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【エッセイ】偶然をチャンスに

 高校の頃、入っていた吹奏楽部にプロの奏者が指導に来てくれたことがある。
 その人は、同級生で部内指揮者でもあるMくんがうちの部を指導してほしいと依頼した人だった。

「プロの人に指導してもらえるなんて貴重だね! Mくんって、プロの奏者との伝手があるって凄いねー! いいなあ……」

「……お前らはさあ、チャンスをモノにしないんだよ。偶然を偶然で片付けて努力もしない。あの人が指導に来てくれるまで、結構な努力したんだよ、俺は」

 細かい言い回しは違ったかもしれないが、こんな感じのことをM君から言われた。

 このMくんの言葉は、偉そうとか上から目線だとか思う人のいるかもしれない。
 でも、私は「なるほどー……」と思った。

 Mくんだって最初から伝手があるわけではないはずだ。
 プロの方とただ知り合っただけでは、指導をOKしてもらえるはずがない。
 Mくんは「偶然」の出会いを指導してもらえる「機会」として、それをちゃんと行動に移したんだ。

 同い年なのに考え方がこんなに違うんだな、と思った。

 Mくんは女子にすごくモテる人で、でも私は彼に恋愛感情を持つことは全く無かった(←失礼?)けど、彼のトランペットの音色は、行動力のある彼らしく凛として、綺麗で、好きだった。

 高校卒業後、彼は自分でアマチュアの音楽団を立ち上げた。
 この話を聞いた時、相変わらず彼の行動力はすごいなあ、と私は思った。

 それから十年ほど経った頃だろうか。ある地区で開催された音楽祭で彼の楽団の演奏を聴いた。
 高校の頃はハイトーンが上手く決まるのが数回に1回だと悔しがってた彼だったけど、毎回ばっちり決まってた。(10年続けてるから当たり前か…)

 彼のトランペットの音色は、相変わらず凛として綺麗だった。

 その後、彼の楽団の演奏会を知らせるポスターを見かけると、ゲストにプロの奏者を迎えたりしていた。
 あの音色のように、彼らしいなって思った。

 あの時のMくんの言葉は、今もあらゆることに消極的になりがちな私にきっかけを与えてくれている。

 何年か前にあるコンテストに小説を応募した。

 以前なら「どうせ駄目だから」と諦めていたけれど「偶然見かけたこのコンテストに応募しようって行動できるのは自分だけ!」と思って、思い切って応募した。

 結果は落選だったけれど、応募ができたことは大きな一歩だった。

 今もやっぱり、仕事をしていて「私には無理……っ!」と思いがちな私。
  そんな時はMくんのことを思い出すようにしている。

  そして「いやいや、まず行動! 結局はやりたい、やるって努力するのは自分だし!」と日々頑張っている。

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