
「……見たところ随分と撃たれ弱い装備構成ですね」
「戦車でも行けるかわからないような場所に行くんだ。どのみち一撃で死ぬのなら防御の為の装備はいらない」
「なるほど、威力偵察のようなものですか」
敵陣に無理やり押し入り、情報を持ち帰る威力偵察を例えに出してきた部下は流石というところだ。
「強行突破するとなるとライフルでは心もとないですね……良いものがあります。少々お待ちを」
しばらくすると1つのガンケースを持ってきた。
「どうぞ」
先程までライフルが置いてあった机の上の空きスペースを埋めるようにガンケースが置かれ、蓋が開かれる。
「ショットガンか」
「セミオートショットガンです。現在使われている物の後継として開発された新型です」
自慢げに部下は語った。
「レオくーん」
クロの作業も始まったらしく機械の作動音が鳴り響く。
「うるさくなってきましたね」
部下は楽しそうにそう言うとショットガン用の弾薬ポーチ持ってきますねと一言残してまた何処かへ行ってしまった。
「さて、準備するか」
レオは独り言を言いながらまた装備選びに戻った。