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【エッセイ】ムゲン乾杯からリモート乾杯へ

「はい、かんぱぁい!」
まだ幼い長男と割れる心配のないプラスチックのコップとコップをカシャン! とぶつけてから飲み物を飲む。
コップの中身はお茶だったり牛乳だったり。

この頃の長男は、自分が気に入った行動パターンをひたすら繰り返す時期だった。

「かんぱぁい!」でコップがカシャンと鳴ったり、「カシャン」をしたらお茶や牛乳を飲む、というルーティンが楽しいらしい。

飽きることなく、かんぱぁい・カシャン・ごくっ・かんぱぁい・カシャン・ごくっ……を繰り返す。

私はこの“ムゲン乾杯”が可愛くて可愛くて、本当に好きだった。

子供となら誰もが同じような行動をするかは分からない。
でも、うちの二番目に生まれた長女も三番目に生まれた次男も、もれなく“ムゲン乾杯”を経て成長していった。

今年、新型コロナウイルス感染症の予防のためのステイホームという概念が世の中に広まった。
大学・専門学校に通うのために独り暮らしをしている長男・長女も里帰りすることはなかなか困難だった。
うちではこれを機に、家族でリモート呑み会をするようになった。

私と主人は夏はもっぱらビールで。
炭酸が苦手な長男は、ワインや酎ハイで。
長女は未成年なので、紅茶で。
まだうちにいる高校生の次男はお気に入りの炭酸飲料で。

それぞれがカメラに向かってカップや缶を近づけたら、呑み会のスタートだ。

彼らが幼い頃お茶や牛乳だった飲み物はそれぞれ好みの飲み物に変わり、“ムゲン乾杯”は“リモート乾杯”に変わった。

この呑み会は強制ではないため、参加人数2人だけということもある。
みんなのタイミングが合わず、呑み会が無い時もある。
それでも、ほぼ毎週のようにリモート呑み会は続いていて、母としては、離れた場所にいる子供たちと繋がれるとは嬉しい。

いずれは子供たちはそれぞれの道を歩んでいく。
それぞれの世界での仲間や友人と乾杯をして呑む機会の方が多くなるのは、きっとそう遠くはないだろう。

そうなったら、ほぼ毎週の“リモート乾杯”はうちに、帰ってきた時のみの“里帰り乾杯”になるのかもしれない。
それまでは、もうほんの少しだけ。家族みんなで“リモート乾杯”が続けばいいなあと思うのは母のささやかな願望だ。

#また乾杯しよう

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