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クリームソーダ

「必ず戻ってくるから、だから信じて待ってて」

 そう言って、あなたは病院に戻っていった

 週に一度の短い逢瀬

 あれから何週間たったろうか……

 数えてしまうと辛くなるので、一週間たったころから数えるのはやめた

 カラリと、グラスの中で氷が溶けた

「お見舞いに行きたい」

「……ごめん、弱ってる姿を見られたくない」

 溶け出していくクリームが、じぶんの心を表しているようでせつない

 柄の長いスプーンを手に取り、クリームをすくう

 それを口に含むと、優しい甘さが溶け出していく

 ひと匙、また、ひと匙……心にも、優しさが沁みていく

 凍えてしまいそうな心を、冷たいアイスクリームが温めていく


 まだだいじょうぶ


 うん、まだだいじょうぶ


 ガラスについた水滴に、透明な緑色が閉じ込められていた


 きっと、じぶんの心も水滴の中に閉じ込められているんだ


 毎週水曜日、いつも二人で会っていたこの喫茶店のこの席に、心だけ置いたまま動けずにいる


 いつの間にか、夕日がグラスを照らしていた


「そろそろ帰らなきゃ」


 こげ茶色のテーブルに置かれた伝票を手に取る

 小さくため息をひとつついて立ち上がろうとしたその時、スマートフォンが震えた


  ずっと待たせてごめんね

  君に会いたい


 急いでお会計を済まして外に出る

 カランカランとカウベルの音が鳴り響く

 その音に背中を押されるように、走り出したその先に、夕日を背中に浴びながら、彼が立っているのが見えた


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