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短編小説| 逢魔が時

あれはわたしが十五の時でした。

当時のわたしは同級生と比べて小柄なこともあり、年齢よりも幼く見られることがしばしばありました。

その上、精神年齢も幼く、ちょっとしたことにも興味を惹かれ、大層はしゃぐような子供でした。

あの人は近所に住む男性でした。

年齢はそうですね、わたしから見れば十分大人に見えましたが、周りの大人達は男性を「若さん」と呼び、その言い方には子供を揶揄するような響きを感じさせることからも、まだ二十に満たぬくらいであったのかもしれません。


若さんと呼ばれる彼は、少し影のあるような雰囲気を纏い、それがより端正な顔立ちを浮き立たせているようでした。


わたしと彼は、近所という以外、接点になるようなことはなにもありませんでした。

もちろん、わたしは彼のことを知っていました。

彼? いえ、彼はわたしのことなど知りもしなかったでしょう。

せいぜい近所に住む子供というくらいで、他の子供達との見分けはつかなかっただろうと思います。

そうでなければ、わたしはもっと早く彼に近付ける機会を得られていたでしょうから。

それだけ彼はわたしにとって魅力を持っていたのです。


ある日、通りかかった女子学生達が、きゃっきゃきゃっきゃと騒ぎ立てているのを聞いた時は、同じ男としての嫉妬よりも、彼なら当然だと思えたのもなんら不思議なことではありませんでした。


彼は眉間に皺を寄せて嫌悪を示しましたが、わたしはその顔すら美しいと思いました。


わたしと彼が言葉を交わしたのは、ある夕暮れ時のことでした。

通りかかった公園で、彼が地面に目を落とし、きょろきょろと行ったり来たりしている姿を見つけました。

様子からして、なにかを落としたように見えます。

わたしは少し迷った末、思い切って話しかけることにしました。

「なにか落としたんですか」

彼は肩をびくりと震わせたあとで振り返り、そこにいるのが小柄なこどもだと分かるとあからさまにほっとした様子でした。

わたしはもう一度尋ねました。

「なにか、落としたんですか」

彼は一瞬表情を止め、一呼吸遅れて理解でもしたようにぽつりとこう応えました。


「ーーうん、見えなくて」


意図が読めず、わたしの反応も一呼吸遅れました。

しかしすぐに、暗くなってきたから見えない、そう言ったのだろうと思いました。

わたしは聞き方を変えました。


「なにを落としたんですか?」


彼はわたしの足元をじっと見つめたあと、おもむろに顔を上げ、小さな声で言いました。

その声があまりに小さく、わたしは聞き返しました。

それでも聞こえなかったので、わたしは手の平を耳につけて聞こえないという仕草をしました。

彼は悲しげに微笑むのです。

その顔があまりにも悲しげだったので、わたしは不安を覚えました。

よほど大切ななにかを無くしたのだと思いました。

わたしは協力を申し出ました。

彼の役に立てるのなら、これほどうれしいことはありません。

「探すのを手伝います。なにを探せばいいんですか?」



彼は逡巡するように首をぐるりと回しました。

すると突然、彼はにやりと笑いました。ぞくりとするほど奇妙な笑い方でした。


手を伸ばした彼は、なにかを救い上げる仕草をしました。

ビュッと大きな風が吹くと、砂が舞い上がり、わたしは思わず瞼を閉じました。


再び視界がひらけたとき、目の前には、なにか真っ黒い大きなものを抱えている彼の姿がありました。

わたしが言葉を発するより早く、彼が口を開きました。


「これ、これ」


凝視するとそれがなんであるのかが分かりました。

ーー逢魔が時。

それがわたしを狂わせた一刻でした。

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